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侵略のポップコーン  作者: 進常椀富
30/35

宇宙を貫いて3

 それからしばらく、敵の追撃は完全にやんでいた。

 一同は易易と大型エレベーターの前に着く。

 メリコは減速し、カートごとエレベーターのなかへ入った。


 一同がひと息つこうとしたとき、通ってきた通路に大量の警備ドローンが出現した。

 警備ドローンは脇道から続々とわいてきて、通路を隙間なく埋め尽くしてしまう。

 

 メリコが腰のイレイザーを抜いた。

「くっ! ここまできて! 返り討ちにしてやる!」

 鈴木とアマガも戦闘態勢をとった。


 だが、進常が大声で制止する。

「撃つな!」続けて言う。

「いま、わたしの予知が働かなかったってことは、やつらに攻撃の意思はないってことだ。無駄に刺激しないほうがいいし、こっちも無駄にエネルギーをロスしないほうがいい」


 モヒカンの鈴木が青ざめた。

「ああ、わかった。こいつらぼくたちをここに追い詰めたつもりなんだ。ぼくたちを生け捕りにするのか、有効に殺せる手段を待っているのか、それはわからないけど、ぼくたちをここに閉じ込めるつもりなんだ……」

「ええい、ままよ!」

 メリコはボタンを押してエレベーターの扉を閉めた。

 それから操作盤についているダイヤルを回して行き先を指定する。

 ちょっと振動があっただけで、

 鈴木にはエレベーターが動いているのかどうかわからなかった。

 メリコたちがなにも言わないところをみると、きっと動いているのだろう。


 アマガがイレイザーから細い光線を出して、エレベーターの一部を切り開いた。

「ちょっと万が一に備えておきますね」

 アマガはカートから太いケーブルを引きずりだして、エレベーターの開けた部分につなげる。アマガは言った。

「これでエレベーターの動力は落ちません。カートの動力を使います。実質的なコントロールはこちらのものになりました。目的地までは行けます」


 進常は心配そうに聞いた。

「もしエレベーターのなかの空気を抜かれたら?」

「それはだいじょうぶです。機構的にそんな細かい排気はできません」


 鈴木は肩の力を抜いた。

「もうくったくっただよ。ずっと戦ってばっかり。いままでずっと平和に過ごしてきた青少年にはキツイよ、まったく……」


 メリコが鈴木の肩を叩いた。

「あともう少し! 気を抜かないで!」

「メリコちゃんとアマガさんはまだ元気だなー。なんでそんなにすごいの?」


 アマガが答える。

「わたくしたち、戦闘訓練もそれなりに積んでますからー」

「社員に戦闘訓練までさせた上でサイコグラスで洗脳して文明を侵略させる、か。ホントにろくでもない会社だよ」


 鈴木の横でモルゲニーが激昂していた。

「ろくでなしなのじゃ! 宇宙のクズじゃ! 倒さねばならん! スズキ、気合を入れてもらおう!」

「はいはい。あとひと息だしね」


 膨らんだ身体ではぁはぁ喘ぎながら進常が言った。

「マジで気合入れろ、鈴木くん。この先は予知を使うまでもない。向こうはこっちの出口を押さえてるに決まってる。敵の出方を窺っている余裕はない。出会い頭にぶっ放すしかないぞ。一気に勝負を決めるんだ。鈴木くんにかかってるからな。さあみんな、カートの裏に隠れろ」


