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闇に呑まれても、時折、ヴェイル様の声は聞こえていた。
彼は必死で私を呼んでくれているのに、応えられない自分が悔しかった。でも、この闇の中では、体が、心が、動かない。
そんな停滞した闇の中で、ふと何かが私に触れていることに気付く。
その感覚が徐々に強くなっていき、次の瞬間には、私は首に鋭い痛みを感じていた。
「い、や。いや、やめて…。」
この痛みは、何!?
いったい何があったの!?
私に触れているのは誰!?
嫌だ!
怖い!
誰か助けて!
唐突に覚醒した意識が、痛みと混乱で、恐怖に染まる。そして、私の血を啜る気色の悪い音が、更なる恐怖を煽った。
その時、チカチカと点滅する視界の中に、ヴェイル様の姿が映る。
「ヴェ、ヴェイル、さま、助けて…。」
私は、ヴェイル様に向かって、精一杯手を伸ばした。でも、助けを求めた事を咎めるかのように、ミシャは私の手を引き戻した。
ミシャに齧り付かれた所が痛い。
自分の命を食べられているようで、怖い。
助けて。
助けて。
助けて。
涙でグチャグチャになった今の私の目にはもう、ヴェイル様の姿は映らない。けれど、それに代わる力強い声が、私の耳に届いた。
「ステラ、必ず助ける。だから、もう少しだけ待っていてくれ。」
来てくれるの?
私を助けてくれるの?
ヴェイル様の声を聞いた私の胸に、フワッと安堵が生まれる。ヴェイル様の声は、いつも私に安心をくれた。
もう大丈夫だと確信した瞬間、私の体は、ヴェイル様の少し高い体温と、安心する匂いに包まれていた。
ここが私の居場所。
私は、ヴェイル様の背中に腕を回す。そして、誘われるように彼の胸に顔を埋めた。
え?
血の臭いがする。
どうして?
顔を上げた私の目に映ったのは、ヴェイル様の額から流れ落ちる真っ赤な血だった。
私が、茫然とその血を眺めている間にも、抱きついた私の服に、ヴェイル様の血が染み込んでいく。その量の多さに、私から安堵が消え去った。
「ヴェ、イル様、血が…、怪我して…。」
「大丈夫だ、ステラ。必ず、ヤツは倒す。だから、もう少しだけ、我慢だ。」
大丈夫なんかじゃない。
ヴェイル様は、きっと無理をしている。
無茶をして、私の下まで来てくれた。
どうしよう。
このままじゃ、ヴェイル様が…。
私は、どうしたらいいの?
激しい後悔に涙が溢れると、ヴェイル様の唇が、私の瞼に触れた。
それが、お別れの挨拶のようで、私の体が震え出す。
ダメ!
止めなきゃ!
ヴェイル様だけは、絶対に助けなきゃ!
剣を構えたヴェイル様の背中に手を伸ばす。もう、これ以上無理をして欲しくなくって。ヴェイル様だけでも逃げて欲しくて。
すると、また、影が私の心に絡み付いてきた。
「フローラ、奪ってしまえ。お前を不幸にしたこの男の全てを。さあ、ここからお前の復讐を始めよう。」
甘く囁くミシャの声が、私の体を支配する。
体の支配権を奪われた私が、次に気付いた時には、ヴェイル様の体から、魔力を吸収していた。




