三
そうこうしている内に目的地に着いたらしい。厳重なセキュリティのマンション。所謂高級マンションに分類されるのでは…?と思う程に綺麗なマンションだった。駐車場に車を置き久遠と共に中に入った。あまりこういう場所に来たことがない。破壊したことはあるが住んだ事はなかった。組織にいる時は幹部用の部屋があって世話係もいた。ていうか久遠はてっきり大学生かと思っていたが親が金持ちなのか社会人なのか、どちらにしろ生活水準が高そうだ。
「ここが家。1週間くらいは外出は俺同行で。家の中だと自由にしてもらって構わないけど、あっそうだ。これ渡しておくね。」
ガチャりとドアを開け、靴を脱ぎながら久遠は言った。はい、と渡されたのはシルバーチェーンで青いリボンの飾りがついたネックレスだった。突然渡されて疑問しか浮かばない。デザインが随分と可愛らしいな。
「これは何用ですか?」
「一応拘束具?皐月の能力は何時でも発動できちゃうからね。流石に何も無しって訳にもいかなくて。着けられた本人は外せない。着けている間は能力を使うと拘束されるって品物だよ。拘束の解除は俺にしか出来ない。」
「成程。監視のオマケ的なやつですか。とりあえず着けていればいいんですね。」
大人しく着けようとするが髪が邪魔でもたついてしまう。久遠が笑いながら近づいてきて私の手からネックレスを奪いサッと着けてくれた。
「うん。やっぱりそれにして良かった。さぁ、皐月の部屋はこっち。」
久遠の後ろを付いて行くと広めの部屋についた。私の部屋があるのか。何故。中には机、ベット、ソファー等普通の家具が置かれている。準備がいいな。うん。明らかに揃っている。
「前、ここに住んでた人がいたの?」
「いや?」
「………」
つまりこの部屋を私の為だけに…?少なくとも私がこちらに捕まってから3週間ほど。部屋を用意して家具を仕入れて…。幾ら掛かったんだろう。請求されても払える気がしない。元の部屋は悪の組織の建物内にあった為私物は無い。大して大切にしている物もなかったので別にいいが…。
久遠がすることに理解が追いつかなくて固まっていると、彼から声がかかった。
「俺の部屋以外なら自由に過ごしてもらって構わない。何か欲しいものがあればできる限り叶えよう。」
「何故そこまでしてくれるんですか?私は悪人。恨まれる覚えはありますが助けられるような、恩を与えることをした記憶はありません。」
んー、と考えるような素振りを見せては久遠は言う。
「まあまあ。いずれ分かるよ。着替えてもう寝な。明日、朝からして欲しい事があるから。」
誤魔化された。言うつもりはないらしい。久遠はおやすみ、と言って自分の部屋に帰った。
仕方ないので私も慣れない部屋に入る。普通の部屋。クローゼットにも何着か入っていた。ちょっと気持ち悪いかもしれない。久遠の部屋があるだろう方向をじと、と見てしまう。気にしては負けなのかもしれないが何故サイズすら合ってるんだろう。
寝間着であろう服を一着拝借し着替え、ベットに寝転ぶ。うつろうつろと、瞼がゆっくり落ちていく。完全に寝落ちる前に浮かんだのは仲間だった。割と大事だったのかもしれない。
───
起きたら部屋が明るくなっていて朝、というか昼のような気がした。時計を見ると短針が9を指している。
寝過ぎた!とベットから起き上がりサッと髪を整える。部屋にある鏡に映る私は比較的健康そうかもしれない。灰色の髪は鬱陶しい程に長い。切るなと言われたから放置していたが、組織が無くなったのなら切ってもいいかもしれない。
「…おはよう、ございます。」
「はい、おはよう。いやーぐっすりだったね。1回起こしたんだけど起きなかったから。」
「すみません。アラームが欲しいです。」
「それも買いに行こう。朝ご飯食べちゃいなよ。」
部屋から出るとリビングに久遠がいた。申し訳なく感じて控えめに声を掛けるといつもと変わらない声色が聞こえる。机の上に並べられた朝食はパンケーキだった。
…美味しそう。ぐぅとお腹が鳴る。座って、ナイフで切り分けて一口含むと甘くてフワフワで。幸せな味がする。ぱくぱくと夢中で食べていると久遠が見ていた。思わずフォークとナイフを動かす手が止まる。色々聞きたい。けれど答えてくれる気がしないのだ。
「あの。これは聞かない方がいいかと思ったんですが…。」
「何?」
「…何故私のサイズを知ってるんですか?本人びっくりのフィット感です。」
「んー。流石に俺は測ってないよ?看護師さんに教えて貰っただけ。」
「…良かった。久遠が見ただけで人のサイズが分かる系の変態かと思いました。」
「そんな人いるの…!?ていうか言わなかったら問答無用で変態扱いだったの俺。」
「組織にはいましたよ?私はお話した事ないですけど。」
「……あの組織って真面目に世界滅ぼそうとしてる人と、紙一重の人がいるよね。ちなみに皐月はどっち?」
「さぁ…?真面目な人の後を追うように歩いてた人ですね。」
最後の一口をパクリと食べる。今度は久遠から疑いの目を向けられてる気がした。気の所為だと思いたい。
牛乳を飲みながら組織について考えてみる。みんな捕まったのかな?確かに真面目でも変なものを生み出す人は一定数いた。あれは何がそこまで動かしていたのだろうか。正直、理解が追いつかないようなことをする人もいたが、何をしても怒られない雰囲気があったのは事実だ。
部屋に戻り、服を着替えた。外出用の服の中で最も楽そうな白と青のワンピースを選ぶ。
玄関で久遠が待っていた。私を見て、一瞬考えると自分が被っていた帽子を無理やり被せた。
「何するんですか。」
「いや、日焼けするよなって思って。ほら、そういうの気にするべきじゃん皐月の年齢的にも。」
「…組織にいた頃の格好知ってますよね?あれ露出高いんで特に気にしてなかったんですけど。」
「あの服は二度と着るな。ていうか、着させない。」
私の服は組織の服飾?がデザインしていたらしく黒を基準とした悪役っぽい服だった。大人よりも胸や尻の露出は低かったがお腹が出ていたり、デニムのハーフパンツだったりと少し露出があったのだ。
それにしてもこの人。私が外に出たら暴れると思わないのか。まだ出会って3週間。そう、3週間しか経っていないのだ。どこまで信頼を置いていいのか分からない。
外に出て車に向かうまで誰とも会わなかった。今日が何曜日か分からないが誰にも会わないのも不自然である。
考え事をしながら久遠が運転する車に揺られていると目的地に着いたらしい。「降りるよ。」と声をかけられて車から降りると目の前の建物を見てギョッとしてしまった。
「…私今から拷問でも受けるんですか?」
「そんな暴力的じゃないよ。大丈夫。俺に着いてきて。」
笑いながら久遠が歩いて行ってしまった。パタパタと着いて行くが不安しかない。
…大丈夫かな。これ。




