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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第四章「最後はやっぱり愛、ですよね!」
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何であいつがそんなこと気にするんだよ……⁉

「おかしいですなあ……」

 冷蔵庫を覗き見て不思議そうな表情を浮かべる。

「ここくらいしか隠し場所はなさそうなものなのに……」

 そう言って、辺りを見回す。

「どうした? 道明寺」

「いえ、杉内少年は物を隠す時どこに隠しているのか、ちょっと不思議に思いまして」

「道明寺……それは止めてやってくれ……」

 黒瀬が呆れたように言う。

「お前ら何の話をしてるんだ、さっきから」

 俺が訊くと、黒瀬が耳打ちする。

「あいつはお前の部屋にエロ本がないのが不思議で仕方ないらしい……」

「何であいつがそんなこと気にするんだよ……⁉」

 黒瀬曰く道明寺は「年頃の男子たる者エロ本の十や二十は持っていて当然! 見ることはあっても引くことはありませんぞ!」という思想の持ち主であるらしい。

 いや、そりゃそうかもしれんが――。

 女子にエロ本を探されるこっちの身にもなってくれ。

「おかしいですな……」

 そう言って、部屋の探索を止める道明寺。

 こいつはもう少し自分が女子であることを自覚した方がいい。

 それも、うちの高校の女子中でもかなりの美少女であるということを――。


 それはさておき――。

 確か紗那も「兄様に栄養を取っていただかなければなりません!」とは言っていた。その時は、紗那が差し出したのが明らかに病人にはハードルの高い固形物だったので、俺の方から固辞したわけだが。

 それと、腹が減った――。

 それを言うと、二人に笑われた。

「笑うことはないだろ、笑うことは」

「悪い悪い。でも腹が減るのは、回復の証なんじゃないか?」

 そうですそうです、と横で頷く道明寺。

「確かにアイスクリームや果物だけでは、十分とは言えませんな」

 そう言って、二人で顔を見合わせる。

「何だよ、お前ら――」 

 俺には意図がさっぱり理解できなかったが、黒瀬と道明寺は「じゃあ、そういうことだから」「この先は少年がご想像下され」と言って、部屋を去って行った。


 でも、食べ物をくれたのは有難い。俺は布団を出て、旧式のくすんだアイボリー色の冷蔵庫の前まで移動する。

 これだけの移動でもかなり体力を使う。まだ回復は遠いということか。

 俺は、冷蔵庫の扉を開ける。

 林檎を一つ取って、一口かじった。

 その途端、二日以上、もっと長い間食事をとっていなかったような気がした。

 どうして俺は今まで平気でいられたんだ――⁉

 気づいた時には、手にあったはずの林檎がなくなっていた。

 そうだ、まだアイスクリームがある。

 俺は、冷凍室に手を伸ばす――。

「兄様!」

 しかし、突然飛び込んで来たその声に、俺は動きを止めた。

「わたくしが目を離している間に……。あれほど、安静にしていてくださいと申し上げたではありませんか。手のかかる兄様には困ったものです」

 敬語こそ使っているが、紗那の言葉は内容的には子供を責める時のそれだ。

 俺はすごすごと布団に引き下がる。

「ん? 兄様……もしかして」

 紗那は、何かに気づいたような顔をすると、「あ!」と言って、次の瞬間には俺の枕元に三つ指をついていた。

「申し訳ございませんでした。わたくしが、至らなかったばかりに……」

「おいおい、いきなりどうしたんだよ……」

「兄様、お腹がお空きだったのでしょう」

「ま、まあそうだが……」

 俺が答えると、紗那は「やっぱり」と言った。

「さぞお辛かったでしょう……」

 実を言うと、俺はさっきまで全く食欲がわかなかったので、別に辛い思いはしていない。

「お詫びに、林檎を剥いて差し上げます」

 そう言って、台所――とも言えないほど小さい調理スペースに向かう紗那。


「誰か来てたのか?」

 俺は、背中を向けている紗那に問う。

「兄様、聞いてらしたのですか!」

 紗那が、驚いたようにこちらを見て答えた。

「立ち聞きは困ります!」

 頬を膨らます紗那。

 可愛いと思ってやってるのか――?

 実際、可愛いと思うときもあるけれど。

 そんなことを考えていると紗那に言われてしまった。

「わたくしの顔など回復したらいくらでもお見せしますから、今は寝ていてください」

「分かったよ」 

 俺は素直に布団に潜り込む。

「今日来ていたのは、わたくしの同級生です。ご安心ください」

 何を「ご安心ください」なのか――でも、紗那に友達がいて安心したことは事実だ。

「部活も一緒なんですよ」 

 二人の同級生は、学文路(かむろ)(かおる)証城寺(しょうじょうじ)束紗(つかさ)と言う名前らしい。

 覚えても多分接点はないだろうが、紗那の話を聞いていれば自然に覚えてしまうだろう。もしかしたら紗那の部屋を出る時に会うこともあるかもしれないし。

「うるさかったでしょうか。もしや、ご迷惑だったのでは――」

「いや、別にそれはいいんだ」

 うるさくしたことを気にするなら、もっといろいろ気にする場面があるだろうがと思うが。

 それは、今度紗那がうるさくしたときに言ってやろう。

「兄様が倒れた話をしたら、二人とも心配して……わたくしは、お見舞いしてはどうかと二人にも言ったのですが、薫も束紗も遠慮してしまって……」

「そりゃ普通遠慮するだろうな」

 妹の同級生が俺の寝ている部屋にずかずかと上がり込んで、「この度はとんだことで……」なんて言い出したら、そっちの方が驚きだ。

 でも、紗那のことだから。

 また大袈裟(おおげさ)に、俺の病状を伝えたんだろうな――。


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