2-12
「お祭りですか?」
最近、恒例化しているお茶休憩で、唐突に話題を振られた。首を傾げている私に、ヴェイル様は持っていたカップを置いて、説明し始める。
「ああ。王都では、明後日から三日間、豊穣祭が行われる。この日のために持ち込まれた各領地の特産物が、所狭しと市場に並ぶんだ。領主達も自領の品を売り込むために、力を入れているから、中々見応えがあるぞ。」
「それは、凄いですね!あっ!でも、そうなると、騎士団は警備で忙しくなるんでしょうか?」
「いや、王都の警備は、警邏担当の騎士団が担うから、俺達に仕事は来ないな。」
「そうですか。では、私達の仕事は、いつも通りなのですね。」
「ああ、それで、なんだが...。」
ヴェイル様が、何かを言いにくそうに呟くと、一緒に休憩を取っていた補佐官達が、そそくさと席を立ち出した。
「え?え?皆さん、どうしたんですか?ヴェイル様、一体何が?」
その状況に慌てた私を、ヴェイル様の手が押し留める。
「聞いてくれ、ステラ。そ、その、良ければ、俺と一緒に祭りに行かないか?夜は皆、仮面を付けるから、正体はバレない。ステラも気軽に楽しめると思うんだ。ただ、その…、以前の夜会のことがあるだろう?ステラは、俺に誘われるのは嫌か?」
ヴェイル様が、私を窺うように見つめる。その表情は、普段のヴェイル様からは考えられないような弱気な顔だった。
ヴェイル様は、終幕の夜会のことを、まだ気にしているのだ。私に許可なくドレスを贈ったことに、罪悪感を感じているらしい。
あれは、私が悪いのに。
私は、ヴェイル様に、なるべく気を遣わせないように、明るく答えた。
「私は、ヴェイル様に、誘ってもらえて嬉しいです!お祭り、凄く楽しそうですね!」
でも、ヴェイル様は、私と一緒でいいのかしら?迷惑にならない?
私は、その疑問を素直に口に出した。
「迷惑になど、なるはずがない。一緒に楽しもう、ステラ。」
優しい笑顔を浮かべて、そう言ってくれたヴェイル様に、私は精一杯の笑顔で応える。
「はい!ぜひ、連れて行って下さい!」
それから、私は時間も忘れて豊穣祭の事を色々聞いた。私のしつこい質問にも、ヴェイル様は丁寧な回答をくれた。
それがまた嬉しくて。完全に私は、浮かれきっていた。
だから、いつもの休憩時間を大幅に超えていたことに気付いた時は、焦り過ぎて大声を上げてしまった。
もちろん、迷惑をかけた補佐官達にはしっかり謝った。
それから数日、獣人騎士団の仕事は、いつもと変わらなかった。
でも、騎士達がどこか浮き足立っている気がする。
「恋人とデートの予定でもあるのではないかと。」
少し変わった空気を疑問に思っていた私に、ニルセン様が、そう教えてくれた。
「デートですか?だから皆さん、ソワソワしているのですね。」
「ええ、彼らはきっと、この豊穣祭でプロポーズでも計画しているのでしょう。」
「ふふ、それは素敵ですね。上手くいってほしいです。」
「そうですね。ですが、それはバレリーさんもでしょう?」
「へ?」
騎士達の甘い話を聞いていると、突然、思いも寄らない事を言われて、裏返った声が出てしまった。
「バレリーさんも、デートに誘われたのでしょう?」
「ち、違います!デートじゃありません!ヴェイル様が、正体を隠せる夜なら気兼ねなく行けるからと、案内を買って出てくれたんです!」
「ふふ、それでもいいのですがね。バレリーさん、豊穣祭は、愛を結ぶ祭でもあるのですよ。だから、気のない異性を誘うような事はしません。ぜひ、団長と楽しい時間を過ごして下さいね。」
私とヴェイル様がデート?
愛を結ぶだなんて...。
豊穣祭までの間、ニルセン様に言われた言葉が、私の中でずっと燻り続けていた。




