癒やしのむいむい3
「い、いやあ……、ははは。なんてことなかったな」
照れ笑いを浮かべる鈴木。
しかし進常が釘を刺した。
「まだだ、鈴木くん! いまの攻撃でマザーシップの位置がわかった! 追撃だ、仕留めるぞ! そうすればこの戦いも終わりだ!」
進常はメモを見せてきた。
丸が三つ描いてある。
大きい丸と中くらいの丸のあいだに小さい丸があり、
そこに矢印で「ここらへん」と書いてあった。
こんなもの見せられても対処しようがない。
鈴木はとうぜん困惑した。
「こんな落書きじゃどこなのかわかりませんよ」
「いいか、大きい丸が地球、中くらいのが月、真ん中の小さいのがマザーシップで、だいたいそこらへんにあるんだ!」
「無理です。わかりません」
「ええい! 照準はわたしに任せろ! 跪け!」
「はいはい……」
鈴木は片膝立ちになる。
進常は鈴木の後ろへ回った。
「そっち向いて」
進常の指示で身体の向きを変える。
進常は鈴木の頭をつかむと、くいっくいっと動かして微調整しはじめる。
鈴木の首は空の一角を向いた。
進常が言う。
「この位置だ! 鈴木くん、マザーシップは見えるか!」
そうは言われても、第三の眼にも暗い宇宙空間しか視えない。
鈴木は答えた。
「いや、なにも視えないですけど……」
「もっと目を凝らせ! 感じろ、フィーリング重視だ!」
鈴木は第三の眼で宇宙空間をみつめた。
すると、星空を背景になにかのゆらぎが視えた。
「捉えた! かもしれません! なにか微妙な歪みを感じます!」
「それだ! 敵のオプティカルジャマーだ! 敵はそこにいる! ぶっ放せ! 最大出力準備!」
「信用しますよ! うぉおおおおおおッ!」
鈴木はよくやりかたがわからないながらもフルパワーを念じた。
額に得体のしれない力が集まっていく。
「うぉおおおおおおッ!」
鈴木の額、第三の眼のまわりを小さな光る竜巻がくるくる回った。
超体のパワーが過供給され、目に見えるほどに溢れだしている。
鈴木の頭はガクガク震えた。もうこれ以上力を蓄えていることは不可能だった。
ここが限界。鈴木は叫んだ。
「デストロイ光線、フルバーストぉぉぉーッ!」
第三の眼がひときわ輝く。
そして、光の暴力が迸った。
その光条の幅は、ゆうに鈴木たちの身長ほどもあった。
巻き起こる突風。
光の柱が空のかなたへ吸い込まれていく。
数瞬後。
空の片隅で、ぽっという小さな輝き。
それは地上の四人からでも確認できた爆発だった。
鈴木の頭を押さえたまま、進常が聞いてきた。
「やったか? どうだ、鈴木くん、マザーシップを撃沈したか?」
鈴木は第三の眼で視た。
暗い宇宙空間を背景に、巨大な宇宙船が火を吹いていた。
その宇宙船は、まるで亀の甲羅を積みあげて作ったシャンデリアのような形をしていた。
火を吹いているのは端の亀の甲羅一個分というところだった。
鈴木は状況を報告する。
「当たりましたけど、端っこが吹っ飛んだだけです。でも透明化を剥ぐことができました。いまはマザーシップがはっきり視えてます」
「ようし! 狙いは任せた。次はど真ん中をぶち抜いてやれい! 最大出力準備!」
「はい!」
マザーシップの透明化は解かれた。
もう鈴木自身で狙いをつけられる。
第三の眼の照準は必中間違いなし。
今度こそ、マザーシップの中央を撃ち貫き、完全に破壊することができるだろう。
敵の襲撃からの急展開だったが、それでこの戦いも終わりだ。
鈴木は振るいたった。
興奮が興奮を呼ぶような形で、魂の炎に薪をくべる。
鈴木はふたたび額に力を集中させた。
「うぉおおおおおおッ!」
第三の眼に、あらゆる空間からパワーが凝集していく。
進常が叫んだ。
「撃てーいっ!」
「ですとろ……」
ぷつり、と。
鈴木は意識を失っていた。
「う、うーん……」
鈴木は意識を回復した。
リビングの床に寝かされている。
頭の下には枕があり、額の上には濡れたタオルが置かれていた。
鈴木はタオルを手にとって身体を起こす。
「ぼく、気を失ってたんですか。いったい……」
「スズキ! 起きた! 心配したよ!」
メリコが頭突きを食らわさんばかりに顔を近づけてくる。
進常がソファから見下ろして言う。
「思ったより早く気がついたね。いま救急車を呼ぼうとしてたところだよ」
「ぐー……」
アマガは寝ていた。
三人ともすぐ近くにいた。
意識を失った鈴木を見守っていたらしい。
鈴木は口を開く。
「ぼくはいったいどうなったんですか? どれくらい気を失ってました?」
進常が答える。
「気を失ってたのは少しだよ、三分くらい。熱中症か興奮しすぎか、ビームのエネルギー切れか、最後のビームを撃つ寸前に白目をむいて倒れちゃったんだよ」
鈴木は額を触った。
もう第三の眼は痕跡もなく消えている。
力なくつぶやく。
「熱中症か興奮しすぎか、エネルギー切れか……。どれも思い当たるからはっきりしませんね……」
「ちなみに鏡は見ないほうがいいよ」
「えっ!?」
鈴木は慌てて自分の頭を触る。
髪が!
