89:死
まぁ街の方もある程度安定してきたし、ブラックスミスの所に今度こそ行こうかな。何だかんだで寄り道しちゃったし。なんか始めるとついでで作業進めちゃうよね。まぁどうでもいいけど。
というわけで森にダンジョンワープ!した瞬間、八人の視線を浴びた。
え、何これ。軒並みヤバそうなメンツが揃ってんだけど。あ、こないだのリザードマンもいる。ただその時のような軽い雰囲気は纏ってないし、溢れんばかりの殺気を感じるんだけどね。
あ、そうか、これが魔王軍ってやつの幹部か。確かエミリアいわく、
「我ら龍は単体では魔王軍の幹部には及ばぬ。図体のデカさを活かした大音量の音魔法と制空権がなければとっくに負けていたじゃろう」
だったかな?で、そいつらが八人も。やっべぇ負ける。
そんな数瞬の思考も許さず、一人の男が殴りかかってくる。まるで子供の落書きのような笑みを顔に貼り付けて、しかしその拳に無邪気さなど籠っていなかった。
それを僅か数ミリの差で躱すと、地中から生えてきた蔦が体に絡みついてきた。
操っているのは明らかに魔女、と言った風貌の女性。
「あら、あなたが噂の町長さん?よろしくね?まぁ今から死ぬ相手と仲良くしようなんて思わないんだけど♡」
その蔦を解いている間に、赤い獣が襲ってくる。太った猫のようにずんぐりとした体に、狼のように鋭い目と牙、そして爪。
当たれば即死だな、と考えるのと同時に、他の敵の攻撃も例外でないことに思い至る。
体の一部を切り離して囮兼目隠しにしつつ、少し地面に潜る。
いや、ダンジョンワープで逃げてもいいけど、間違えなく魔力の痕跡を追って奴らは街まで辿り着く。それだけは避けなければならない。
ふと、視界の横に赤いものが映る。火……それと、煙?街のある方角だけど、ここから街まではそれなりの距離があるし、見えるはずもない。
そう思ってから気づいた。ここが地球と同じ大きさだと限らないことに。もし地球の数倍大きな星であれば、その分傾斜は緩くなる。
詰まるところ地平線までの距離が長くなり、見える距離も自然と伸びるというわけだ。
そのことから推察できるのは……街が襲撃されているという事実。いくら魔王軍が少数精鋭とはいえ、八人ということはないだろう。幹部でなければいいが、その可能性も捨てきれない。
「全く……街が心配なのは分かりますけど、この状況でよそ見なんてさせないっスよ!」
例のリザードマンが骨の槍から繰り出した突きを、すんでの所で躱す。するとまるで薙刀のように上手く、槍を横移動させて俺を少し切り裂いた。
アドレナリンが出ているせいか、痛みはあまり感じない。
と思った瞬間、俺の胸を一つの拳が貫いた。その人物の顔は、最初すっぽりと被ったフードでよく見えなかった。ただ見えたのは、頬を伝う一粒の涙。
一陣。急に吹いた突風により、その顔が顕になる。詐欺師だった。裏切りかもしれない。だが確かにそいつは泣いていた。泣いていたのだ。
あぁ、あまりにも分からないことが多すぎる。ただ一つはっきり言えること。俺は死ぬ。遍く不確かな事実の中で、ただそれだけを、はっきりと自覚していた。
そうして時は巻き戻り、始まりを迎える。
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いつものような、モニターの浮かんだ暗い部屋。見慣れた一人の白衣の男が、子供のように駄々をこねていた。
「もーまたRTA失敗したー!TASの中では出来たんだけどねー。はぁ、なんで邪神の卵の中から覇龍が出てくるのか……」
……間違えなく拘束神の手違いだ。叱っておかねばならないが、その事を覚えているか分からない。時が巻き戻っているのだ、仕方ない。
「それなら、最初からその魔法具とやらを消してしまえば良いのではないですか?」
そう提案した私の顔を、彼はくまの浮かんだ目でギロリと睨む。
「はぁ……君一周目でも二週目でも同じこと言うね。まぁ純粋なコンピュータだけの処理ならそうすればいいんだけどさ、なまじ一つの世界組み込んじゃってるせいで、どうにもそれが出来ないんだよね。多分【白】と【黒】の干渉だと思うんだけどさ。」
そうか、私は同じことを言っていたのか。やはり機械が混じると思考がループする。規則ができる。それは私が最も嫌うものだと言うのに。
逆巻する世界の中で、また私の意識は薄れゆく。
前話の伏線を今話で回収していくスタイルです。まぁ理由はあれですね、白衣の人が最速目指したせいですね。次週目からもう少しゆっくりになります。




