第68話.水飛沫
イルカは俺達を歓迎するかのように水槽を大きく一周すると、高く飛び上がった。そしてイルカ達が水に潜る時には、大量の水飛沫が大気中に舞い上がる。舞い上がったそれは、一つ一つが太陽の光に反射して、さながら夜空に浮かぶ星達のようだった。
周りのお客さんからは歓声が響き、もちろんそれは俺達も例外でない。
「高っ!?」
気が付けば思わずそう言っていた。
イルカ達が飛んだ予想外の高さに驚きを隠せなかったのだ。
「でしょでしょー?でも、あの子達はこの後もっと飛ぶよ!」
現は楽しそうにそう言う。
「そうなんですか!」
そして、現の言葉に誰よりも反応を示したのは華山だった。見てみると華山にしては珍しく目をキラキラと輝かせながら、無邪気な笑顔でイルカ達を見ていた。
「華山って、クラゲとペンギン以外にイルカも好きなのか?」
なんとなくそう聞いてみる。聞いてから華山の返事が返ってくるのにそう時間は掛からなかった。
「好きですよ。基本可愛いものは何でも好きです」
「そうか。じゃあウーパールーパーとかはどうだ?」
華山に興味本位でさらにそう聞いてみた。
(ウーパールーパーって意外と好きな人いそうだけど。俺は好きな人がいる方にベットするよ)
1人で賭けをしながら華山が、喋るのを待つ。
「ウーパールーパー……ですか」
華山は少し言葉を濁しながらそう言う。
(あれ?もしかして嫌いだったかな?)
そう思っていると、その様子が顔に出ていたのか、すぐに華山は喋り始めてくれた。
「あ、あの別に嫌いって訳ではないんですけど……その、昔ある出来事がありまして」
「出来事?何があったんだ?」
気になった俺はすぐにそう聞く。
「昔お姉ちゃんがテレビを見てて、ある番組で私の事を呼んだんです。今面白いのやってるからおいで、って。それで行ってみたら、テレビの番組で、ある飲食系お店の紹介をしてたんですけど、メニューの中にウーパールーパーが唐揚げにそのままの状態でなってて、それから少しトラウマです」
華山は少しだけ顔を青くしながらそう言った。
「な、なんかごめんな?嫌な事思い出させたみたいで」
「あ、いや別に気にしないでください!私がそんな事をトラウマにしちゃったのが悪い訳ですし」
両手をブンブン振って否定しながらそう言う。
(トラウマになるのはしょうがない気もするけど、ウーパールーパーが唐揚げはさすがにキツイって)
フォローを内心で少し入れつつイルカ達の方を向き直った。
「続きまして、アンナがあのボールをタッチします!」
ちょうど俺たちが向き直ったタイミングでその台詞がスピーカー越しに聞こえた。
(アンナってのはイルカの名前か。人みたいな名前なのね)
そんな事を考えながら、飼育員が指さす方向を見る。多分そこに目標である、タッチするボールがあるんだろう。俺はその方向に目を向けた。
「え、まじ?」
俺から出た言葉はその一言。一匹のイルカは水中から飛び出たとは思えない高さまで飛んでいたのだ。吊り下げられているボールはだいたい俺たちの目線の高さと同じ。そして俺たちが座ってるのは、このステージの席でも一番上の部分。つまり……、
「5mくらい普通に飛んでるんじゃないか?」
「ふっふっふっー、よく気がついたね刻兄!」
現はビシッと俺を指さしながらそう言った。
一体俺は何に気がついたんだろ。全然わかんない。
「イルカさんはね、あの尾びれで一気に水を蹴って飛び上がるだけの瞬発力があるんだよ!そしてそれで刻兄にビンタしたら刻兄は吹っ飛びます!」
「おいおい、ビンタって俺なんもしてねぇじゃんかよ」
「してるよ!」
んー?何やら身に覚えのない事を言われたんですけど。しかも結構真剣な目付きで。
(なんか心が、心がボロボロになっちゃう)
現の目を見続け、何をしたのか早く言うように促した。
「刻兄ってば、どれだけ待ってもお家に彼女作って連れてこないじゃん!」
「それはごめんね!でもどうしようもないんだ!」
俺達はイルカショーそっちのけで、場にそぐわない内容で口論を始めた。
「刻兄のそういう所が、彼女ができない原因なの!」
「じゃあこの性格を直せと?」
「いやそれは別にそのままでいい!その性格の刻兄を好きになった人もいるんだから!」
驚いた心情がそのまま顔に出ていたんだろう。現は、「あっ」となりながら急いで口を噤んだ。
(現ちゃんもう遅いわよ?あとは俺?顔に色々出すぎじゃないかしら?)
そんな事を思いながらも、先程現がポロッとこぼした情報が気になって仕方がない。
「と、刻兄?さっきの事は聞かなかったって事で……いいかな?」
現は暑いからかいた汗なのか、ただの冷や汗なのかどっちか分からない汗をかきながらそう言った。
「気になるな〜?」
敢えて現に上から目線でそう言ってみた。
「教えて欲しいな〜?」
「っ!……、外道めっ!」
なんかめっちゃ酷く言われたんですけど。
少し溜息をつきながら口を開いた。
「はぁ、分かったよ。聞かない聞かない」
「本当に聞かない?」
現は念を押してくるようにそう聞いてくる。
「聞かないから。ほら、一応まだイルカショーは続いてんだしそっち見ろ」
そう言って会話を終わらせた。
結局誰が俺のことを好きなのかかなり気になりながらも、終盤に差し掛かったイルカショーを見続けた。
第68話終わりましたね。いるかって本当にどうやってあんな高くジャンプするんでしょうかね?なかなかすごい高さまで実際見に行った時飛んでましたよ。
さてと次回は6日です。お楽しみに!
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