第13話【魂奪還】後編
アマノを追っていた神々は、アマノが転移魔法で逃げたと同時に、圧倒的火力の魔法を食らった。デモが放った光により、神々が気絶した状態で天界の床をすり抜け、下界へと落ちていく。
その状況に、その場に居合わせていた全員が驚いていた。
「今のは?」
「感じた気配が間違えじゃなければ……神や天使が人間になったように見えた」
神々が慌てふためく中、アマノが体を透明にしてデモの前に現れた。
「援護ありがと。けど、最後の魔法はもっと派手でよかったよ」
アマノは、天界に来る前と違い、少し落ち着いているように見える。だが、デモの表情を見て、再び表情が変わった。
「誰だ?」
デモは、今まで見たことない驚きの表情を浮かべ、深刻そうに自分の唇を舐めた。自分に放った魔法に驚いているようには見えない。
「どうしたの?」
「魔法が止められた」
「いや、当たっていたけど……」
「本当はこれの二倍は被害を与えていたんだ。明らかに半分防いだ奴が居るんだよ」
デモは、ゆっくりと柔らかい表情を取り戻し、困ったようにアマノに微笑みを向けた。
「まあ……いいか……ちょっと気になるけどね」
「数人で止めたんじゃない?」
「いや、あの一瞬で連携は組めない。恐らくとっても強い子が一人紛れていたね」
デモは、少し腑に落ちなかったが、アマノと共に転移魔法で天界を去った。
*
天界のとある場所では、被害を受けた神々や天使達が建物の修復作業や怪我人の手当てを行っていた。ジィジを地獄行きに提案した男――エアードは、そんな様子を高い場所から見下ろしていた。
「失敗か……成功したらそれなりの地位と名誉が貰えていたのに……やっぱ皆無能だったな」
不満そうにし、大きなため息を付いた。しかし、ゆっくりと前に現れたボロボロの人間の子供――ジャックを見て、目を見開いた。
「嘘だろ?人間の子供……ラッキー!しかも見た感じ重症じゃねえか!」
「お前だな?ジィジを地獄行きに提案したのは?」
ジャックは、飛び跳ねて喜ぶエアードの少し離れた場所に座り、エアードを冷たい目で見下ろした。
「そうだ!悔しいかガキ!お前のご主人様はお前以上に悔しがっていたぞ!あの姿を思い出すだけで笑いがこみ上げてしまうんだよ!散々やられて何も出来ないあの無力で愚かな姿!こういうのを傑作と言うのかな?ははははは!」
エアードは、分かりやすい程、清々しくジャックを挑発する。だが、ジャックは一歩も動かず、ただただ冷たい目を向けるだけだった。痺れを切らせたエアードは、ジャックが反応出来ない速度で動き、素早くジャックの首を掴んだ。
「逃げれなかったなぁ……その無力さ……魔女の子そっくりだぞ」
エアードはニヤッと笑い、徐々に力を強める。ジャックは、依然抵抗の素振りを見せない。
「地獄の門番アバドンよ……地獄の門よ今開け」
ジャックが呪文のように言葉を発した途端、エアードの背後に巨大な門が現れた。血のように真っ赤で、鉄以上に硬い門がどっしりとある。そして、その門の扉がゆっくりと開かれ、強風と共にエアードが門の中に引きずり込まれた。
「何!?召喚魔法だと!?バカな!?」
エアードは、手から出した鞭を建物に引っ掛けて堪える。だが、門の中に引きずり込まれるのは時間の問題だ。
「助けてくれ!俺はお前達に恨みなんてない!ただ有名になりたかっただけなんだ!助けてくれたら何でもする!だから頼む!助けてくれ!」
エアードが必死に助けを求めるが、ジャックはエアードの方すら見ず、黄昏れたように知らんぷりしている。
「おい!聞いているのか!頼む!俺が間違っていた!本当に申し訳ない!一生あんたに尽くすから!だからお願いだあぁ!」
エアードは絶望の涙を流し、必死で鞭を掴んでいる。そして、ため息を付いたジャックは、やっとエアードと目を合わせた。
「散々やられて何も出来ない無力で愚かな姿……確かに傑作だな」
ジャックは、左手をエアードに向け、グッと手を握った。同時に、エアードは門の中に引きずり込まれ、扉がゆっくりと閉まった。
「この!クソガキがああああああああぁぁぁ!!」
エアードの断末魔を聞いていたジャックは、薄い笑みを浮かべているように見える。そして、黒い羽根を広げ、すっきりした様子でその場を去って行った。
そんなジャックを、一人の男が静かに見ていた。
「最上級魔法の一つ、『地獄門の召喚』を使えるのか。確か契約しなければ得られない技だし、代償が大きいとも聞いたんだがな。奴は人間だから、それを良いことに血でも提供したのかな?まあいい……少しづつ攻略し、じっくり楽しもう」
飛んで行くジャックを見ていた男は、ジャックよりも薄い笑顔で、ニヤッと笑う。
*
ジャックは、アマノとデモの元に戻り、怪我の治療をしてもらっていた。アマノは、いつもの冷静さと穏やかさを取り戻していた。ジャックはそんなアマノを見て、安心したように深く息を吐く。
「今回は助かったわ。おかげでジィジが無事成仏できる」
