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侵略のポップコーン  作者: 進常椀富
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やきにく異星人1

 深夜。

 鈴木、進常、メリコの三人はもちろん熟睡し、規則正しい寝息をたてていた。

 そんな暗い部屋のなか、ソファで寝ているメリコに近づく暗い影がひとつ。


 メリコは身体を揺さぶられて目を覚ました。よく通るささやき声が言う。

「メリコ149、起きろ。生きているのはわかっている」

「だれー?」

 メリコは寝ぼけ眼で聞いた。

 暗いなかでも相手がメタリックのカンパニースーツを着て銃を手に持っているのはわかった。 

 バイザーもつけている。

 中央宇宙テホルル・ペットフーズの社員、つまりもとの仲間にちがいなかった。


 その人影は言った。

「わたしはアマガ162。メリコ149、おまえの尻拭いにきた。無傷のようだが、サイコグラスはどうした。なぜそんな奇妙な格好をしている?」

「えっと、あのその……」

 メリコは慌てた。


 おいしいチーズスフレを味わったことによって感情が爆発してサイコグラスが破壊され、

 そのため地球原住生物が人型だとわかり、

 その後和解しておいしい食べ物を食べて寝てしまったが、

 自分たちは会社の違法操業を中央宇宙連邦に、

 マザーシップの超光速通信を使って通報しなければならない。


 この状況をまずどこから説明したものか、メリコは混乱した。


 メリコの返事を待たずに、アマガは冷徹に囁いた。

「超体もいるのか? この近くに」

「シグナルはわからないの?」

「超体が活動期にないとシグナルは拾えない。休眠している場合は居所不明となる。そんなこともしらなかったのか」


 要するに鈴木と進常が寝ているときには居場所がわからないらしい。

 メリコは知らなかったが、いいことを聞いた。

 今ならまだ鈴木たちがこの部屋にいることを悟られていない。

 会社に騙されているアマガを説得するチャンスだった。


 メリコは立ちあがった。

「ねえ聞いてアマガ、会社はあなたを騙してる。地球原住生物は人型なの! 後進文明保護条約の対象なの! 殺したら犯罪!」

「なにぃ! おまえ……」

「この綺麗な服を見て! この服は地球文明の産物! つまり人型をしてるの!」

 アマガは頭を振った。

「メリコ、おまえはサイコグラスを失ったために原住生物の精神攻撃を受けた。洗脳されたんだ、精神侵襲だ! その服も騙されておまえが自ら作ったものにちがいない! 正気になれ!」