頭の下半分の髪がない!
「うわ、うわ、うわわわ……」
鈴木は立ちあがって姿見の前へ走る。
そしてビジュアル的にも自分の状態を確認した。
頭部の下半分に髪がなく、おかっぱ頭のようになっていた。
ように、というか完全におかっぱだった。
「おわぁあああああっ! なんじゃぁああこぉりゃぁあああーっ!」
メリコが後ろに来て、メタリックの手袋で包まれた指で鈴木の頭皮の部分をつつく。
「スズキ、この髪型もカワイイゾ?」
「かわいくないっ! つつくな!」
進常が言った。
「アマゾンの英雄だと思えば? そういう髪型してる部族、見たことある。マザーシップに一撃を与えた英雄なんだし」
鈴木は涙目になりながら進常を見た。
進常も超体の力へ代償を支払ったのはあきらかだった。
「進常さんも、またいっそう膨らみましたね……」
「もう慣れた。ちょっと息が切れやすくなったけど」
進常が平常心なのだから、自分も嘆いてばかりはいられない。
けっきょくこのコンビで地球を救いつつ、力の代償を払っていかなければならないのだ。
ワリに合わないという悲しさと、
自分は英雄なのだという誇らしさが混ざりあって複雑な気分になる。
ある意味サーガの登場人物のようだった。
ちょっとかっこいいかもと思わないでもないが、やっぱりハゲは嫌だ。
おかっぱも好きじゃない。
鈴木は大きくため息をついた。
「はぁあああああー……」
進常が麦茶を差しだしてきながら言う。
「でもわたしたちつえーよな。地上から軌道上の宇宙船撃てるんだから。敵もわたしたちを恐れるはずだ。あと一撃できれば勝負は決まってたわけだし」
鈴木は受けとった麦茶を一気に飲む。
麦茶はぬるく、涙が混じってちょっとしょっぱかった。
飲み干すと息をつく。
「ふぅー。でもこれでよかったのかもしれません。マザーシップの損害は軽そうですけど、これでよかったんですよ。マザーシップを撃ち落としてたら、中にいるメリコちゃんやアマガさんの元同僚も全滅でしょ。何十人もいるっていうし」
メリコが感心したように言う。
「スズキは優しいな。さすがアタシを倒した超体戦士!」
「へ、へへへ、そうかなぁー?」
メリコのお世辞のおかげで、鈴木は少し気分がよくなった。
「ぐー……」
同意するようないびきをたてて、アマガはまだ寝ていた。
進常が言った。
「鈴木くんの言うことももっともだけどさー、こっちは手加減してる余裕ないよ? 向こうは数十人だろうけど、こっちは数十億人の命預かってんだし。撃ち落としても向こうだって脱出ポッドくらいついてるだろうし。チャンスがあれば躊躇なく仕留めるんだ、鈴木くん。それ以上髪を失わないためにも!」
「う、うーん……。ま、そのときになったら考えましょうよ……」
鈴木は曖昧な返事をしてお茶を濁した。
自分が敵の命を奪う可能性があると気づいて怖気づいたのもある。
鈴木としては、血を流すような事態は避けたかった。
やはり最初のプランどおり、敵の超光速通信機を奪うほうがいい。
その方法が難しいとしても、鈴木はそちらを選ぶ。




