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圧倒的とは、こういう事を言うのかと、私は今日、初めてこの目で確認出来た気がする。


常人では絶対に死ぬであろう高さの崖から飛び降りたヴェイル殿下は、その勢いのまま、先頭にいた大きな魔物の首を、剣の一振りで斬り落とした。

そして、怒り狂う魔物を次々と青い炎で焼いていったのだ。



青炎。

あれが、かつて、神が獣人の王に与えた異能の力...。


魔物を焼き尽くす青い大火は、圧倒的に暴力的で、それでいて残忍で、でも、とても美しかった。

あの炎になら、焼かれてもいいと思える程に。



触れてみたかった...。

手を伸ばせば、届いただろうか。


私は、青い炎の中に佇むヴェイル殿下の姿を思い起こす。

雄々しくも美しいヴェイル殿下の姿を。



だ、駄目よ!

何考えてるの!


私は首を振って、底なし沼に落ちそうになる思考を頭から追い出した。



さあ、仕事に集中しなくちゃ!


気持ちを切り替えた私は、先程ヴェイル殿下が倒した巨大な魔物の体に向き合う。そして、切断された頭部を凝視した。


何度見ても、魔物の体は不思議だ。

頭を切り落とされたのに、血の一滴も出ていない。



でも、この魔物は涎を垂らしていたし、体液がないわけではないのよね。


私は、虚な目をした魔物の死体の前で、首を捻った。



「バレリー様は、魔物が怖くないのですか?獣人の女性でも、魔物の死体を前にしたら卒倒するのですが...。」


「え?あ、そ、そうですね。でも、慣れてますので。私の生まれは、森に囲まれた辺境ですし。」



初めは、血が怖かった。

昔のことを思い出して。

でも、活動的な主人について行くには、怪我人だろうと、魔物だろうと慣れなければ、やっていけなかったのだ。

だから、もう動かない魔物の死体なんて平気。


私は魔物の弱点を探るべく、ニルセン様に魔物の体を切り刻んでもらった。




「ステラー!」

そこへ突然、私を呼ぶ声が聞こえた。



「ステラ、怖くなかった!?怪我はない?痛い所はない?大丈夫!?」


「はい、アレン様。大丈夫ですよ。」

走ってきたアレン様が、私をギュウギュウに抱きしめる。

アレン様とマイヤ様のお二人は、興奮すると私を抱きしめる癖があった。

私はあやすように、アレン様の背中をポンポンと叩いた。



「アレン団長!困ります!バレリー様を離して下さい!」

ニルセン様が慌てて、アレン様を私から引き離そうとしていた。



サージェント王国では、これが日常だったから、あまり気にしていなかったけど、事情を知らない人が見たら、誤解してしまうわね。

危ない、危ない。

これからは、気を付けないと。


反省した私は、さっとアレン様の腕からすり抜けた。



「ヴァングレーフ殿、可愛いステラとの憩いの時間を邪魔しないで頂きたい。」



お、怒ってる。

あの温厚なアレン様が。


ん?

ヴァングレーフ?


私は、アレン様と睨み合うニルセン様を見上げた。


ヴァングレーフは、サウザリンド王国の隣にある小さな獣人の国だ。

確か、爬虫類系の獣人が多いのだとか。


そのヴァングレーフが、ニルセン様の家名?

え?

ニルセン様は、王族!?



「アレン団長。家名で呼ばないでくれませんか?獣人は、名前呼びが基本なのですよ。知りませんでしたか?婚約者がいるにもかかわらず、未婚の女性に抱きついているぐらいですし、貴方は常識に疎いようですね。」



「常識?僕とステラは、身内のようなもの。他人の常識なんて、不要なのですよ、ヴァングレーフ殿。」


こ、怖い。

二人から魔力が立ち上っているように見える。

私じゃ絶対に止められない。

どうしたら...。


混乱中の私の体を、後ろから逞しい腕が引いた。




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