8
深く、深く沈んでいく感覚に身を任せる。そして足が地面につく感じがして目を開く。
「っ……」
眼前に広がる大自然とその中にある町に、思わず目を見開く。
ここはどこだろう。思っていた場所とは違うところにたどり着いてしまった。でもここはユーリの記憶の中のはず。
「私がちゃんとやれていたらの話だけど……」
いや、ここは自分を信じてユーリの記憶の中だと信じよう。だからどこかに毒に染められ続けている記憶の中のユーリがいるはずだ。
「リーヤは、そのユーリをどうにかすれば解毒できるって言ってたけど……」
広そうな町だから、闇雲に探しても見つけられない気がする。だけどこのまま動かないでいるのは時間の無駄だ。
「……ルナ。ルナならもしかすると見つけられるかもしれない」
そう思った私は心の中でルナを呼ぶ。そしてルナの姿をしっかり思い浮かべる。
「……ウォン! ワンッ!」
「ルナ。来てくれてありがとう」
「ワンッ」
来てくれたルナを撫で回す。そしてルナの顔に触れて、まっすぐ見つめる。
「ルナ。お願い。あなたの力を貸して」
「ウォン!」
「ユーリを見つけてほしいの。私だと見つけるのに時間がかかってしまうから」
「ウォン! ワンッ!」
「そっちだね。わかった」
「ウォン!」
ルナが町ではなく森のほうへ向かって少し歩く。私はルナに確認してから続いて歩き始める。そして少しずつ歩く速さを上げていき、走り出す。
体力は前よりある。すぐにはバテない。大丈夫。
「ユーリ。今行くから」
私は呟き、ルナの背を追った。そしてしばらく走り続けていると、森の中に一軒家が見えてくる。するとルナが走る速度を落としたので、私も徐々に落とし歩く。
「クウ」
「ここにいるんだね……」
「ウォン」
ルナの視線の先、そこにはまだ幼いユーリの姿があった。
「……違う」
何が違うのかわからない。だけど私の勘が私が探しているユーリは、あの幼いユーリじゃないと言っている。
それなのに、なぜ私は幼いユーリから目が離せないんだろう。
「……! おねえちゃんだ!」
振り返った幼いユーリと目が合った瞬間、彼は花が咲いたように笑い私のところまで走ってきた。そして立ち止まり、私を見上げ口を開いた。
「おねえちゃん! あいにきてくれたの?」
「……」
その問いかけに、私は後ろに誰かいないか確認をしてしまう。だけど誰もいなくて。ユーリが話しかけている人物が私だと理解する。なので幼いユーリと目線が合うようにしゃがみ、ユーリが怖くないように笑う。するとユーリは嬉しそうに笑って、小さな手のひらを私に差し出した。
「おねえちゃん。これ、ぼくのたからもの」
「宝物?」
「うん!」
差し出された手のひらをじっと見るけど、何も乗っていなくて困ってしまう。
これは、見えない私がいけないかもしれない……。
「おねえちゃん。これはね、未来のユーリがすてた思い出だよ」
「え……?」
「ぼくがしんだら、だれもおもいださないから……みんながしんじゃうの」
「……」
「ぼくはそれがとってもかなしい。だからぼくはしねないの」
そう言った幼いユーリは悲しそうに、自分の手のひらを見つめる。
「……」
今の話を聞く限り、ユーリのご両親や他の仲間の人たちは……ユーリを残して亡くなっている。だからユーリは死ねない。ミリアさんのお願いを聞いていたのは死なないため。でも、それならなぜ毒を飲んだんだろう。
「ぼくのきもちと、おおきくなったぼくのおもいがすれちがっちゃったの」
私の疑問に答えるようにそう呟いた幼いユーリは、私をまっすぐ見つめ言葉を続けた。
「おねえちゃん。おねがい。おおきくなったぼくに、これをわたして」
「っ……」
さっきまで本当に何も見えなかったのに、今は小さな欠片が幼いユーリの手のひらに乗っているのが見える。
「これはぼくのおかあさんとおとうさんがくれた、おはなのまほうせきのかけら。おおきくなったぼくがすててあるいちゃったの。だからおねえちゃん。これをぜんぶあつめて、おおきくなったぼくにわたしてほしいの」
幼いユーリの言葉に反応するように、きらきらと七色に光る小さな欠片。それをそっと受け取り、幼いユーリに笑顔で答える。
「任せて。ちゃんと大きなユーリに渡してくるね」
「うん!」
「ありがとう。私がいることに気づいてくれて」
「ぼくもありがとう。おねえちゃんにあってから、おおきなぼくはぼくをおもいだしてくれるようになったんだ。だからぼくはおねえちゃんにあえたの」
そう言って笑う幼いユーリに私も笑い返す。
「……おねえちゃん」
「なあに?」
「おおきなぼくがだいじょうぶだったら、だきしめてほしいの」
「え……」
「だめ? おねえちゃんにぎゅってしてもらえたら、すごくすごーくしあわせなきもちになれるとおもうの」
「……大きなユーリは私が抱き締めたら、嫌な気持ちになるかもしれないよ?」
「ならないよ。だってそのときのおおきなぼくは、ぼくだから。だからぜったいにしあわせなきもちになるよ」
「……」
自信満々に言われると、ユーリを抱き締められないとは言えなくて。私はただ曖昧に笑い、ゆっくりと頷いた。そしてそれを確認した幼いユーリは「やくそくだよ。ぜっいだからね」と念を押して、静かに空気に溶けて消えた。




