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主人の側と獣人騎士団の間を行ったり来たりしていると、あっという間に数日が過ぎた。
そして今夜、とうとう終幕の夜会が開かれる。長かった首脳会議もこれで終わりだ。
その日は、朝からみんな、大忙しだった。
主人の下には、各国の代表者が次々と挨拶に訪れ、私達侍女は、その対応に追われたのだ。そうしてやっと最後の来訪客を迎い終えると、私達はすぐに主人の夜会の準備に取り掛かった。
思い返すと、一日中、私は部屋と廊下を駆け回っていた気がする。
「はあ、お美しいです、アデライード様。」
真紅のドレスを着たアデライード様の美しさは、筆舌に尽くし難い。
身に付けた国宝の宝飾品すら霞むほどの完璧な美が、堂々とそこにあった。
「女神様みたい...。」
波打つ黄金の髪に、宝石のように煌めく瞳。
主人は、初めて会った日からずっと、私の美しき女神様だった。
「皆、ご苦労。この後は、各々自分の為に時間を使ってくれ。今夜はもう、仕事はしなくていい。皆、楽しい夜を。」
妖艶な笑みを浮かべた主人は、護衛の騎士にエスコートされ、颯爽と部屋を出て行った。
「ほらほら!ステラも準備しないと!」
ぼうっと余韻に浸っていると、同僚の侍女に肩を叩かれた。
そして、そのまま追い立てられるように、隣の衣装室に連れて行かれる。
続き部屋の衣装室の中には、一昨日まではなかった大きな箱が、いくつも積み上げられていた。
「ステラのは、これよ!」
「私の?」
渡された箱には、一目で高級と分かる金のリボンが結ばれていた。そして、そこには私の名前が書かれたカードが添えられている。
私は不思議に思いながらも、金のリボンに触れた。
「竜の討伐協力のお礼とは言え、私達使用人にまで、ドレスを贈ってくれるなんて、サウザリンド王室は太っ腹よね!」
「このドレスを着て、夜会に参加して欲しいみたいよ!凄いわよね!ほら、ステラも早く開けてみて!」
侍女のみんなが集まってきて、私が抱える箱を見つめる。
勢いに負けた私は、箱のリボンをゆっくり解いた。
「「「わあ...。」」」
箱の中を覗き込んだ全員が、感嘆の声を上げる。
中にあったのは、オーガンジーの布を幾重にも重ねた可愛らしいデザインの緑のオフショルダードレスだった。
胸元から下にいくにつれ、段々と深い緑に変わり、スカートの裾からは、チラリと黒いレースが覗く。
そこに施された芸術品のような見事な金糸の刺繍が、派手すぎない絶妙なバランスで女性の清楚さを引き出していた。
いったいこのドレスに、いくらかかったのだろう。ドレスなんて持っていない私には想像もつかない。
「す、凄いドレスね、ステラ...。」
「このドレスだけ、ステラの名前が書かれてあったのよね?」
「ええ、そうね...。」
獣人騎士によって届けられた贈り物のドレスは、サイズ毎に分かれていて、それぞれ好きな物を選べたらしい。でも、私の物だけ、別に用意されていたのだとか。
いったい誰が?
もしかしてヴェイル殿下?
いや、まさかね...。
私は、結ばれていた金のリボンを見つめる。不意に、ヴェイル殿下の黄金の瞳が、脳裏を掠めた。
「あの...、良かったら、このドレス着ませんか?」
私は、近くにいた小柄な侍女に、箱ごとドレスを差し出した。
「ステラは夜会に出ないの?」
「私、この後夜勤ですから、アデライード様のお帰りを待っていないと。それに、そもそも私、ドレスは...。」
私の指摘に、何処からか「あっ!」と、声が上がる。
「本当にいいの、ステラ?」
「はい!ぜひ着て下さい!」
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。」
彼女の嬉しそうな笑顔に、私の心の底では、寂しさが湧き出る。
でも、このドレスは、私には着られない。
それなら素敵に着こなしてくれる人が、着た方が絶対に良い。
「楽しんで来て下さいね!」
私は、準備に取り掛かった同僚達を静かに見守った。




