20妖精
ノイスたちが、遠征に向かって行くのを見送って、少し経つ。
魔動物をテーマにしたお話は、いい感じにプロットができつつある。
彼らが留守の間にも依頼は来るので、牽引者として魔動物たちについて行っている。
トラブルはこの町では起こらないと、傭兵の者たちは断言している。
それほど、この傭兵団の発言力が強いとのこと。
街の防衛を担うからこその、強さらしい。
草を食べるところを眺め、彼らが帰還するまでのんびりと待つ中、街の人たちが噂することが耳に入る。
「妖精ですか……」
噂によれば、妖精が近隣の森にいて、街の人たちにイタズラしているとのこと。
その噂は日を経つごとに増えて行く。
それについて、傭兵の方々にも聞き取りをしてみる。
例えば、傭兵で女性の一人に聞いた。
「あの、妖精のこと、お聞きになりましたか」
あまり話したことはなく、世間話程度。
それでも、彼女の意見を聞きたくて頑張って話しかけた。
コミニュケーション不足がここに来て、たたっている。
「ん?ああ。例の噂ね。知ってるよ。えーっとアタシが聞いたのはかまどの火を消されたとか、窓が開いていたとか、事件にもならないやつかな」
こちらのいきなりの質問にも、難なく答えてくれた。
この人、いい人。
うるっときた。
ヒノメールの人間関係を紐解けば、人ならずの者もそこそこいる。
つまり、人でなし。
泣ける。
「どう思いますか。脅威という程じゃありませんよね」
「んー。妖精とか全く、予備知識ないからな。なんとも言えないよ」
お手上げだと言って、手をひらひらさせる。
「解決するしないという問題でもなさそうですか?私の住んでいたところで妖精といった存在などいなかったので、みんなさんの感覚がよく分からないんですよねぇ」
頬に手をやり、うっそりと笑う。
「ああ!なるほどな。アタシも知らないんだよね。爺さんたちとかなら知ってるかもな。むかーし、なんか妖精の話があったとか聞いたことある。でも、子どもだったから聞き流してた」
苦笑して、事実をいう。
知らなかったのは聞いてなかったということか。
「では、聞き取りしてみますね」
ということは、ヒノメールが一番聞いた方が直接知れるということだ。
「やけに張り切ってるな?どうしたんだ」
「え?えっと、その妖精って、昔私が大好きだった絵本に出てきたんです。会うの……憧れで」
デレデレと頬を赤く染める。
「へーえ。軍妃、やっぱかわいーな」
「いや、ですからアレはその場の演技でして」
こちらが今度は苦笑。
「知ってるって。すごいよな。私らは正真正銘、傭兵だからこうなんだけど、アンタは生粋の貴族で一般人なのに、よくあれだけ立ち回れたなぁ。うちの傭兵長にあそこまで啖呵切れるやつなんて早々いないんだよね。あ、褒めてるから安心して」
途中から、怒られているのか、これから怒られるのかとビクッとしたが、どうやらそうではなかったらしく安堵。
「可愛いなんて、この歳になれば言われなくなる言葉ですよ。ふふ、ありがとうございます。あなたもお可愛らしいです。キッチンにある、花の柄の茶器はあなたの私物ですよね?あの茶器の模様がとても可愛らくして、聞いてみたかったんです」
「お、知ってたか。アタシのだよ。あの茶器の花柄に注目するなんて、話分かるじゃん」
ヒノメールは女性と話し込んで、妖精の話はそっちのけになった。
話しが終わると、早速街に妖精の話を聞きに行くことにした。
今日のお供は魔リス。
魔リスは、土に魔力を固めたものを埋める習性がある。
それは習性ゆえに、なにか重い理由があるというわけではない。
強いて言えば、いざという時取り出せるというところだ。
肩に乗るこの子と共に、街中で聞き込みを開始。
魔リスのおかげで、可愛いという言葉を皮切りに進む。
「うちは、子供が泣いたと思ったらおやつを取られたなんて言うのよ」
小さなことから。
「うちは酒瓶がなくなって、父ちゃんが怒ってね」
なくなると少し困ることまで。
今の所、大きな大きな出来事は起こってない。
「目的なんてないのかしら」
「キュイ」
言葉がわかっているらしく、魔リスは答える。
魔リスに関してはうちで飼育していたという経緯ではなく、いつの間にか魔動物たちの中に混ざっていた。
毎日餌が与えられるので、ここにいれば探しに行かなくても済む、ということを理解して、居着いたと思われる。
「地域の人たちはそこまで困ってなさそう」
まるで、野良猫みたいで微笑ましくなった。
魔リスは妖精の居場所が分かるらしく、尻尾で場所を示してくれる。
ふさっふさでヒノメールの首は幸せに包まれる。
ずっとフサフサされたい。
どこにいるのだろうと思っていると、傭兵団の宿に出戻った。
首をかしげ、魔リスに再度確認を頼んでもここだと示される。
解像度が高いのだと、胸を張っている動物に苦笑を向ける。
解像度とはなんなのか知らなかったが、ノイスたちはその言葉を知っていた。
そこから言葉をよく好むようになった。
言葉を話すのではなく、文字を指差すのだ。
言葉は書けずとも、文字は読めるのが今の所魔動物たちの分かっている、生体の一つ。
そこもまた魔動物たちによって個人差はあるけど。
ヒノメールたちは妖精を探して中に入る。
男性寮側にいるらしく、やり難い。
色々考えていたら、男子寮の管理人である人が話しかけてくる。
どうしたのだと聞かれて、言葉に詰まる。
どうすれば信じてもらえるのだろう?
妖精と言って信じてもらえるのか。
悩んでいる間にも焦っていく。
「あの、あの、そ、の、この子が。この子は魔リスといって、魔動物なのですが」
「ああ。うん。知ってるよ」
「妖精がこの男性寮にいるというので、ここまで来ました」
「妖精?今噂になってるねぇ」
はい、とうなずき妖精探知云々の説明を交え、共についてきてもらうことを頼む。
「うーん。よし、分かった」
(ええ)
「分かったのですか?」
「うんうん。ついて行くよ。面白そうだし」
結構若めの男性なのだが、好奇心で目を揺らしている。
「よろしくお願いします。では、案内しますね」
緊張に緊張を重ねて、体が硬くなる。
魔リスだけはいつもの状態で、キュッフと鳴く。
「すごいな。妖精を探せるということは、独自の生体反応を見れるってことだね」
「そうなのですか?それは知りませんでした」
訊ねると、そうなんだよと色々解説してくれる。
かなり知識が豊富なようだ。
長年共にいたけれど、そういうことは考えたことは無かった。
魔リスが示した場所はお風呂場だった。
そこに自分は行けない。
赤面して後ずさる。
さすがに無理だ。
「あはは、僕が行くよ」
管理人が自発的に言ってくれた。
助かったとホッとした。
「おー。これはびっくり」
直ぐに戻ってきた彼は少し嬉しそうに教えてくれたことは、お風呂場の石鹸が地面に、円状に並べられていたのだという。
「地味ですね」
もっとなにか、大掛かりなことが起こっているのかと思った。
肩を落とした。
わざわざ寮に入ってまで、探しに行くことでもなかった。
溜め息を吐き、帰ることを告げる。
そんなことない、楽しかったよとはしゃぐ相手。
男の人が、嬉しそうな感覚は分からなかったので、速やかに外に出た。
やはり地味なのが、堪える。
男性お風呂場にまで来たのに。
(探すのはやめよう)
このままでは、ずっとこんな感じに事件にもならないことで時間を取られてしまいかねない。