「……実は、サタンが手伝ってくれたんだ。敵を倒すのも、魂を天国に返すのも」
「そう……。なら、あの時逃げられて正解だったわね」
「うん。もう敵対する理由はないって言ってたし」
デモは、そんな二人から少し離れた場所で、考え込むように紅茶を飲んでいる。まるで、まだ何か引きずっているような顔だ。
*
ジャックはアマノの目を盗み、デモと二人で森の外で遊んでいた。木の上に座り、チェスをしている。そのチェス台と駒は、重力を逆らって浮いている。
「アマノを助けた時の話して」
何の前ぶりもなく、ジャックがデモの目を見て言った。
「どういうこと?」
「一度助けた命を死に追いやりたくない……そう言ってたろ?アマノは冷静さを失って気付いてなかったけど、デモは天.シックスの件じゃないと言った。じゃあ、いつ助けたんだ?最初に対峙した時に命を取らなかったことか?」
「君はよく見てるんだね。いいよ、特別に話してあげる。20年前のことをね」
*
今から20年前の話。
魔女と鬼の禁断の恋。そんな二人から生まれた女の子は、鬼にも魔女にもなれなかった。だが、多くの種族が存在するこの世界ではよくある話だ。天使と悪魔のハーフ、神と悪魔のハーフ、人間と神のハーフ……その子達が苦労するのは当たり前のことだった。
だからこそ、二人は鬼の魂を引き換えに、悪魔の契約で女の子を神にした。だが、結果的にそれが逆効果だったのかもしれない。
一人で女の子を育てることになった魔女は、すぐに天界の神々に助けを求めた。しかし、魔女は神と親しい種族ではなかった為、魔女に耳を傾ける者は居なかった……ただ一人を除いて。
「どうしたの?」
身長2m以上はある、中世的な神が魔女の声に耳を傾けた。
「あなたは?」
「デモ.ゴルゴン……デモでいいよ」
神――当時のデモは、魔女から事情を聞いた。赤ん坊が魔女と鬼から生まれたこと、悪魔と契約したこと、赤ん坊の種族が神なこと、全てを聞いた。
「神としての申請を行えばいい」
「どこで申請したらよろしいでしょうか?」
「申請場所があるんだけど、君の子は珍しいパターンだからね。主神に直接申請してもらったらいいよ。僕の知り合いに優しい主神様が居るから……着いておいで」
魔女は言われるがまま、デモに着いて行った。安心と不安が均衡する中、デモに妙な信頼を託していた。
「ここだよ。デモに言われて来たと言えば助けてくれる。僕はここで失礼するよ」
「ありがとうございます」
デモが案内した家は、誰も寄り付かないような不気味な家だった。不安定な場所にあり、家も周りの柵も古びてる。デモが居なくなった今、魔女は不安で仕方なかった。
そんな中、恐る恐るドアをノックする。すると、独りでに扉が開かれた。家に入り、周りを確認しても誰も居ない。
「すみません!デモ様に言われて来ました!魔女のレイラと言う者です!」
魔女――レイラは、薄汚れて散らかっている部屋を恐る恐る進む。すると、椅子に座った男が死んだように眠っていた。両肩には黒と白の鳥が止まっている。その鳥とレイラの目が合った瞬間、男がぱっちり目を開いた。
「デモ様から言われて来たと?言ったな?」
男は、目を開いたと思えば、薄い目でレイラを観察するように見た。
「はっ、はい……」
「そうか……赤ん坊の申請も件だな?」
「えっ、なぜそのこととを?」
「腐っても主神だからな……」
「あの……貴方の名前は?」
「オーディン」
その後、男――オーディンによって赤ん坊の神としての申請を終えた。一見、事が終えたように思えた。
「どういうことだオーディン!貴様が申請した赤子は魔女の子だぞ!」
オーディンと同じ主神の一人、ゼウスが真実を知り、オーディンを責め立てた。
「流石ゼウス。ちょっとの違和感で気付いたんだな?確かに魔女の子だが、悪魔との契約によって神にされている。気配や魔力で分かるだろ?」
「汚れた存在を勝手に神にするな。小さなことから大きな問題へ発展することもあるのだ。その時お前は責任を取れるのか?」
「一体、何がそんなに気に食わない?」
「お前が気に食わない。こういう異例の場合は勝手な判断をされては困るのだ」
「そうか……悪かったな」
その数日後、オーディンは暗殺され、レイラと赤ん坊は再び行き場をなくした。だが、救いの手を伸ばす者が残っていた。
レイラが赤ん坊を抱え、二人の命を狙う者に追われていた時、見覚えのある神が姿を見せた。
「失敗……だったようだね」
「デモ……様……」
レイラは疲れ果てていた。自分が原因でオーディンを死なせた罪悪感もあり、心身ともにクタクタだった。
「天界で生きるのは無理だ。神々がその子の存在を忘れる時まで下界に住むことをお勧めするよ。下界は天界や魔界より安全だからね」
デモの助言の通り、レイラは人間が住む下界に逃げた。その後、レイラは一人の人間に助けられ、その人間に娘であるアマノを託して……この世を去った。




