↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侵略のポップコーン  作者: 進常椀富
PR
21/35

異星からの狩人3

 飛び出してきた小さな人型はメリコに飛びかかる。

 メリコはそれをパシッと片腕で捕らえた。


 体長三十センチ、蜂を擬人化したような生き物だった。

 腕と脚が二本ずつ、背中の翅で宙を飛び、顔は人間のものと同じ。

 長い金髪で冠のようなものを頭に載せている。

 瞳は緑色。

 蜂姫さまという感じだった。


「この! この!」

 蜂姫はしっぽの針でメリコを刺そうとする。

 しかし、針はカンパニースーツを貫けない。

 メリコはノーダメージだ。

 暴れる蜂姫を握り締めたまま問いただす。

「アンタ、だれ?」


 蜂姫は答えず、鈴木に向かって言ってきた。

「そこの者! こやつを殺せ! わらわのスーツにしたように! こやつらは敵だぞ!」

「スーツ……?」

 鈴木は倒れたままの黒い女を見た。

 顔がぽっかりと開いて、なかはピンク色の小部屋のようになっている。

 スーツというか、乗りこんで操縦するロボみたいなものなのかもしれない。

 なかにいたらしい蜂姫もこうして元気だ。

 つまり、鈴木はまだ誰も殺していない。

 いままでと同じように、邪魔な物を壊しただけに過ぎなかった。

 鈴木の胸に安堵が広がる。


 メリコは蜂姫を握る手に力をこめた。

「アタシは! アンタに! だれかって聞いてるの!」

 蜂姫は悶えた。

「ぐっ、苦しい。わらわはパイドラン八世の娘、モルゲニー! そなたらテホルル・ペットフーズを狩るものじゃ!」


 この蜂姫は、テホルル・ペットフーズに敵対しているらしい。

 つまり鈴木や進常とは敵対していない。

 むしろ味方だ。


 鈴木は納得した。

「ぼくたちの敵じゃないから進常さんの予知が働かなかったのか……!」


 モルゲニーはなおも鈴木に訴えた。

「そこの者、早くわらわを助けよ! わらわこそが味方じゃ! こやつらは血も涙もない鬼じゃ! なんと騙されているかしらんが、付き従っていると皆殺しにされてしまうぞ!」


「知ってるよ」鈴木はゆっくり言った。

「テホルル・ペットフーズが全人類を皆殺しにして文明を奪おうとしていることは。ぼくは鈴木翔夢。君をつかんでる彼女はメリコ。君が倒した彼女はアマガ。二人ともテホルル・ペットフーズの社員だったけど、いまは違う。騙されて働かされていたんだ。いまは二人とも仲間だ。手を携えて、共にテホルル・ペットフーズを倒そうとしている。テホルル・ペットフーズを倒すのに必要な仲間だ」


 モルゲニーは疑り深く言った。

「その話はまことか?」

 モルゲニーを握ったままメリコが言う。

「ほんとう」

 鈴木も答えた。

「本当。だからこうしてぼくたちは仲良くしていられるんだよ。どっちも騙し合いなんてしてない。その証拠にこれから君の話をゆっくり聞いてあげるよ。メリコちゃん、離してあげなよ」


