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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第五章「女子バスケ部には絶対に負けられません‼ですよね、兄様っ‼」
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いやあ、まさか私と杉内少年が一戦を交えることになるなど、誰が予想できたでしょうなあ

「おい、あれ……」

 入場と同時に、観客席から(いぶか)し気な声が上がった。

 プログラムの六番目に特別イベントとして行われる、女子のチーム対抗騎馬戦。その出場者の中に、俺の姿がある異様さを観客は見逃さなかったようだった。

 俺もそのくらいは見越しているが――。

 逆に出場者たちが俺の風体に違和感の一つも持っていないように見える方が不思議だったのだ。

 ただ。

「兄様、もしかして……」

 ――こいつは見越していなかったらしい。

「兄様の変装がばれてしまったのでは……!?」

 なぜバレないと思ったのか、こっちが知りたい。

「大丈夫だよ、きっとバレてない」

 紗那を安心させるように言う姫ヶ崎。

 こいつなら、案外本当にばれていないと思っているのかもしれない――。

 そして、タイミング悪く列の後ろの方から聴き慣れた声が。

「おお、これはこれは! 杉内少年ではありませんか」 

 まさか――。

 道明寺ほかけも、この騎馬戦に出場していると言うのか?

 俺の前を歩いている紗那の動きが、凍り付いたように見えた。

「こ、これは一体どういうことでしょうか、兄様……」

「それは俺が訊きたい……」


 本来、道明寺が騎馬戦に出ないから俺は彼女の名前で出場することになったはずだ。同一人物は、同時にエントリーできないはず。考えてみれば、当然の話だ。

 でも、出場者の中には道明寺がいる。

 つまり、今の状態は、名簿上道明寺が二人いるということ。

「いやあ、まさか私と杉内少年が一戦を交えることになるなど、誰が予想できたでしょうなあ。まさしく、青天の霹靂(へきれき)とはこのことですなあ」

 道明寺は、紗那がいまだに凍り付いているのにもお構いなしに、俺に近づいてくる。

 しかも青天の霹靂って。俺にとっては、寝耳に水のほうが適切な言葉だと思えるが――。

 青天の霹靂なんて綺麗(きれい)な言葉で表現できる事態じゃないぞこれは。

「園芸部チームの参加者に急病人が出て、急遽(きゅうきょ)私が代役として参加することになったのです」

 なるほど――そう言うことか。

「この道明寺ほかけ、本当ならば美少女に触り放題のこのボーナスステージ、参加を見送るなど本来はあり得ないのですが、なかなか同志が集まらず困っていたところだったのですよ。皆さん意外とシャイでして……」

 今とても不穏な言葉が聞こえた気がしたのだが、とりあえず黙っておこう。

 多分俺の聞き違いだ。希望的推測だけど。

「どこかの騎馬に空きが出ないか、虎視(こし)眈々(たんたん)と狙っておりましたら、偶然にも園芸部の騎馬に欠員が出たという話を耳にして、こうして代役に立ったわけであります」

 病床の園芸部員の代わりとして、頑張っておさわりさせていただきますぞ、と言う道明寺。

 多分急病で出られなくなった園芸部の奴はそんなこと爪の先ほども望んでいないはずだ。


「あ、兄様……」

 紗那が、恐る恐るこちらを振り向く。

「道明寺様が二人……これは傍目(はため)に見て、過分に怪しい状況なのではないでしょうか」

 確かに怪しい状況だが――。

「いや、案ずるな。周りは多分そんな風には見ていない」

 多分俺のことは、女装した変な奴としか思われていないはずだ。

 姫ヶ崎がいなければ、とっくに穴でも掘ってそこに入っているところだ。

 でも、姫ヶ崎のためにも、この騎馬戦には参加しないといけないと思う。

 だから――。

 バレることも前提として、俺はこの場所に来たのだ。

 今更どう思われたって、俺の知ったことではない。

 観客席の教職員エリアを通りかかった時に、あの蜥蜴(とかげ)女――賀茂川(かもがわ)楓子(かえでこ)が嫌味たらしい爬虫類(はちゅうるい)的な視線を投げるでもなく、「えっ……」と言って三十センチくらい椅子を引いたのは、さすがに応えたけれど。


 全体練習をしていないとは思えないほどスムーズに、すべてのチームが運動場に整列した。

「さあやってまいりました、毎年恒例のチーム対抗騎馬戦対決・女子の部……」

 放送部の部員が、やたらハイテンションにまくしたてる。

「前年度の優勝チーム・女子バスケ部に対するのは、全三十七チームの挑戦者たち!」

 完全に女子バスケ部の牙城(がじょう)なんだな――。

 体育祭を盛り上げるための余興のようなものだと思っていたので、去年はあまり注意して見ていなかった。

 そして、驚いたのはチームの多さ。そんなにたくさんのチームが参加するものだとは、俺は知らなかった。

 この三十七という数字の中に、弘学寮チームも含まれている。

「それでは、各自騎馬の用意を!」

 放送部員の指示を合図に、運動場に集まった女子生徒全員が騎馬を組みだす様子は、一種壮観(そうかん)だった。

「我々も騎馬を組むぞ」

 御影の合図とともに、俺たちも騎馬の形を作る。

 一回戦と三回戦の騎手は紗那。そして、二回戦の騎手は甲賀沼だ。

 先頭から御影、俺と姫ヶ崎、霧ヶ峰の順に並んで、騎馬を作る。二回戦しか出ない甲賀沼と鷹司は一回休みだ。

「精々本番では衝動を抑えられるように頑張るんだな」

 後ろで腕を組んだ鷹司が揶揄(からか)うように言う。

「あれは事故なんだって……」

 しかも、過去のことを蒸し返すなと自分で言っておいて、その舌の根も乾かぬうちに――。

「私も非力ながら君たちの勝利と、杉内鳳明の身にラッキースケベ多かれと祈るよ」

「そんなもん祈るなお前は……」

「そうですよ! それに、鷹司様も参加するのですよ」

 本当に分かっていらっしゃるのですか、と言う紗那。  

 鷹司はそれに何か突っかかるでもなく、「ああ。分かっているさ」と呟くように返す。

「では、頑張り給えよ。くれぐれも私に恥をかかせないようにな」

「さあ、一世一代の大勝負の火蓋(ひぶた)が、切って落とされようとしています!」

 大袈裟(おおげさ)な放送部員の(あお)りに、場が静まりかえる。

 空砲が、五月には早すぎる炎天の下に鳴り響いた。

「出陣です!」

 紗那がそう叫ぶと同時に、俺たちの騎馬が運動場に引かれた白線を超えて走り出した。

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