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2-4

主人の側と獣人騎士団の間を行ったり来たりしていると、あっという間に数日が過ぎた。

そして今夜、とうとう終幕の夜会が開かれる。長かった首脳会議もこれで終わりだ。



その日は、朝からみんな、大忙しだった。

主人の下には、各国の代表者が次々と挨拶に訪れ、私達侍女は、その対応に追われたのだ。そうしてやっと最後の来訪客を迎い終えると、私達はすぐに主人の夜会の準備に取り掛かった。

思い返すと、一日中、私は部屋と廊下を駆け回っていた気がする。




「はあ、お美しいです、アデライード様。」


真紅のドレスを着たアデライード様の美しさは、筆舌に尽くし難い。

身に付けた国宝の宝飾品すら霞むほどの完璧な美が、堂々とそこにあった。



「女神様みたい...。」


波打つ黄金の髪に、宝石のように煌めく瞳。

主人は、初めて会った日からずっと、私の美しき女神様だった。



「皆、ご苦労。この後は、各々自分の為に時間を使ってくれ。今夜はもう、仕事はしなくていい。皆、楽しい夜を。」

妖艶な笑みを浮かべた主人は、護衛の騎士にエスコートされ、颯爽と部屋を出て行った。




「ほらほら!ステラも準備しないと!」

ぼうっと余韻に浸っていると、同僚の侍女に肩を叩かれた。

そして、そのまま追い立てられるように、隣の衣装室に連れて行かれる。

続き部屋の衣装室の中には、一昨日まではなかった大きな箱が、いくつも積み上げられていた。



「ステラのは、これよ!」


「私の?」

渡された箱には、一目で高級と分かる金のリボンが結ばれていた。そして、そこには私の名前が書かれたカードが添えられている。

私は不思議に思いながらも、金のリボンに触れた。



「竜の討伐協力のお礼とは言え、私達使用人にまで、ドレスを贈ってくれるなんて、サウザリンド王室は太っ腹よね!」


「このドレスを着て、夜会に参加して欲しいみたいよ!凄いわよね!ほら、ステラも早く開けてみて!」

侍女のみんなが集まってきて、私が抱える箱を見つめる。

勢いに負けた私は、箱のリボンをゆっくり解いた。



「「「わあ...。」」」


箱の中を覗き込んだ全員が、感嘆の声を上げる。



中にあったのは、オーガンジーの布を幾重にも重ねた可愛らしいデザインの緑のオフショルダードレスだった。

胸元から下にいくにつれ、段々と深い緑に変わり、スカートの裾からは、チラリと黒いレースが覗く。

そこに施された芸術品のような見事な金糸の刺繍が、派手すぎない絶妙なバランスで女性の清楚さを引き出していた。



いったいこのドレスに、いくらかかったのだろう。ドレスなんて持っていない私には想像もつかない。



「す、凄いドレスね、ステラ...。」


「このドレスだけ、ステラの名前が書かれてあったのよね?」


「ええ、そうね...。」



獣人騎士によって届けられた贈り物のドレスは、サイズ毎に分かれていて、それぞれ好きな物を選べたらしい。でも、私の物だけ、別に用意されていたのだとか。



いったい誰が?

もしかしてヴェイル殿下?

いや、まさかね...。


私は、結ばれていた金のリボンを見つめる。不意に、ヴェイル殿下の黄金の瞳が、脳裏を掠めた。




「あの...、良かったら、このドレス着ませんか?」

私は、近くにいた小柄な侍女に、箱ごとドレスを差し出した。



「ステラは夜会に出ないの?」


「私、この後夜勤ですから、アデライード様のお帰りを待っていないと。それに、そもそも私、ドレスは...。」


私の指摘に、何処からか「あっ!」と、声が上がる。



「本当にいいの、ステラ?」


「はい!ぜひ着て下さい!」


「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。」


彼女の嬉しそうな笑顔に、私の心の底では、寂しさが湧き出る。

でも、このドレスは、私には着られない。

それなら素敵に着こなしてくれる人が、着た方が絶対に良い。



「楽しんで来て下さいね!」


私は、準備に取り掛かった同僚達を静かに見守った。







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