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3-27

姫様の執務室に入る前の私は、ヴェイル様と顔を合わせるのが気まずくてドキドキしていた。でも、通信機を前にした姫様の深刻な表情を見たら、そんな事を気にしている余裕はなくなってしまった。

外部との連絡を切った後、暫く通信機を見つめていた姫様が心配で、私はそっと体を寄せる。けれど、私の心配を余所に、上を向いた姫様の顔は、既に覚悟が決まっていた。



「ステラ、以前、貴女には、浄化の力があるって説明したわよね?その力を貸して欲しいの。」


「巫女殿!」

姫様の言葉に、逸早く反応したヴェイル様が大声を上げた。その声の迫力に、私の体が跳ね上がる。



「ステラの力を使うのは、最終手段だと約束したはずだ!先ずは、俺が魔物の王を倒しに行く!」


「ヴェ、ヴェイル様…。」


ヴェイル様が、姫様に怒っている。本気でこのまま魔物の王の下まで行ってしまいそうだった。



「神に救いを求めたら、二つの未来が見えたの。一つは、辺り一面の焼け野原。地面に転がった無数の死体を、魔物の王が笑いながら喰らっていたわ。もう一つは、光の中に佇む赤髪の女性の姿。その女性は、浄化された大地の上で微笑んでいたの。」


「その赤髪の女性が、ステラだと言いたいのか?」


「ええ、顔は見えなかったけれど、あれは間違いなくステラよ。」


そう姫様に断言されて、私は自分の両手に視線を落とす。



本当に私には、そんな力があるんだろうか。

魔力のないこんな私に。



「同時に二つの未来が見えたのは初めてよ。滅びか、生存か、この先にある未来は、二つに一つ。掴み取るのは私達よ。」


「姫様、私はどうすればいいですか?」

震えそうになる体を必死で押さえて、私は前を向く。僅かに揺れる私の視線を、姫様は真正面から受け止めてくれた。



「ステラ!」


「ヴェイル様、私の考えは、以前と変わりません。私も戦います。」


ヴェイル様の苦しそうな表情を見ると、私の胸が締め付けられた。



でも、私はヴェイル様と生きたいの。

だから、精一杯抵抗したい。



「私、負けません!ヴェイル様も力を貸して下さい!お願いします!」

私は、ヴェイル様に向けて頭を下げた。


フッと空気が動いたのを感じ、顔を上げると、ヴェイル様の顔がすぐ近くにあった。その顔は、未だ厳しい。



「ヴェイル様?」

名前を呼ぶと、頬をペロリと舐められた。

そしてそのまま、ペロペロと顔中を舐められる。



「や、ちょっ、ヴェイルさ、ま?」


「俺が、番のおねだりに弱いことを分かっててやっているな?はあ、ステラも随分狡賢くなったな。仕方ない。共に戦おう。だが!」


「痛っ!痛いです、ヴェイル様!」

ヴェイル様が、私の首を噛んだ。


痛い、痛い!

今までで一番痛い!

ヴェイル様の牙が、鎖骨に食い込んでいる気がする。



「こら!バカ猫!何しているの!?ああ、痕が付いちゃったじゃない!大丈夫、ステラ?」


姫様が、私の首を見て、激怒している。

そんなに酷い痕が付いているのだろうか。



「ステラを齧っていいのは俺だけだ。魔物の王には触れさせない。髪の一本も渡さない。だから、ステラ。俺の側から絶対に離れるな。約束だぞ?」


ヴェイル様の言葉に、複雑な感情を抱いた私は、すぐには頷くことが出来なかった。でも、そんな私に、ヴェイル様は容赦なく圧力をかける。


「いいな、ステラ?」


「…はい。」


ヴェイル様の迫力に負けた私は、小さく頷いて返した。








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