1-20
どうしよう。
やっぱり私が、ここに来るのは不味かったんじゃ...。
ヴェイル殿下のあの表情は、私を受け入れているようには見えなかった。
これは、早々に野営地へ戻るべきか...。
ニルセン様に、ヴェイル殿下の補佐を打診された私は、あの後すぐに、セルヴィン様の許可を貰いに走った。
私に出来ることがあるなら。
必要とされるなら。
役に立てることがあるなら、頑張りたい。
そう思ったから。
「でも、私の自己満足のために、殿下に迷惑をかけては駄目よね...。やっぱり戻ろうかな。」
やっとの思いで、この拠点に辿り着いて早々、また森の中を引き返すのは、気が滅入るけど仕方ない。
私の決意が固まったその時、バサリと天幕が開く音が聞こえた。
「どこに戻るつもりだ?」
抑揚のない低い声がした方へ振り向くと、天幕の入り口には、腕を組んだヴェイル殿下が立っていた。
「殿下、あの、私...。」
「貴女の護衛を決めてきた。一人は、貴女をここへ連れて来たニルセン。もう一人は、情報編纂部にいたメルデンだ。貴女からしたら、メルデンには会いたくないだろうが、あいつも随分反省していた。受け入れてもらえるなら謝罪を聞いてやってくれ。」
「え?私に、護衛ですか?」
「そうだ。貴女もこの場所が、どれ程危険か分かるだろう?」
「はい、もちろんです!皆様の足を引っ張らないよう気を付けます!」
現在のこの森が、危険地帯であることは理解している。ここに来る前、セルヴィン様から何度も注意を受けた。
それに本当は、私だって怖い。でも、決して足手纏いにはならないと、私は、そう覚悟して森の中に足を踏み入れたのだ。
「...そんな覚悟は、いらないんだがな...。」
俯いたヴェイル殿下の口が、微かに動いた気がした。
けれど、その声は私の耳には届かなかった。
「ここで俺の補佐に就くなら、必ず護衛と共に行動するように。これは、命令だ。違反した場合は、問答無用で野営地まで送り返す。いいな?」
「は、はい!」
良かった!
ヴェイル殿下に許可をもらえた!
でも、ニルセン様とメルデン様は、ヴェイル殿下の副官のはず。そんな方を私の護衛にして、殿下の仕事は大丈夫なのかしら?
嬉しいと思う反面、私に気を遣ってくれたヴェイル殿下に申し訳ないと感じる複雑な思いが、私の中に入り混じった。
「では、バレリー殿、これから貴女には、森で討伐した魔物の情報を纏めてもらう。その際、この天幕を自由に使ってくれて構わない。他に何か要望があるなら聞くぞ?」
「畏まりました。で、では殿下、一つよろしいでしょうか?その...、わ、私には、敬称を付けないで頂きたいです。討伐に参加している騎士の皆様より私の方が上官のようで、気まずいのです。」
「...そうか。では、どうするか...。」
視線を下に落としたヴェイル殿下が、唸りながら考え込んでいる。暫く側で、殿下の様子を窺っていると、彼の瞳が私に向いた。
「...ステラ。」
え?
「では、ステラと。そう呼んでも、いいか?」
熱を持った視線に囚われた私は、ゆっくりと首を縦に振った。




