第19話【ポム吉】
既に金箔した空気になっていた。ゼウスが奴隷を演じるアマノを怪しんでおり、アマノは刀を抜いて攻撃しようとしていた。
「あー!君僕らのとこの奴隷じゃない!?」
だが、ロキが思い出したかのようにアマノに向かって来た。アマノは、慌てて刀を隠すように仕舞い込む。
「何だ。お前のとこか」
「うん。誰の奴隷だったか覚えてないけど、可愛いから覚えたんだ。子供の方は酷い傷だね~。すぐに手当してあげるからね」
「あっ……ありがとうございます」
アマノは、何が何だか分からなかったが、ロキが自分を奴隷だと勘違いしてくれたことに一安心した。
「ごめんゼウス君、僕彼女を地上に連れてくね。子供の手当も必要だし」
「ああ。他は儂らですましとく」
「どもー」
*
地下の中にある海の上で、アマノはロキに貰った医療品でジャックの手当を行った。ロキは、そんなアマノの方をじーっと見ている。
「デモ.ゴルゴンの情報を探りに来たの?」
ロキは、飄々とした口調で尋ねる。しかし、アマノは惚けた様子で首を傾げた。
「何のことですか?」
「誤魔化さなくていいよ。魔女の子アマノと人間ジャック」
アマノは驚いたように目を見開き、ゆっくりとロキを横目で見た。
「気付いてなぜ庇ったの?」
「そうだよ」
「何を企んでいる?」
「今は謎を明かしたい。例えば、デモ.ゴルゴンは何者だったのか……とか。知ってたら教えてくれない?」
「私も知らない。ただ強いってことしか」
「ふ~ん……まあいいや。ともかくあまり首を突っ込まないことだね。大人しく下界で隠れてな」
「私は魔王を殺していないし、天.シックスに関しては向こうから仕掛けてきた」
「だろうね。いくら君でも魔王を倒すのは無理でしょ。どうせ魔王を倒したのはデモ.ゴルゴンでしょ?まあどっちにせよ、昔君が神を殺した事実は変わらない。皆何かと理由を付けて君を悪くするよ」
アマノの表情が不機嫌になり始めた。ロキもそれに気づき、少し警戒したかのように座る態勢を変える。陸地が見え始め、海が不思議と黒く見えた。ロキから見た海は、アマノの心の中そのものだ
「神殺しなんてたくさん居るわ……ゼウスだって貴方だって……同じ殺しになぜ善悪を付けるの?」
「殺した相手が敵だったから。君が殺したのは自分の師匠だったね?」
「でも悪いのは彼よ。私は正当防衛だった……誰も私の話を聞いてくれなかった」
「それは君が魔女の子だから。周りと違うから人より苦労するのは当然だし、誰も信じてくれないのも当然。理解が足りないままこの世界に来た君が悪いよ」
「理不尽……」
「理不尽だよ。どの世界も理不尽で不平等……それが当然のルール。その理不尽の上で生きていかなきゃダメだよ。僕も次君を神界や天界で見かけたら、容赦なく殺すからね。ほら、陸に着いた……行きな」
「ふんっ、どうも」
アマノは、苛立ちの目でロキを見下ろし、気に食わない表情のままジャックを抱えてボートを降りた。ロキは困ったように笑い、少し疲れた表情で海を見た。
*
パーティー会場のすぐ真下まで来ると、気絶していたジャックが目を覚ました。
「ここは?」
「おはようジャック。さっきは殴られてくれありがとうね」
アマノは、申し訳なさそうにジャックの頭を撫でるように軽く触った。
「うん。ちょっとびっくりした」
「あの後なんやかんやで助かったよ。取り合えずこのままこの会場を抜け出して帰りましょ」
「うん」
二人は、ワイン倉庫から出て、パーティードレスを着たまま何食わぬ顔で会場を出ようとした。だが、扉を開けて出ようとしたその時、ジャックは目の前の男にぶっつかって尻もちを着いた。
「すみません!よそ見してまし……え?」
「なっ!?お前……」
