*ヴェイル視点 17
下ろした天蓋の隙間から入り込んだ夕日が、俺のベッドに広がる美しい真紅の髪を照らす。
深く眠ってしまったステラは、呼びかけても何の反応も示さない。
俺は、彼女の頬に張り付いた髪を、優しく払い除けた。
普段、ステラの治療はゼイン医官用の客間で、女性医官と共に行っていた。しかし、今回は、王宮内の俺の私室に無理矢理ステラを囲い込んで行った。
強引ではあったが、突然倒れたステラを守るためには仕方がなかった。
「すまない、ステラ。だが、今回は赦してほしい。」
魔力を送るために乱してしまった胸元を直そうと、俺は慎重に手を伸ばす。
なるべく肌を見ないようにと、視線を逸らしたその時、肌着の装飾とは違う鮮やかな模様が目に入った。
「これが、ステラの聖花か。」
ステラの胸元からは、金の絵の具で書かれたような大輪の花の一部が覗いていた。
母上の聖花は、父上の瞳の色と同じ、青い花だった。
ステラのこれは、俺の色。それは、ステラが俺の番である紛れもない証だった。
「ステラ...。」
俺の魔力に浮かされたステラは、ずっと俺に縋っていた。側にいて欲しいと。
俺を好きだとも言ってくれた。
嬉しかった。
そこまで俺を慕ってくれるステラが愛おしかった。
だが、寂しい、捨てないで、一人にしないで、と泣くステラに、胸を締め付けられる程の罪悪感も感じた。
「ステラ、俺も貴女が好きだ。貴女の全てを愛してる。」
俺は、寝ているステラの額に、口付けを落とした。
コンコン
小さなノックの後、気配を消したニルセンが部屋の中に入ってきた。
俺は、ベッドに座ったまま、ニルセンに話しかけた。今は、少しでもステラの側を離れたくなくて。
「どうだった?」
「団長、バレリーさんとの関係が噂されていましたよ?宜しいのですか?」
ステラを自室へ連れ込む際、人目も気にせず、堂々と彼女を抱き上げて王宮内を歩いた。その上、近衛騎士に、人払いまでさせたのだ。今頃は、ステラが俺の愛人だとでも噂されているのだろう。
「ああ、今回は仕方ない。それで?何か分かったか?」
「はい。マイリー・バルゼンとリセイル・ネイゼルは、バレリーさんを連れ出していました。申し訳ありません、我々の落ち度です。短時間でしたので、完全に油断していました。」
バルゼンとネイゼルは、他の騎士や文官と共謀して、ニルセンとメルデンを出し抜いていた。二人には、常に、どちらかがステラについていると巧妙に錯覚させていたのだ。
まさか、仲間に裏切り者がいたとは。
「バルゼンとネイゼルは、ステラをどこへ連れ出していたんだ?」
「キャロライン・バルガンデイル公爵令嬢の客間です。」
「そうか。」
あの女か...。
バルガンデイル公爵家の末娘キャロラインは、まるで自分が、王女であるかのように権力を振り翳す嫌な女だった。
最近は、番のいない俺の婚約者を自称し、側室候補まで勝手に集め出していた。
いい加減目障りで、現バルガンデイル公爵ごと排除しようとしていたのだ。
だが、ステラに手を出したのなら、家の断絶など生優しいものでは済まさない。
死が安寧に思える程の地獄を見せてやる。
「団長、メルデンが、マイリー・バルゼンとリセイル・ネイゼルを捕えました。どうしますか?」
俺は、暗い天蓋の中で、決してステラには見せられない笑みを浮かべた。




