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ミトロジア ~明日雨が晴れたなら歴史をやり直してみようか~  作者: ビタードール
一部】四章【伽藍洞な希望に終止符を】
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第5話【生活の終わり】

 ローガンとの生活が始まって一か月、そしてジャックが戦士団に入団して一週間が経つ。


「おい!早まるな!」

「止まれジャック!」


 ジャックはローガンチームの輪を乱していた。事件が起きると、ジャックは決まって一人突っ走る。そして、チームワークを取ろうとせず、一人で物事を片付ける。結果的に問題ないのだが、ローガンチームはこれに頭を抱えていた。


「もう俺一人のチーム作ってくれ。絶対俺一人の方が効率いいし、皆だって俺が居ない方がいいだろ?」


 ジャックの言葉に、チームの皆が目を逸らして(確かにそうだけど)と言わんばかりの表情を浮かべる。だが、ローガンだけは真っすぐジャックのことを見て、目線を合わせるようにしゃがみこんだ。


「確かにお前の言う通りだ。その方が効率がいいし、多くの事件や敵に対応できる」

「なら尚更……」

「それでも今はチームワークを大事にするんだ」

「なぜ?」

「俺達はただの戦士ではない。戦士団だ。チームで動く組織だ」

「……」

「今は一人で何とかなるかもしれない。でも、何れ一人じゃどうしようもない時が来る。その時チームワークを大事にし、仲間と戦えるように訓練が必ず役に立つ」

「関係ないな……俺には……」

「ジャック!」


 そっぽ向くジャックに対し、ローガンは声を荒げて強く肩を掴む。


「……」


 ローガンが真っすぐ目を向ける中、ジャックは目線を合わせずいじけた子供のような表情をする。そして、ローガンの腕を振り払って羽根を広げどこかに飛んで行ってしまう。


 * * *


 その日の夜。

 ジャックは時間と空の明るさを見て、憂鬱そうにしてローガンの家に帰った。昼間のこともあって、家に入るのは気が引ける。


「……」


 玄関のドアをゆっくり開ける。そして、壁に掛けてあるジャック、ローズ、ポム吉、ローガンと書かれてる札を裏返しにする。

 ポム吉以外の札は全て裏返しになっている。


「ローガンとローズは家に居るのか……あのバカ熊はどうせナンパでもしてんだろうな」

「馬鹿野郎!!」

「ッ?」


 ジャックが少しだるそうに独り言を言ってると、家の奥から大きな物音とローガンの怒鳴るような声が聞こえた。ジャックは不思議に思いながらも、恐る恐る家の奥へと進み、明かりのついてる大きめの部屋を覗き込む。


「ッ!?」


 部屋の机や食器がひっくり返っていた。そして、ローズは涙を流して頬を抑えており、ローガンは怒った様子で仁王立ちし、拳を強く握っている。


「このくらい許してくれてもいいじゃん……」

「……」

「ローガンなんて大嫌い!!」


 何があったか分からないが、ローズは鼻と耳を真っ赤にし、涙と鼻水を流してジャックの肩を吹き飛ばす勢いで走り去って行った。


「おい!待てローズ!」


 引き留めようとローズの手を掴むジャック。だが、ローズは一瞬ジャックの顔を見て、すぐに手を振り払って羽根を広げて家を出て行った。


「何があった?」


 ジャックは暗い目でローガンを睨むように見上げる。


「……」

「何をしたんだ?ローズに」

「ぶった」


 下を向いて呟くように答えるローガン。それを聞いたジャックは、間髪入れずにローガンを殴り飛ばした。


「だと思ったよ。どうせ出会った頃のようにすぐに手を出したんだろ?」


 拳を強く握るジャックは、テーブルに片足を乗せて壁によしかかるローガンを睨むように見下ろす。そんな中、ローガンは何も言わず自分の機械の片腕を抑えた。


「ローズはまだ五歳だぞ?手を出さなくても言葉で言えばいいじゃねえか」

「また盗みを働いたらしい。俺の誕生日プレゼントだと言って盗んだ金で買ってきた」

「だからって手出していいのかよ」

「……」

「頭冷やしやがれ」


 以前変わりなく怒った様子のジャックは、羽根を広げて外に飛び立つ。


「ほわっ!」


 そんなジャックの突風に吹き飛ばされたのは、帰って来たばかりのポム吉だ。ジャックを不思議そうに見ながらも、玄関にかけてある自分の名前の札を裏返し、「照れちゃう」と言いながらローガンの居る部屋にやってくる。


