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駄目よ!
駄目!
手を離して!
じゃなきゃ、ヴェイル様が!
私の手が、私の意志に反して、ヴェイル様の魔力を吸い出している。止めたいのに、止まらない。ヴェイル様の魔力が枯渇に近いほど減っていることが分かっているのに。
お願い!
お願いだから、これ以上、ヴェイル様を傷付けないで!
感覚はしっかりあるのに、私の意志で体が動かせない。心と体がバラバラに切り離されてしまった私は、闇の中から、自分の体の行動を見ていることしか出来なかった。
それでも、ヴェイル様を助けたい一心で、私は、私を囲う闇と向き合った。
ミシャ、ヴェイル様を離して。
フローラよ。
白ける事を言うな。
興が醒める。
ほら、もうすぐだぞ。
青炎の異能者が、愛する番に殺される悲劇の物語のクライマックスだ。
お前も見たがっていただろう?
ミシャの不吉な言葉を聞いた私は、すぐにヴェイル様へ意識を戻す。すると、苦悶の表情を浮かべたヴェイル様が、ミシャに奪われた私の体に向かって、名前を呼んでいた。
ヴェイル様の力なら、私の腕なんて簡単に外せるのに、彼は、私を傷付けまいと、振り払おうとさえしていない。
こんな時でさえ、私を気遣うヴェイル様の優しさに、私の心は止めどなく涙を流した。
ハハハ、フローラは、いつも泣いているな。
泣いて、泣いて、泣いて。
そして、結局何も出来ない。
ただ、己を憐れんで、情けなく涙を流すだけだ。
そう…。
そうね。
ミシャの言う通り、私は何も出来ない。
新しい名前で生きると決めた今も、結局、何も変わっていない。
だが、お前はそれで良いのだ、フローラ。
お前の願いは、我が叶えてやるのだから。
お前は、我の闇の中で、願いの成就を見届けるだけでいい。
ミシャの姿が消えると、深い闇が、私の心に忍び寄る。その闇は、ミシャのものなのか、私が持つミシャの核から出てきたものなのかは、分からない。
一段と濃さを増した闇は、今度は私の心の奥底に入り込み始めた。私は、それを抵抗せず受け入れる。
先程まであった体の感覚は、もう消えてしまった。
心も、もう動かない。
でも、私は、まだヴェイル様と繋がっている。
私は、振り払われなかった手から、渾身の力を込めて、ヴェイル様の体に、魔力を逆流させ始めた。
私は、他者の体から魔力を吸収する事はあっても、その逆をやった事はなかった。
でも、今なら出来る気がした。
都合よく、私の言う事を聞かない体が、ヴェイル様の胸に倒れ込む。私は、ヴェイル様の力強い心音を聞きながら、治療のために彼から貰っていた魔力を送り返した。
「ステラ、駄目だ…。やめろ。」
ヴェイル様の掠れた声が、私の頭の上から落ちてきた。