ジャックがぶつかった相手はアイムだ。パーティースーツを着ており、悪魔だとバレないよう最善を尽くしている様子だ。それを見たアマノは、すぐにジャックとアイムを引っ張って会場を出た。
「何で居る?」
「こっちのセリフだ」
「まさか貴方もニュースを見て?」
アイムは、一瞬目を逸らし、すぐに首を縦に振った。
「私達も」
「やっぱここが怪しいよな。主神会議する場所ならここだと感づいたんだろ?」
「ここで会議していたわ。けど、もう会議は終わりそうだった」
「どうだった?デモは死んだのか?石の欠片とは何なんだ?」
アマノは、地下で聞いた情報を全てアイムに話した。
「じゃあデモが死はほぼ確定か……信じられないけど」
「石の欠片、これがかなり危なそう。一つに最高神一人分の魔力、それが見つかってるだけでも17個。独り占めする者が現れてもおかしくない。今神界にあるどの魔道具や神器よりも凶器になる」
「取り合えずデモに繋がる物なのは確かだ。神々に取られるのは尺だ。見つけたら俺にも教えろ。勿論俺も見つけたら教える。俺達はただでさえ味方が居ないんだ。仲間ではないが、できる範囲で協力した方がいい」
「そうね」
「情報助かった」
アイムは、そう言って下界へ繋がる扉を出現させ、その中に姿を消した。アマノも追いかけるように下界への扉を出現させる。その時、ジャックの目の前に何かが落ちた。それは、微かに輝く白い石の欠片だった。
「これって……」
「ジャック何してるの?早く」
「えっ?あっ……うん」
ジャックは、慌てて上をきょろきょろ見渡すが、上空には何にも見えない。近くに建物や神々は居るが、誰もジャックを見ていない。不思議に思いながら、下界への扉を潜った。
「ケッケッケ、俺が持ってたとこでいずれサタンにバレるだろうし、奴らに持たせた方が面白い。こんな危ない欠片が何個もある。この欠片を巡って戦いが起きるのは時間の問題だな」
少し離れた場所で、ジャックを見ていた男――クルーニャがニヤッと笑っている。その表情は、今のジャックを楽しんでいるというより、これから起きることを考えて楽しんでいるようだ。
*
ジャックは下界に戻り、森の中に入ってから慌てたようにアマノに白の欠片を見せた。
「さっき落ちてきた!上から落ちてきたんだよ!ほらこれ!欠片だよ!主神達が持ってたのと同じ!」
「嘘。落ちてきたって……神界で?」
「うん」
アマノは、疑うような表情で目を細め、恐る恐る欠片を受け取る。そして、手の平に出現させた魔法陣の中に入れ、探るように欠片を見つめている。
「何してるの?」
「罠じゃないか確かめてる。トラップ魔法とか呪い掛かっていないか」
「大丈夫そう?」
「いっ!?」
ジャックがアマノの顔を伺ったその時、アマノは反射的に目を抑え、持っていた欠片を落としてしまう。
「大丈夫!?」
「だいじょばない……目が痛い……目が開けれない」
目を抑えたままのアマノは、少し離れた椅子までよろめきながら歩く。ジャックは、落ちた欠片を摘まむように持ち、駆け足でアマノの方に行く。しかし、摘まんでいる指の感覚が変化した。
「痛いよ!頭ちぎれちゃうよ!」
「えっ?」
摘まんでいたはずの欠片が、サッカーボールくらいのぬいぐるみになっていた。しかもそのぬいぐるみは当然のように喋り、じたばたと動いてる。
「うわぁ!?何だお前!」
「ほわっ!?」
ジャックは、慌ててぬいぐるみを手放し、警戒するように神器を構える。ぬいぐるみは、普通に頭から落ち、ポンッと跳ねる。
「白い犬のぬいぐるみか?魔法で動いてるのか?」
「犬じゃなくて熊だよ!」
「かっ、欠片はどこやった?」
「これ?」
シロクマのぬいぐるみは、可愛らしい声とバカっぽい仕草で、手に持っている欠片を見せた。
「どうしたのジャック?」
目を痛めているアマノには、ジャックが何に驚いているのかよく分からない。
