19.血筋
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「シア大丈夫? ちゃんと冷やした方がいいわ」
「ん、有難うマリ」
殿下のサロンに着きソファへと座れば、マリは魔法で布を濡らし私の頬を冷やしてくれる。水の魔法って便利だなと思いながらも、頬はジンジンと痛む。
「カイ、シアに何があったんだ?」
セバスは珍しく低い声を出した。表情は感情が消えたように冷たく、何だか少しだけ怖い----
「セバス、そんな風に話したらカイだって話せなくなるよ、今のは僕でもちょっときたね。落ち着こうか」
殿下は、お茶の用意を早めるよう侍女へと声をかけた。
「カイもそんな顔しないでさ、どうしてああいう事になったのか教えてよ」
「---- 分かりました。---- 始まりは、ミリヤ嬢がシアの前にいきなり来て騒ぎ出したんです。殿下のサロンに俺達が来ているのを怒っていて、汚い言葉で罵ると、いきなりシアの頬を叩きました。---- 俺は黙っていられなくて、シアを何故叩くか聞いたら、孤児である俺達の存在自体が気に入らないと言われました。シアが自分と同じ光属性だから、余計に気に食わないと---- そしたら俺達の代わりに学園へ退学届を出すって言い始めて、それでシアが怒ってミリヤ嬢に言い返しました」
「ふーん、退学届ね」
カイの拳を握る姿とは反対に、殿下は優雅にお茶を飲み始めた。私は、カイが苦しそうにしている姿を見て、居た堪れない気持ちになる。
------ 私が悪いのに。自分の存在が凄く嫌になる。
私がいなければ、カイはこんなに苦しまなかっただろうし、マリだって気を張らなくて良かったと思う。
どうして---- 私って何なんだろう。
「シア、お前のせいじゃない。あまり自分を責めるな」
セバスは先程の声とは違う声で、私を慰めてくれる。
セバスだって、きっと---- 自分の感情が分からず視界が歪み始めた。
「ミリヤ嬢ね、やっぱり静観は良くなかったかな」
「でも、それ以外何も出来ないわ---- だって相手は貴族だし、殿下に入って貰えないわ」
「僕の従兄弟であるエルンが言ってたんだよね、シアに何かあれば頼れって。神官だけど覚えてる?」
「神官様---- 覚えています。魔力測定の時、何かあれば頼るよう言われました。」
「エルンは、簡単にそういう事言わない人だから、相談しよう。明日直ぐに行こうか。きっとエルンなら良い案を出してくれるんじゃないかな?」
どうしようと、皆の顔を見ていけばマリとカイは頷く仕草をしてくれるが、セバスだけは何か考えているようで、私もはっきり答えが出せない。
自分だけの考えなら、正直学園を辞めるのも一つだと思う。皆には申し訳ないけど、ひっそりと田舎で1人で暮らすのも良いかもしれないと、皆に迷惑を掛ける度に何度も思った。それに---- 自分が何なのか分からず怖いというのもある。だけど知りたい---- あの日から隠さなくてはいけなかった理由を。
知れば、自分の生き方はもちろん、皆へも迷惑を掛けなくて済むかも知れない。
ギュッと制服のスカートを握る。
「殿下---- 私、殿下に話したい事があります。聞いて貰えますか?」
「ちょっ」
「シア」
マリとセバスの声を無視して、私は右手を持ち上げると、殿下へ顔を向けながら手首にある腕輪をゆっくりと抜き取った。殿下は私の姿に驚いたのか、目を大きく見開き、体を前に乗り出すような姿勢をとる。
「殿下---- 私は自分が何なのか知りたいのです。私はタリジア王国を出てから、自分の色を隠してきました。街が焼かれた時、育ててくれた人にこの腕輪を渡され、外すなと言われからです。その人は亡くなってしまい、何故隠さなくてはいけなかったのか、今では分かりません。でも皆には---- この色のせいで迷惑を掛けています。私は何なのか、自分が何か意味を持つのか知りたいのです」
真っ直ぐ殿下を見て話せば、殿下は途中から何か考えるように、目を瞑って最後まで話を聞いてくれた。
殿下は立ち上がると、私の目の前に立ち瞳の色を覗くように顔を近づける。
「凄い---- この色は初めてだな。俺達とはまた違う色だ」
殿下の透き通る金の瞳を間近でみれば、何やら小さな紋章が見える。よく分からないが、神秘的な瞳に吸い込まれそうだ。
「シア、エルンの所には2人で行こう」
私の顔から殿下は顔を離し、皆の顔を順々に見ていく。皆、殿下の計り知れない表情に喉を鳴らし、静かに言葉を待っているようだ。
------ どうして二人なの?
