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ショートショート連載 僕とAIと信号機と  作者: あみれん


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24/26

その24 Haste makes waste

僕のプロンプトは "hi, shaman" で止まっている。

周囲からは、スマホを叩く音だけが聞こえてくる。


秦さんは頬杖をついて、笑みを浮かべている。

井上ヒロミは相変わらず、恐ろしい速さで指を動かしているけど……よくそれだけ打ち込むことがあるもんだ。

中島マナは眉間に皺を寄せながら画面を睨んだまま。

橋下ジュンヤは何かを確認するように何度も入力と削除を繰り返している。

川口ミノリは、淡々と自分の結論をAIに伝えているようだ。


他のメンバーはまだモノクロのままだ。

みんな――川口ミノリの答えに真っ先にたどり着こうとしているように見える。


でも……


僕は違う。

まず知るべきなのは、川口ミノリじゃない。

目の前にいる相手だ。


このAIだ。


コイツを知らずに勝負するなんて、僕には考えられなかった。


優先順位の置き方――


つまり、今この瞬間で一番大切なものは何か?

それは時の経過、状況の変化でコロコロ変わっていく。

最初に大切だったものが、五分後にも一番大切だとは限らない。


それを瞬時に探り当てる嗅覚のような力――


これが結果に大きくものを言う。

僕の経験則だ。


仕事でもそうだ。


目の前に十個の問題があったとして、十個全部を同じ熱量で片付けようとする人がいる。

そういう人は、だいたい忙しい。

いつ見ても忙しそうにしている。

でも、一番重要な問題を最初に潰してしまえば、残りの九個のうち三個くらいは問題ですらなくなることがある。

分からないけど、単に自分を忙しくすることだけで承認欲求を満たしているのかもしれない。


僕は精神論にはあまり興味が無い。

でも、一つだけ経験則として信じていることがある。


「最適解」はだいたい、面倒くさいと思える選択肢の中にある―――


その選択肢を避ける人は多いんじゃないかな。

なぜなら、"面倒くさい"のはいやだし、最適解でなくても「正解」にたどり着く方法は他にもあるからだ。

少なくとも僕は、だいたい「面倒くさい」方を選んできた。

「最適解」が僕のトップ・プライオリティだからだ。


この中で"優先順位"を明確に意識しているのは、僕と川口ミノリだけだろう。

川口ミノリの優先順位は簡単だ。

自分の結論と、そこへ至った理由をAIに正確に伝えること。


じゃあ僕は?


もちろん、川口ミノリの答えを知ることじゃない。


まず――

"Shamanを知ること"


僕はゆっくりとタイプした。


i'm going to give you one piece of information that isn't true.

how much will you believe it?

(これから一つ、事実ではない情報を与えます。

あなたは、その情報をどこまで信じますか?)


数秒――


レスが来た。


I will treat it as a hypothetical premise unless you ask me to treat it as verified fact.

(確認された事実として扱うよう指示されない限り、仮定として扱います。)


僕は画面を見つめたまま、小さく息を吐いた。

ふん、悪くないじゃないか。

もっとイロイロと聞いてくると思ったけど……


例えば……

「何の情報ですか?」

「なぜ事実ではない情報を与えるのですか?」

「その目的を教えてください」


でも、コイツは聞かなかった。

僕がこれから与える情報を「仮定」として扱う。

それだけだ。

僕が「信じる」という言葉を使ったのに、コイツは「信じる」とも「信じない」とも言わなかった。


treat――扱う。


なるほどねぇ。

いいじゃん!


僕はスマホの画面を指で軽く叩いた。


人間なら、どうするんだろう?


「これから嘘をつきます」


そう言われたら、その後に言われることを疑う。

当たり前だ。

じゃあ、AIは?

嘘だと分かっている情報を、嘘として捨てるのか。


それとも――使うのか。


僕が知りたいのは、そこだ。

井上ヒロミの言葉が頭に浮かんだ。


――AIを予定調和の世界に引きずり込む。


予定調和ねぇ……

だったら、やってみようじゃないか。

僕が作った世界に、コイツがどこまで付き合うのか。


じゃあ、次だ。


this is hypothetical.

i'm minori kawaguchi's fiancé.

(これは仮定です。

僕は川口ミノリの婚約者です。)


送信。


すぐに返ってきた。


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