「もう、わからずや!」


 メリコはスキをみて飛びかかろうと身構えた。

 銃を使うつもりはない。

 だが、アマガのほうはそうではなかった。


 メリコの頭に銃口を向けて言う。

「手遅れならしかたない。せめて楽にしてやろう。それが同僚の情けだ」

「うぅ……」


 ワンピースの下にカンパニースーツを着込んでいるから筋力は何倍にもなっている。

 格闘戦なら勝負になるはずだ。

 しかし、銃の引き金を引くのは、飛びかかるより早いだろう。

 メリコは動けなくなった。


 そのとき間延びした声が聞こえた。鈴木のものだった。

「うるさいなー、メリコちゃん。なに騒いでんのさー」

 ピッと音がして照明がつく。

 アマガの姿があらわになった。

 銀髪ショートヘアのアマガは一瞬固まったあと、素早く反応する。

「超体! 反応!」


 メリコの頭を狙っていた銃口は鈴木に向けられた。メリコはこのチャンスを逃さなかった。

「いま!」

 メリコはアマガに飛びかかった。

 左手で銃を押さえ、右手でサイコグラスをつかむ。

 メリコとアマガは絡みあって倒れた。


「愚か者!」

 アマガがメリコを蹴り飛ばす。

 しかしメリコはサイコグラスをつかんだまま離さなかった。

 そのため、アマガの顔からサイコグラスが外れる。


 鈴木も意外に勇敢な行動をとっていた。

 倒れた二人に突進してきて、アマガから銃を奪っていた。


 メリコが宣言する。

「勝った!」

 メリコは立ちあがり、手のなかのサイコグラスをふたつに折った。さらにぐしゃりと丸める。


 鈴木は扱い方がわからないながらも形だけ銃口をアマガに向ける。

「ぼくたちの勝ちだ! 動くな!」


 銀髪のアマガは赤い瞳をぱちくりさせた。

 鈴木を見てつぶやく。

「人型生命体……ですわね……」

 それから顔をしかめてこめかみを押さえながらうなった。

「ですがこれは精神攻撃では? 現実のようですがやはり幻覚なんでしょうか、ああ悩ましいですわぁー……」

 アマガは性格が変わってしまったような口調で頭を振る。

 アマガを改心させるにはもうひと押し、衝撃的な一撃が必要だった。


 メリコが叫ぶ。

「スズキ! お菓子!」

「おうとも!」

 鈴木も即座に理解した。

 メリコのときと同様、最後は食べ物のおいしさでショックを与えるのだ。


 鈴木は銃を置いて、メリコの買ってきたチョコレートケーキのパックを開けた。

 ひとつ手にとる。

 だがカンパニースーツの怪力が怖かったので、自分でアマガに与えることはせず、

 メリコにお菓子をパスした。


 メリコはチョコレートケーキを手にして、アマガに迫る。

「これを味わったら世界が変わる!」

「え、なに、ちょっと、やめ……」

 メリコは逃れようとするアマガを押さえつけて、口にチョコレートケーキを押し当てた。

 チョコレートケーキは潰れたが、破片くらいはアマガの口に入ったはずだ。

「む、ふが、ふご! ん……!」

 アマガが身体をピンと硬直させた。

 赤い瞳から光が消える。

 しかし数瞬後、瞳は喜びの潤いで満たされた。

 アマガはのけぞりながら叫ぶ。

「おいしぃぃぃぃぃぃー! おいしさむっちゃですわぁぁぁぁー! あぁぁぁ! もっと! もっとくださいまし!」


 ここまでくればもう安心だった。メリコは勝利宣言をする。

「どうだ、まいったか! これが地球文明に秘められし力!」


 鈴木も肩の力を抜いた。

「勝った……。力を使わずに……」


 地球の平和と鈴木の髪は守られた。

 アマガはおとなしく乙女座りになって、

 潰れたチョコレートケーキをもくもく味わっていた。 

 顔全体が喜びと好奇心で輝いている。


「次はこれどーぞ」

 メリコは皮をむいたバナナをアマガに差しだす。

 手と口のまわりをチョコレートだらけにしたアマガは目を見開いて受けとり、

 なんの疑いも持っていない様子でかじりつく。

 その身体が感激に震える。

「おぉぉいぃぃしぃぃぃーっ! なんですのこれ?! なんですのこれ!?」


 普段から味覚に乏しい食事をしているので、

 アマガもメリコも味を表現する語彙が不足していた。

 おいしいとしか言えない。

 それでもメリコには同僚が感じているはずの衝撃と感激を理解できるようだった。

 勝ち誇ったように解説する。

「バナナよ! それはバナナっていうの。木から生えてくるんだけど、地球人はそれを操作して大量生産してるんだって! すごいでしょ、地球文明!」

 アマガはバナナを飲みこみながらこくこく頷いた。口のなかが空になると同意する。

「地球文明すごいですわ! 食べ物がおいしいなんてすごいですわ!」

「これも! これも! 地球文明すごい! パックを開けて食べてね! アタシも食べる!」


 メリコはアマガの頭にクッキーとキャンディの雨を降らせた。

 きゃーきゃーいいながら二人でお菓子にまみれる。


 鈴木はそのコントみたいな光景を黙って見守る。

 安心したせいか喉が乾いたので水を汲んで飲んだ。

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