とある者の創始録
精霊の力、衰えない美しさ、精霊種族の能力特性は人を上回る。それを人は恐れた。
人の美男美女、可愛など精霊と精霊種族の神秘的な美しさ、可憐さの前では霞んでしまう。精霊種族の作り出す物は人の職人を超える性能を有する故に人は彼らを恐れた。差別、迫害。それはわたしたち新たな勇者の征伐によって更に過激さを増し、世界からの根絶を掲げるようになっていった。
わたしは人々の賞賛に酔いしれた。共に戦う――志しを同じくした信頼デキル仲間まで出来た。
そんな時だった彼女と出会ったのは。射干玉の美しい髪。涼やかな瞳。可憐な唇の花の顔とはこのことをいうのだと感じ入った。少し変わった和装の麗しくも凛とした少女だった。
同じ世界、国出身だと気付いた。いや、正しくは良く知っている者だった。行方不明になった同級生。彼女はわたしを見て『天道さん、貴方が何故?』と呟いた。
それは此方も同じだ。わたしは対話を試みた。彼女が行方不明になってからのこと、勇者として召喚されたことを。そして彼女がわたしの討つべき敵である魔王であることを。
彼女の周りには強大な力を持つ精霊がいた。初めから彼女が世界の敵であることが理解出来た。
彼女の正義とわたしたちの正義がぶつかり、わたしたは敗北した。だが疲弊した彼女をわたしを召喚した国の兵士たちが殺めた。
わたしを召喚した国はわたしを利用したのだ。彼女を討つ為に。わたしたは皇女に踊らされていたのだ。
辛うじて生きていたのわたしは精霊を――正しくは精霊石を喰らい生き延びた。わたしを生かしたのはわたしを侵していた精霊と精霊種族の呪いだったのだ。
わたしは化け物となり、嘗ての仲間にも精霊石を喰らわせ、この世界に復讐をしようと誓った。まずはわたしを召喚した国からだ。だが、その国は既に滅びさり、紫電が作り出す幻光が、在りし日の国を映し出していた。
精霊が混じったから解る。あれは滅んだ国の人々の残留思念が作り出している、と。
それからのわたしは〈清浄なる世界の理〉という組織を創立させた。
汚らわしい精霊も精霊種族も他者に寄生するしか能の無い低能無能の有象無象の塵芥を支配し、使えなければ世界の疫病となる前に根絶させる組織。
わたしたちはとある一つの国の王に提案を持ちかけた。わたしに国を譲れと。穏便に懇切丁寧に。だが、愚かにもその国王はわたしの提案を拒絶したのだ。だから殺した。一族諸共に国民の前で。国民に誰が新たな支配者かを理解させるために。彼らは我が理念に従う信徒となった。
天の道とは征くも地獄、戻るも地獄。王道とは綺麗事だ。その後に出来るのは数多の屍の道。血道。屍の山を築く。先達が作り出したその道を歩む。故に地獄だ。勝てば賞賛を得るが、それも過ぎれば呪いとなり、己を焼く。負ければ批難され、それは蓄積され傷となり、怨嗟となる。
故に我は『天道地獄』と名乗ろう。
この世に生きとし生ける全ての者たちよ、我が『天道地獄』に恐れよ、怖れよ、畏れよ。そして頭を垂れ震えよ。
我は『天道地獄』この世を浄化する者。それがこのエストレーヤの新たなる秩序である。正常な純然たる理である。