不安だけど--- でも、二人なら皆に迷惑は掛からない。
「今は詳しく話せない。取り敢えず今日は解散しよう、シアだけはここに泊まらせる。皆だけ戻って欲しい」
「殿下、どうしてか教えて頂くのは難しいですか?」
セバスが殿下に聞いても、殿下はゆっくりと首を横に振った。
「大丈夫? 私何だか心配だわ。何でなのかしら----」
「マリ、カイ、セバス。私なら大丈夫だよ。きっと殿下なりの配慮だと思う---- それに、私も今のままは嫌なの。だから不安にならないで」
マリとカイの不安を取り除くように、笑顔を向けて2人と抱き合う。大丈夫だからと繰り返し言えば、2人は何とか頷いてくれた。
「シア、本当に大丈夫なのか? 俺は心配なんだが----」
セバスのこんな表情初めて見た。セバスも不安になるんだ-----
「うん、殿下は私に悪いようにしないでしょ? 大丈夫だよ。帰ってきたら、皆で話そう?」
「------ 分かった。殿下、シアを宜しく頼みます」
「セバスは心配し過ぎだよー。食べたりしないから安心して。じゃあ皆、また後日」
マリはカイに肩を抱かれながら歩き、その後ろにセバスが続く。退室する際、皆私の顔を見てから、後ろ髪を引かれるように出て行った。
パタンと扉が閉まると、殿下に促されてソファへと再び腰を下ろす。
「シア、君は誰に育てられた? 親の名前はわかる?」
「私は、マーサという人に育てられました。親は生まれた時に亡くなったようで、名前は分かりません」
------ マーサの事調べるつもりなのかな?
「そう、それで生まれた時からその色なんだよね? そのマーサには何か言われてない? それか他に何か渡されたりもしてない?」
------ 思い出してみるものの、何も思い浮かばない---
マリから聞いた話でも良いのかな---- ネックレスも渡された物に入るんだろうか?
マーサから受け取ったのは腕輪だけ。
でも、母親の形見だから失くすなって、マーサに小さい頃から言われていたし----
「特に言われた事はありません。ただマリが言うには、マーサが何かあった時、生まれた街から私を出さずに、見守っていて欲しいと言っていたみたいです。後---- 渡された物になるかは分かりませんが、金の腕輪の他にネックレスを失くさないよう言われてました。」
私は腕輪を膝の上に乗せると、首の後ろに手を回しネックレスを外す。
ネックレスのチェーンを手に持てば、透き通った石のペンダントトップがゆらゆらと揺れている。自身の掌に石を乗せて、殿下に見せるよう前に出した。
「これは---- 親の形見? それともマーサの?」
「マーサから、母親の形見と聞いています」
「ちょっと、良く見て良い?」
殿下の出された掌にネックレスを置くと、殿下は難しい顔でネックレスをジッと見つめる。
私は無言のまま殿下の姿を見ていたが、何だか急に不安になり口を開いた。
「何か分かりましたか?」
私の問いは空気の中に溶けていくように、殿下はネックレスを見つめたまま動かない。
------ どうしたんだろう。
不安なまま時間だけが過ぎていき、胸の鼓動が早くなる。
「シア、今は不確定な事は言えない---- でも確かな事があるだ」
喉を鳴らしながら、自分の体に力が入る。早く聞きたいようで、聞きたくない気持ちが合わさりながらも、殿下の口元に目線を集中する。
「シア、君の瞳には紋章が見えた」
「----------」
「シアにもさっき見えたでしょ? 僕の瞳にも小さな紋章があるのを」
私は言葉に出来ないまま、ただ小さく頷く。
「その同じ紋章が、シアにもあったんだよ」
------ どういう事なの?
「---- 紋章で何がわかるのですか?」
「僕と同じ紋章がシアにもある。それは、シアが王族の1人だと示しているんだよ。サリーシャ王国では、髪と瞳が王族の証であるには違いないんだ。僕にもよく仕組みは分からないんだけど---- 他に王族にしか知らない証があって、それがこの瞳の紋章なんだよ。だからシア、君は王族で間違いないんだ」
音を立てて息を吸えば、息の仕方が分からなくなり自分の心臓がドクドクと煩い。
「きっと魔力測定の時、色を隠してたからエルンも気付かなかったんだろう。2属性なのもこれで分かるかも知れない」
------ 私が王族。どうして---- マーサは? マーサは誰なんだろう。何だか凄く怖い----
体の震えを止めるように、自身の体を強く抱きしめた。これからどうなるのだろう-----
「シア、これだけは分かって、王家が君に何かする事は絶対ないから。ただ、シアの両親が誰なのか探さなくていけない。明日、エルンの所へ行ってから詳しく話そう」
「分かりました----- 私、これからどうすれば------」
立ち上がった殿下は、私の横に座り私の肩を抱き寄せる。温かな体温に、少しだけ気持ちが落ち着く。
「シアが王族なら、僕とは家族だ。今まで家族はいなかったんでしょ? 安心して、何があっても家族は守るから。血の繋がりは大切なんだよ」
殿下の言葉に涙が溢れる。
寂しかった訳ではない。前はマーサがいて、今はマリやカイ、セバスも近くにいる。でも、私が誰なのか---- 家族はいるのかいつも不安だった。王族と聞いて怖さはあるけど、自分と同じ血を持つ家族がいるのは初めてだ。殿下から家族と聞いて、喜びが湧き上がる。
私の両親て、一体誰なの-----
私は、近くにある殿下の首元に顔を埋め、涙を流し続けた。




