*ヴェイル視点 13
ステラがいる部屋を見つけ、駆けた勢いのまま扉を開ける。
「サウザリンドの王弟殿下?」
使用人用の少し狭い部屋に入ると、馬鹿面をしたサージェントの騎士と目が合った。
ステラは、この男と居たのか。
二人で食事を楽しみながら。
奥のテーブルに置かれた茶道具が目に入り、嫉妬の炎が燃え上がる。
俺は、怒りのままに強い視線をステラに移した。
「なぜ、夜会に来なかった?」
俺の強い口調に、ステラがその大きな翡翠の瞳を見開いて震えだす。
可哀想に。
俺の怒りが怖いのか。
可哀想で、可愛いステラ…。
俺の中から仄暗い欲が首をもたげ、腕がひとりでにステラへ伸びる。
その時聞こえた、か細い彼女の声に、俺はギリギリの所で我に返った。
「ステラ、心配した。」
その後、すぐに欲を隠した俺は、それらしい理由を付けて、なるべく優しくステラを問い詰めた。
そんな俺に対して、ステラが必死に言い訳をしてくる。その彼女の主張が、あまりにも痛々しくて、俺は早々に音を上げてしまった。
強い口調で一方的に、ステラの主張を咎めた自覚はある。しかし、俺の言った綺麗事が、彼女の中に反発心を生んでくれたら、何か変わるきっかけになるのではないかと思ったのだ。彼女への謝罪なら、後でいくらでもすればいいと。
だが、その考えが甘かったことには、すぐに気付く。
やり過ぎだと、俺を押し留めにきたニルセンと言い合いになっている間に、無表情で佇んでいたステラが動いた。
顔を伏せたまま、いつもきっちり着込んでいる侍女服のボタンを外しだしたのだ。
本来の俺であったなら、ステラの肌を人前で晒させるような事はしない。しかし、ステラの突飛過ぎる行動に、この時の俺の頭は、正常に機能していなかった。
そんな俺に代わり、ニルセンが慌てて止めに入るが、ステラは気にする事なく手を動かし続けた。
緩んだエプロンが下に落ち、ステラの細身の上半身に室内灯の光が当たる。
何だ、これは...?
視界に入ってきた強烈な光景に、俺の混乱していた思考が、その時完全に崩壊した。ニルセンも同じく言葉を失っている。
「...奴隷の時に、受けた傷です。」
静かな部屋に、ポツリと小さな声が落ちた。
親に売られたステラは、当時10歳。
さすがにまだ、娼館では働けない。だから、どこかで、過酷な下働きをさせられていたんだろうと思っていた。
だが、これは...、この傷は...。
それは、あまりにも酷い虐待の痕跡だった。
ステラの白く滑らかな肌には、血が硬化したような赤い傷が、鱗状に広がっていた。しかも、肩や腕には、鋭利なもので刺されたような傷が等間隔に並び、皮膚を変色させていたのだ。
痛かっただろうに...。
これを、幼いステラは耐えたのか。
ステラが受けた度重なる苦痛を想像すると、息も出来ない程の胸の痛みが襲ってきた。