「あれ?僕の分のご飯は?」

「……」

「ローガン?」

「俺の右手は盗みをした罰として取られた」


 痛みを思い出したかのように、静まり返った部屋でボソッと話すローガン。


「しょんな!ひどすぎる!」


 それに対し、ポム吉は空気も読めずいつものテンションで返答した。


「言葉による説教は苦手だ」

「なんで?」

「使う言葉によっては永遠に残る傷になるからな」

「ローガンの腕も言葉によって斬られたの?」

「……」

「でも、言葉によって生かされることもあるよ!」


 ローガンと真逆のことを言うポム吉。その言葉には妙に説得力があり、心当たりのある言い方だった。


「そうなのか?」

「うん!ジャックはアマノの言葉がなかったら死んでいた!」

「アマノ?」

「ジャックの師匠で、僕の恋人みたいな女神様だよ!」


 と照れながら言うポム吉の話をローガンは真剣に聞いている。


「……その女神様は、ジャックにどんな言葉を?」

「う~ん。忘れたけど、アマノにとってジャックは希望らしいよ!」

「……女神様は今どこに?」

「ここ!」


 ポム吉が指差したのは、自分の胸だった。人間や神でいう心臓の位置だろう。それを見て、ローガンは立ち直ったように微笑み、何かを思い出したのように立ち上がる。


「お前の言う通りだ。言葉は人を生かす。言葉を恐れている俺がバカだった。ジャックとローズを探し、皆で夕食にしよう」

「おう!」

「じゃあ、手分けして探すぞ」


 * * *


 ローズは教会のような場所で一人メソメソと泣いていた。


「居た」


 そんな小さな声と共に、誰かがローズの隣に座った。きっとジャックかローガンだろう……そう思ったローズは顔を伏せたまま泣いている。


「え?」

「返してもらおうか。私のお金」


 しかし、違った。

 隣に座っていたのはローズに盗まれたお金を取り返しに来た女だ。その女は、軍帽のような帽子、サファイアのような澄んだ青の瞳、片目を隠す眼帯、枯れた白い肌、宝石のような透明感がある。


「も……持ってない。全部使っちゃった」


 驚いたように席を立ち、後退りをするローズ。涙目のまま、訳の分からないまま申し訳なさそうに顔色を伺う。


「なら、返さなくていい」

「え?いいの?」

「貴方名前は?」

「ろ、ローズ」

「ローズ、貴方は私のお金を使ってしまった」

「……」

「ローズはお金になりそうだ」


 女の眼帯から流れるように、真っ白な枯れた肌にヒビが入る。同時に、女の体とその周りが歪み、近くの机や床も歪んだ。


「ッ!」

「ローズ確保」


 歪みが止まったかと思いきや、一瞬にして机と床がローズを囲う鳥かごになった。歪みの影響で大きく見える女は、大きく歪んだ手でその鳥かごを包むように触り、片方の瞳で覗き込むようにローズを見ている。得体の知れないその女は、ローズにとってかなり不気味だった。


「ちょっと!!」

「ローズは珍しい種族だ。同族……私とローズ」


 女が目を細めてニタリと笑う。その笑みは絵画のようで、生物のようには見えない気色の悪さがある。だが、その女の笑みを飛んで来た一本の剣が止める。


「そこまでだ!」

「……誰?禿のおっさん」

「戦士団団長ローガン。ローズの親だ」


 そこに息を切らせて来たのは、剣を持ったローガンだ。状況を理解したように、静かに戦闘態勢を取っている。


「ローズは私のお金だ。私のお金を盗んだ悪い子だ。だから私の物だ」

「金は返す。だからローズを離せ」

「お金は要らない。それにローガン……貴方もだ」


 女の体が音を立てて歪んだ。かと思えば、その体は複数の残像を残して瞬間移動した。まるで、バグったテレビのように。


「……」


 それも、瞬間移動した先はローガンの背後だ。


「ッ!」

「止めるんだ。おっさんやるじゃん」


 間一髪、攻撃を受け止めたローガンだが、女は再び歪み、音を立てて姿を消す。


「何だこいつは!?」

「はっ!ローガン後ろ!!!」

「ッ!?」


 しかし、安心したのも束の間。女はローガンの背後にベッタリくっ付いた形で姿を現し、手刀でローガンの胸を深く貫いた。


「がはっ!」

「ローガン!!!」

「くっ!!」


 血を吐くローガンは、崩れかけた足を抑え、その場で歯を食いしばって踏ん張る。しかし、女が手刀をゆっくりと楽しむように下ろした。

 強靭なローガンの体は鎧もろとも豆腐のように斬れ、雑に裂かれてその場に崩れ落ちた。

 五歳の女の子が見るには、余りにも惨たらしく残酷な光景だ。


「ろっ……ローズ……」


 ローズは初めて人の死に触れた。それも突然、最後の言葉もなく、拍子抜けな程呆気ない死だった。涙と血を流して倒れるローガンは、女にゴミのように踏み付けられる。


「フフフッ……フフフッ……。ローズ、見えているか?ローズの盗み、それが親を殺した。この先、いくらでも後悔するといい……命は戻ってこない。お金と違って……ね」


 女の周りが歪んだと思えば、次はローズが瞬間移動した。女の手元に引き寄せられ、その手元が歪んでいく。すると、ローズは鳥かごに掴まったまま手の平サイズになってしまう。それを捕まえた鳥でも見るような目で見る女。女は、ローガンをカメラでパシャっと撮って寂しそうな表情でしばらく見る。


「さっきまで動いてた。不思議……ねぇ?ローズ」


 ローズは虚ろな目で縋るように鉄格子を掴んでいる。そんなローズを小指で撫でる女は、静かに教会の扉を開き、丁寧にドアを閉めてその場を立ち去った。

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