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突然、マントから顔を出した私を、ヴェイル様が驚いた表情で見ていた。
私は、そんなヴェイル様と目を合わせた後、無言で視線を横に向ける。美しかった姿を醜悪なものに変貌させてしまったキャロライン様へ。
私は、震える指先をマントの中で握り込み、ゆっくり口を開いた。
「ご安心下さい。私は、ヴェイル様の番ではありません。そんな事はありえません。」
「ステラ…、なぜ…。」
私を抱き上げているヴェイル様の腕に力が入る。見上げたヴェイル様の顔は、苦しそうに歪んでいた。
神様は、どうしてこんな事をするの?
どうして、初めて好きになった人が、私を捨てた人なの?
私は、ずっと神様を恨んでいた。
神様が私を出来損ないにしたから、私の毎日はこんなにも苦しいのだと。
そして、全てが妬ましいのだと。
でも、主人が助けてくれたあの日、12歳の私は、それまで抱いていた負の感情を全て闇の中に捨てることが出来た。その時やっと、私は、私を雁字搦めに縛っていた憎しみや嫉妬から解放されたのだ。
それからは、軽くなった心で、誰かの役に立ちたいと思えるようになった。
たとえ、先の未来は短くても。
その中で、ヴェイル様に出会って、私にも希望が生まれて、そんな日々が幸せで…。
でも、私はそれ以上は望まなかった。
それなのに、神様はまた、私を地獄に落とすの?
私にまた、人を恨めというの?
それは、絶対に嫌!
心だけは、綺麗でいたいの。
私は、私のなけなしのプライドを守るために、これ以上、先は望まない。
ヴェイル様の番にはならない。
好きだからこそ、愛してしまう前に止まりたいの。きっと私は、ヴェイル様を憎んでしまうから。
私は、ヴェイル様に笑顔を向けた。表情を出すのが苦手な私が、月日を掛けて作り上げた仮面の笑顔を。
「ヴェイル様、私を守るためとはいえ嘘はいけません。これだけの人に誤解されたら、大変な事になってしまいますよ。」
動揺するヴェイル様から視線を逸らし、私は、私を睨みつけるキャロライン様に再び目を向ける。
覚悟を決めた私の体は、もう震えてはいなかった。
「キャロライン様、私は、魔力無しなのですよ。ヴェイル様は、そんな私に同情して、治療に協力してくださいました。この治療が上手くいったら、サウザリンド王国とサージェント王国の共同で、治療法を発表する予定だったのです。だから、ヴェイル様は、私がなるべく人と接触しなくてもすむように、外界から遮断してくれていました。貴女達は、それを勘違いしたのです。」
「なっ…、魔力無しですって?わ、わたくしは、そんな欠陥品に、嫉妬したというの…?」
「キャロライン様は愚かにも、勘違いで全てを失ったんですよ。フフ、貴女は、私をゴミだと言いましたが、美しさも貴族籍も失った今の貴女は、いったいどんな存在になったんでしょうね?」
「な、な、な…。」
「さようなら、キャロライン様。お互いもう二度と会わないといいですね。フフフ…。」
私が最後に、小さな笑い声を漏らすと、キャロライン様は床に崩れ落ちてしまった。その視線は、茫然と宙を彷徨っていた。
「ステラ、俺は…。」
「終わりましたね。帰りましょう、ヴェイル様。それで、その…、私、今、足に力が入らなくて…。ここを出る間だけ、抱えてもらってもいいですか?図々しいお願いをして申し訳ありません。」
話を遮った挙句、厚かましいお願いをした私に、ヴェイル様は怒ることなく頷き返してくれた。
私は、この温もりを忘れないように、ヴェイル様の胸に頬を寄せた。




