表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/92

 深く、深く沈んでいく感覚に身を任せる。そして足が地面につく感じがして目を開く。


「っ……」


 眼前に広がる大自然とその中にある町に、思わず目を見開く。


 ここはどこだろう。思っていた場所とは違うところにたどり着いてしまった。でもここはユーリの記憶の中のはず。


「私がちゃんとやれていたらの話だけど……」


 いや、ここは自分を信じてユーリの記憶の中だと信じよう。だからどこかに毒に染められ続けている記憶の中(いしき)のユーリがいるはずだ。


「リーヤは、そのユーリをどうにかすれば解毒できるって言ってたけど……」


 広そうな町だから、闇雲に探しても見つけられない気がする。だけどこのまま動かないでいるのは時間の無駄だ。


「……ルナ。ルナならもしかすると見つけられるかもしれない」


 そう思った私は心の中でルナを呼ぶ。そしてルナの姿をしっかり思い浮かべる。


「……ウォン! ワンッ!」


「ルナ。来てくれてありがとう」


「ワンッ」


 来てくれたルナを撫で回す。そしてルナの顔に触れて、まっすぐ見つめる。


「ルナ。お願い。あなたの力を貸して」


「ウォン!」


「ユーリを見つけてほしいの。私だと見つけるのに時間がかかってしまうから」


「ウォン! ワンッ!」


「そっちだね。わかった」


「ウォン!」


 ルナが町ではなく森のほうへ向かって少し歩く。私はルナに確認してから続いて歩き始める。そして少しずつ歩く速さを上げていき、走り出す。


 体力は前よりある。すぐにはバテない。大丈夫。


「ユーリ。今行くから」


 私は呟き、ルナの背を追った。そしてしばらく走り続けていると、森の中に一軒家が見えてくる。するとルナが走る速度を落としたので、私も徐々に落とし歩く。


「クウ」


「ここにいるんだね……」


「ウォン」


 ルナの視線の先、そこにはまだ幼いユーリの姿があった。


「……違う」


 何が違うのかわからない。だけど私の勘が私が探しているユーリは、あの幼いユーリじゃないと言っている。


 それなのに、なぜ私は幼いユーリから目が離せないんだろう。


「……! おねえちゃんだ!」


 振り返った幼いユーリと目が合った瞬間、彼は花が咲いたように笑い私のところまで走ってきた。そして立ち止まり、私を見上げ口を開いた。


「おねえちゃん! あいにきてくれたの?」


「……」


 その問いかけに、私は後ろに誰かいないか確認をしてしまう。だけど誰もいなくて。ユーリが話しかけている人物が私だと理解する。なので幼いユーリと目線が合うようにしゃがみ、ユーリが怖くないように笑う。するとユーリは嬉しそうに笑って、小さな手のひらを私に差し出した。


「おねえちゃん。これ、ぼくのたからもの」


「宝物?」


「うん!」


 差し出された手のひらをじっと見るけど、何も乗っていなくて困ってしまう。


 これは、見えない私がいけないかもしれない……。


「おねえちゃん。これはね、未来のユーリ(ぼく)がすてた思い出(こころ)だよ」


「え……?」


「ぼくがしんだら、だれもおもいださないから……みんながしんじゃうの」


「……」


「ぼくはそれがとってもかなしい。だからぼくはしねないの」


 そう言った幼いユーリは悲しそうに、自分の手のひらを見つめる。


「……」


 今の話を聞く限り、ユーリのご両親や他の仲間の人たちは……ユーリを残して亡くなっている。だからユーリは死ねない。ミリアさんのお願いを聞いていたのは死なないため。でも、それならなぜ毒を飲んだんだろう。


「ぼくのきもちと、おおきくなったぼくのおもいがすれちがっちゃったの」


 私の疑問に答えるようにそう呟いた幼いユーリは、私をまっすぐ見つめ言葉を続けた。


「おねえちゃん。おねがい。おおきくなったぼくに、これをわたして」


「っ……」


 さっきまで本当に何も見えなかったのに、今は小さな欠片が幼いユーリの手のひらに乗っているのが見える。


「これはぼくのおかあさんとおとうさんがくれた、おはなのまほうせきのかけら。おおきくなったぼくがすててあるいちゃったの。だからおねえちゃん。これをぜんぶあつめて、おおきくなったぼくにわたしてほしいの」


 幼いユーリの言葉に反応するように、きらきらと七色に光る小さな欠片。それをそっと受け取り、幼いユーリに笑顔で答える。


「任せて。ちゃんと大きなユーリに渡してくるね」


「うん!」


「ありがとう。私がいることに気づいてくれて」


「ぼくもありがとう。おねえちゃんにあってから、おおきなぼくはぼくをおもいだしてくれるようになったんだ。だからぼくはおねえちゃんにあえたの」


 そう言って笑う幼いユーリに私も笑い返す。


「……おねえちゃん」


「なあに?」


「おおきなぼくがだいじょうぶだったら、だきしめてほしいの」


「え……」


「だめ? おねえちゃんにぎゅってしてもらえたら、すごくすごーくしあわせなきもちになれるとおもうの」


「……大きなユーリは私が抱き締めたら、嫌な気持ちになるかもしれないよ?」


「ならないよ。だってそのときのおおきなぼくは、ぼくだから。だからぜったいにしあわせなきもちになるよ」


「……」


 自信満々に言われると、ユーリを抱き締められないとは言えなくて。私はただ曖昧に笑い、ゆっくりと頷いた。そしてそれを確認した幼いユーリは「やくそくだよ。ぜっいだからね」と念を押して、静かに空気に溶けて消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