表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/162

1-21

少し湿った風が吹き抜ける暗い森に、今、刺すような緊張感が漂っていた。

いつもは煩いぐらいに聞こえていた鳥の声も消え、不気味なほど辺りは静まり返っている。


日の出前に起こされた私は、護衛のニルセン様とメルデン様の側で、生い茂る木々の先を見つめていた。




ドン!ドーン!ドン、ドン!


大きな破壊音がしたかと思うと、私の胴体の何倍もある太い木々が、土煙を上げて倒れていく。

その粉塵の中には、奇怪な赤い光が無数に揺らめいていた。



「バレリー殿、何があってもここから動かないで下さい。」

メルデン様が、私達の周りに強力な結界を張って、臨戦態勢を取った。




グオーーー!


耳を劈くような獣の雄叫びが、空気の中を伝播していく。その咆哮によって吹き飛ばされた粉塵の中から、猪に似た巨躯の魔物が、地響きを轟かせて、悠然とその姿を現した。

しかも数は、1体ではない。



これが、魔物の群...。

こんなに沢山の魔物は、初めて見た。




魔物は、口からダラダラと黒い唾液を垂らし、大地に生えた植物を腐らせていく。姿だけは、大きな猪そのものなのに、やはり魔物は、この世界の生き物ではなかった。



気持ち悪い。

その存在が、震えるほど不快だった。

あの魔物の赤い目が、私から命を少しずつ奪っていくようで。



その時、突然、一番端にいた魔物が、近くの騎士目掛けて走り出した。それに釣られて、他の魔物も、一斉に騎士達に襲いかかった。

その中に、アレン様とサージェント王国の騎士達の姿を見つけて、私の鳩尾が引き攣る。



アレン様、どうかご無事で...。

私は、胸元の魔石を握りしめて、みんなの無事を神に祈った。それしか出来ない自分を、歯痒く思いながら。



私にも戦う力があったら...。

それなら私も、誰かを守ることが出来たのに。



怒号と激しくぶつかり合う金属音が、森の中に響き渡る中、微かに吹く風が、鉄錆の臭いを運んできた。その鼻につく臭いが、私の緊張を更に煽る。



「大丈夫ですよ。バレリー様、我々は負けませんから。」

両手を握りしめていた私へ、ニルセン様がいつも通りの優しい声色で話しかけてきた。



「その通りです、バレリー殿。この程度で負ける騎士は、ここにはおりません。ほら、来ましたよ。」

メルデン様が、俯く私に森の先を指し示した。



太陽が昇る場所、高い崖の上に人がいる。

姿を現した太陽の光で、私の目では、その人物の顔は見えない。

でも、光と共に現れたその方が、私達の希望であることは分かった。



「ヴェイル、殿下...、どうか。」










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