 メリコはまだモルゲニーを離さない。

「その前に。アマガになにをしたの?」


 モルゲニーは答えた。

「わらわの毒で眠らせただけじゃ。すぐに目覚めさせることもできる」

「じゃ、そうして。おかしな真似したらその翅むしっちゃうからね」

 メリコはモルゲニーを開放した。

 モルゲニーは羽ばたいて宙を舞う。

「わらわとしても、話すべきときは話し合う」


 モルゲニーは飛んでいき、アマガのうなじに尾の針を刺した。

「うぅーん……」

 アマガはすぐに目覚めた。

「わたくし、また眠ってしまいましたか?」

 アマガはどうやら無事なようだった。


 鈴木はほっとひと息つく。

「進常さんちに戻って話そう。冷たいものでも飲みながら。ここは暑いよ」


 モルゲニーを含む四人は進常の部屋へ戻った。

 進常は掃除を終え、スクワットをしていた。

 モルゲニーの姿を認めて眉根を寄せる。

「また増えたのか。エイリアン」

 鈴木は進常に事情を説明して、最後に言う。

「ぼくたちも細かいことはわからないんですけどね。これから話し合うところです」

「じゃ、麦茶でも出すか」


 麦茶が出され、鈴木、進常、メリコ、アマガはリビングのテーブルについた。

 モルゲニーは席がないこともあって、テーブルの中央に立つ。

 麦茶はお猪口に入れて出された。

 モルゲニーはテーブルを舞台として、演説するように滔々と語った。


 頭の上の冠が示すように、モルゲニーはアンザレクトという世界の王女だという。

 母親のパイドラン八世は女王だ。

 アンザレクトは地球の蜂に似て、女性上位の世界だった。


 アンザレクトは中央宇宙連邦に所属していない辺境の世界であったため、

 あるときテホルル・ペットフーズの先遣隊が訪れた。

 武力衝突となり、アンザレクトの騎士三人が殺された。

 そしてテホルル・ペットフーズの先遣隊は引きあげていった。


 これは後になってわかったことだが、

 半ば虫のような姿をしたアンザレクト人は体格も小さい。

 ペットフードとするにも、苦労のわりに量が少ない。

 それでテホルル・ペットフーズは、アンザレクトを資源価値なしと判断して去っていったのだった。


 テホルル・ペットフーズは本格的な侵攻をせずに小競り合いで終わったため、

 アンザレクト側に超体は生まれなかったようだ。


 パイドラン八世は当然のごとく激昂した。

 中央宇宙連邦に、テホルル・ペットフーズの暴虐を訴えた。

 しかし中央宇宙連邦は、アンザレクトが連邦に加盟していないことを理由に、

 今回の事件を異星文明どうしの接触事故として単純に処理した。


 その扱いに、パイドラン八世の怒りはさらに燃えあがった。

 そして自分の娘たちに命じたのである。

「テホルル・ペットフーズの構成員をいちばん多く生贄に捧げた者に王位を譲る」と。


 こうしてモルゲニーは故郷をあとにしてきたのだった。

 アンザレクト人が外宇宙へ出るときはいつもそうするように、

 大型の人型スーツを着用して、戦闘用宇宙船に乗って。


 長いことスキを窺ってマザーシップを追跡してきた。

 そのマザーシップは地球をターゲットとして活動を開始した。

 ということは、テホルル・ペットフーズの構成員が船外に出る。

 生贄を捕らえるチャンスが訪れたのだった。

 

 だが、そううまくいかなかった。

 モルゲニーの宇宙船は哨戒ドローンに発見され、戦闘ののち撃墜されてしまった。

 アンザレクトは宇宙戦力ではまったくテホルル・ペットフーズにはかなわないのだった。


 脱出ポッドで地球へ降りたモルゲニーは、

 テホルル・ペットフーズの構成員が使う光線銃のエネルギー源を頼りに、

 地球に降りている構成員がいないか探していた。

 生贄を捕らえれば面目も立つ。

 アンザレクトから救援船を呼ぶことも許されるだろう。

 そうして、地球で活動しているメリコとアマガを発見したのだった。


 モルゲニーはテーブルの上で、腰に手を当てて、偉そうに胸をそらした。

「わらわの話はこんなところじゃ。次はそちたちの話を伺おう」


 鈴木は半ばうっとりしながらモルゲニーの話を聞いていた。

 彼女は半分くらい虫だ。

 虫っぽい。

 虫を食べるのも眺めるのも好きな鈴木にとって、半虫半人のモルゲニーはとても可愛かった。鈴木は熱視線でみつめる。


 鈴木の視線に気づくと、モルゲニーはもじもじと身体をよじって頬を赤く染めた。

「わらわの話は終わったのじゃ、そんなにじろじろ見つめるのは不躾であろう……」

 鈴木は思わずつぶやく。

「か、かわいい……」

 直後、メリコが無表情で、鈴木の髪の毛をひとつまみ毟りとった。

 鈴木は痛みで正気に戻る。

「いたい! だいじな髪の毛になんてことを!」

「スズキがぼさっとしてるから」

 メリコはつまらなそうに、毟った髪の毛を指からふっと吹き飛ばした。

 無表情の裏側に冷たい怒りが隠れているような気配がした。

 とりあえずおとなしくしてたほうがよさそうだと、鈴木は判断する。


 言い方を変えれば、メリコの冷たい怒気に怖気づいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。