表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
159/162

3-53

「頭を上げなさい」


私の頭の上に優しい声と、温かい手が乗る。

それに促され、そっと顔を上げると、そこには主人の穏やかな笑顔があった。



「いつの間にか、可愛い末の娘は、愛する者を見つけたようだ。寂しいが、巣立ちだな」

主人は、少しの寂寞と溢れる程の慈愛が籠った目で私を見つめている。その瞳があまりにも優しくて、私の胸に熱いものが込み上げた。



「アデライード様…」


「ステラ、私は、誰よりもお前の幸せを願ったんだ。こんな時くらい母と呼んでくれ」


「…っ!」


そんな事を言われたら、もう駄目だった。我慢していた涙腺が決壊して、私の視界の色が滲む。そこから熱い涙が流れ落ちて、口からは意味のない声が漏れ出た。



私は、ずっと家族というものに憧れていた。無条件で愛してくれる親がいる人達が羨ましかった。

だから、どんな時も私を気にかけてくれた主人の事を、密かに母のように思っていた。もちろん、それは心の中だけ。そんなことは、口が裂けても言えるわけがないから。でも、姫様も王子殿下も私に優しくしてくれて。不敬とは分かっていても、家族とはこういうものかと、想像の中で勝手に感じていたのだ。



だから、今、母と呼んでもいいと言われて…、願いが叶って、私は、歓喜の涙を我慢することが出来なかった。



私は、震える唇で必死に、けれど、はっきりと愛しい人を呼んだ。



「お母様」


「ああ、ステラ、私の可愛い娘。幸せになりなさい」


私の前にしゃがみ込んだ主人に、きつく抱き締められる。その時感じた体温と匂いは、とても懐かしいものだった。



「ヴェイル殿下、結婚を認めよう。ただし、ステラを不幸にしたら分かっているな?王族だろうと異能者だろうと、サージェント王家が全力で潰す。心得ておくように」


「はい、肝に銘じます」


主人は、私を抱き締めたまま、強い口調でヴェイル様に告げた。それを彼は、真剣な表情で受け入れてくれた。




「さて!」

しんみりしていたところに、姫様の明るい声が斬り込む。それに釣られて、主人の腕の中から顔を上げると、姫様はにっこりと私に微笑みを返した。



「お母様が認めたのなら、私も承諾するわ。とっても、とっても不本意だけれど、ステラの幸せが一番だものね…」


その言葉の後に、でもと、続けた姫様から表情が消える。



「前にも言ったけれど、ウェディングドレスの件は譲らないわよ!ドレスも含めた嫁入り道具は、こちらで用意するわ!ですよね、お母様?」


「ああ、そうだな。あと、サージェントでは、婚約期間は、各々の親元で過ごすのが決まりだ。だから、ヴェイル殿下、婚姻の日まで、ステラは我が国で暮らす。そのつもりでな」


姫様の迫力ある宣言の後、主人は、私の帰国を決定事項として、ヴェイル様に告げた。


その時のヴェイル様の顔は、敵を前にしたような憎悪に歪んだ表情をしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