「熊のぬいぐるみがいきなり現れて!なんか怪しいんだ!」
「まさかジャック、ぬいぐるみが欲しいの?」
「違うって!突然現れた熊のぬいぐるみが動いてるんだよ!」
「よくわからないから後で聞かせて」
ジャックが必至に説明するも、アマノには本気にされずに聞き流されてしまう。困ったジャックは、神器を構えたまま一歩後ずさりをする。
「どこから現れた?」
「どこ?僕もわかんないや」
「お前は誰だ?名前は?」
「僕は僕だよ」
「惚けやがって」
「照れちゃう!」
「とにかく持っている欠片をその場に置いて離れろ」
「分かったよ」
ぬいぐるみは、その場に欠片を置き、アマノの居る方へてこてこと歩いていく。その後ろ姿を見たジャックは、欠片を拾って素早くぬいぐるみを切り裂いた。
「ほわあ~」
ぬいぐるみは真っ二つになり、その場に倒れる。一安心したジャックは、ぬいぐるみの上半身を摘まみ、不思議そうに首を傾げる。
「照れちゃう!」
「えっ?」
だが、ぬいぐるみは当然のように生きており、ジャックの背筋を凍らせた。反射的にぬいぐるみを手放したジャックは、冷や汗をかいたままアマノの居る場所まで下がる。それと同時に、ぬいぐるみの体は魔法のようにくっ付き、何事もなかったかのように歩き始めた。
「アマノやばい!」
ジャックは、目を痛めてるアマノの前に立ってぬいぐるみを警戒するが、ぬいぐるみは赤ん坊のように椅子に上り、テーブルに並んでるパンやケーキに手を付けた。
「むしゃむしゃ……うまい!」
「とっ、突然現れてビビッてたけど……害はないのか?」
ジャックは、恐る恐るぬいぐるみを持ち上げ、ゆっくりと顔を合わせる。ぬいぐるみは可愛らしく微笑んでおり、「照れちゃう」という言葉を連呼している。
「へっ、へへっ。こう見たら普通に可愛いかも……」
ジャックは、苦笑いでぬいぐるみを撫でる。ぬいぐるみは再び照れており、ご機嫌そうだ。
「見ていなかったけど、もしかして欠片から現れたのか?お前は?」
「分からないよ。僕昔のこと覚えれない」
「お前ってバカなのか?」
「照れちゃう」
ジャックがぬいぐるみと話しをしていると、アマノが赤くなった目をゆっくりと見開き、薄い目でジャックとぬいぐるみを見た。
「何それ?」
「喋るぬいぐるみ。魔法か何かしらないけど、こいつには命があるみたい。恐らく欠片から現れた。もしかしたら欠片との関係があるかも」
「ならここに置いときましょ。欠片との関係がある可能性があるなら手放す訳にはいかないわ」
「……こいつの名前どうする?」
「うーん、そうね~」
アマノは疲れた目を擦り、ぬいぐるみを持ち上げて顔を合わせた。柔らかい体をポムポム触り、頭を軽く撫でる。
「じゃあ、ポム吉……これが貴方の名前」
「名前っ?美味しい?」
「呼び名のこと。私はアマノ、隣の彼はジャック。今日からよろしく」
「照れちゃう!名前ありがとうアマノ!」
「どういたしまして」
ぬいぐるみ――ポム吉は露骨に喜び、足をばたつかせてアマノの胸に飛び込んだ。アマノは、甘えるポム吉を見て、優しく撫でようとする。
「ペチャッ」
「えっ?」
しかし、ポム吉の一言でアマノの表情と動きが止まった。ジャックは唾を飲み込み、恐る恐る横目でアマノの顔色を伺う。
ジャックの予想通り、アマノの表情は深く、嫌悪と怒りに染まってる。
「ペチャペチャ!」
ポム吉は、アマノの小さな胸に顔をこすり付けており、たくさん照れちゃうしている。ジャックは一瞬にして悟る。ポム吉はバカなんだと。
そして、アマノはポム吉をワイヤーで縛り、一瞬にしてバラバラに細切れにする。
「ほわぁ~」
「このエロ吉……」
「照れちゃう」
細切れになったポム吉は、再び体が再生して元に戻る。