 一同はカートの裏に身を屈めた。

 鈴木は額に手を当てて意識を集中する。

 力を集める。もっと多く、もっと、最大のパワーを発揮できるように。

 もっと集中だ。

 第三の眼が周囲に光を発散させはじめていた。


 ププッと電子音が響き、目的の階に到着したことを知らせる。

 鈴木は真実の瞬間がくるのを待って、額にパワーを集める。


 エレベーターの扉が開いた。

 そこには準備万端のテホルル・ペットフーズ社員たちが、ずらっと待ち構えていた。

 全員メタリックのカンパニースーツを着用し、サイコグラスをつけ、

 手にはイレイザーを抜いている。


 社員たちが並んでいる中央に頭抜けて体格のいい、四角い顔の男が仁王立ちしていた。

 このマザーシップの艦長、ハデットだった。

 ハデットは高らかに笑った。 

「ワハハハ! おまえたちは袋のネズミ……」


 最後まで言わせない。

 鈴木は飛びだした。第三の目の力を開放して叫ぶ。

「超拡散! 和平の一歩こうせぇぇぇーんっつ!」

 第三の眼から、周囲全体を包み込むほどの閃光が迸った。

 鈴木に向かっていくつかの引き金が絞られたが、その光線も閃光がかき消す形となった。

 そして光が収まる。


 社員たちは自分たちの身が無事なことを知って安堵していた。

 だが、その顔からサイコグラスが灰となって砕け落ちる。

 社員たちはあっけにとられ、首だけ出している鈴木、進常、メリコ、アマガを見つめた。

 生の瞳で。


 進常がささやく。

「なんで殺っちゃわなかったんだよ鈴木くん! チャンスだったのに!」


 鈴木は落ちついた口調で答える。

「殺したら遺恨が残るでしょう? モルゲニーちゃんのアンザレクトみたいに。うまくいけば宇宙の仲間なんだから殺すのはヤバいですよ、やっぱ」

「それもそっか。しかたない。敵はどうでてくるかな」


 鈴木たちが様子を窺う前で、男性社員のひとりが叫んだ。

「地球原住生物は人型生命体だった!」


 ハデットがその男性社員を殴りとばす。

「ばかもの! これが精神侵襲だ! 騙されるな! もういい撃て! 皆殺しだ!」


 女性社員が反論する。

「でも! 人型生命体を殺傷するの犯罪です! 重罪ですよ! わたしにはできません!」


 別の社員がつぶやく。

「もしかして、いままでもずっと人型生命体を侵略してた……?」


 そこでメリコが大声で言った。

「そう! いままで会社はアタシたちを騙してたの! 会社は宇宙的悪徳企業! 違法操業の巣窟! それに! それに地球にはおいしい食べ物がたくさんあるの!」


 アマガも頭を出して言う。

「地球は人類の星です。わたくしたちの仲間といえましょう。地球の築きあげた食文化は、みごとな文明の結晶です。わたくしたちに豊かな地球文明を滅ぼす権利はありません。テホルル・ペットフーズは辺境宇宙を略奪する海賊にも等しい組織だったのです」


「そんな……」


「まさか……」

 社員たちの動揺が深くなった。


 状況が鈴木たちの有利に傾くかと思いきや、ハデットが青筋を立てて首を振るう。

「敵の実体は汚らしいアメーバだ! 惑わされるな殺せ、殺せ! これが精神侵襲だ! 殺せ! 命令に従わない者は懲罰を与えるッ!」

 ハデットは地球が人型生命体の星だと予め知っていたのだろう。

 鈴木たちの姿を目にしてもまったく動揺していない。

 それどころか、悪事を貫こうとする意固地さがあった。

「宇宙の平和を守るために、我らテホルル・ペットフーズがあるッ! 辺境宇宙を巡り、敵性生物をいちはやく発見し、対処する。それが我らの崇高な使命! やつらこそ汚らしい悪魔のアメーバだ! 騙されるな! 懲罰を受けたいか! 莫大な借金を背負って実家に帰るのか! 戦え! 正義は我らにあるッ!」


 その迫力に圧されてか、ハデットに同調する者が出はじめた。

「部長のいうとおりだ! わたしたちはサイコグラスを失っている! これが精神侵襲なんだ! 敵は倒さねば!」

「そうだ、そうだ!」

 何人かがイレイザーを持つ手をあげる。


 その直後、バタバタと倒れていった。


 モルゲニーだった。

 鈴木が光線を放っていたとき、

 気づかれないように社員たちの背後へ飛んでいたモルゲニーが、

 いま毒針を刺して回ったのだった。

 

 モルゲニーは回避飛行をしながら言う。

「気絶させただけじゃ! なぜわらわたちがこうも手加減するかわかるか! わらわたちが正しいからじゃ! 無益な殺生はせん!」


 社員たちは呆然としていた。

 自分たちとは異質といえるようなアンザレクト人までが味方をしている。

 これが決定打となった。

 もともとテホルル・ペットフーズの社員たちだって悪人はほとんどいないのだ。

 平和的解決ができるならそのほうがよい。

 社員たちから迷いと敵愾心が消えていった。


「おのれぇ! 覚えていろ!」

 状況が不利とみるや、ハデットがダッシュで逃げだした。

 逃げ去るハデットを追う者は誰もいない。


 ひとりの女性社員がイレイザーをホルスターに収める。

「わたしはあなた方が正しいと信じます。これ以上悪事に加担できません」


 その場にいた全員が頷いたり、首を振ったりして、けっきょくみな銃を収めた。

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