いや、お料理CQCって何だよ……
「デュフフフ……美少女の手料理がただで食べ放題とは、僥倖ですなあ」
この言葉が、蕭条学園の中でも一、二を争う美少女の口から発せられているなど、にわかには信じがたい。
仮にも、お嬢様ぞろいの超名門校だ。
「おほほほほ」なんて笑い方をする奴はまずいないだろうが、もう少し上品な笑い方ができないものだろうかと思う。
ともかく、紗那が連れて来たのは、青い髪を風になびかせた、一枚画からそのまま飛び出て来たような少女。
うちの学校の女子生徒である。
彼女の瞳が輝いているのは、光が反射していることだけが理由ではないだろう。
「道明寺ほかけ様です」
紗那は、俺とその場にいた姫ヶ崎、御影、甲賀沼に向かって紹介する。今日は霧ヶ峰は生徒会の仕事、鷹司はいつものように図書館に向かった。
「道明寺様には、今回のお料理CQCの審査員を務めていただきます」
「いや、お料理CQCって何だよ……」
そんな近接格闘技は聞いたことがない。
「しかし、揃いも揃って私好みの女の子ばかり……」
道明寺は三人を見回して言う。
「杉内少年も隅にはおけませんな!」
道明寺女史はそう言って、美少女オーラ全開で肘で俺をつつく。
柔らかい肌だ――ではなく。
紗那がものすごい形相でこちらを睨んでいる。道明寺には早く離れてもらいたいところだ。
紗那は自分の選んだ五人と俺が恋仲になるのは推奨しているが、それ以外の女子と俺が接触することには厳しい。
要は自分の認めた相手以外とはくっついてほしくないのだ。さすがの溺愛ぶりである。
しかも俺と道明寺って同い年だったはずだが。
あの後、結局弘学寮の女子六人で、料理の腕前を競うということで話が決まった。
「体育祭との日程の兼ね合いも考えないといけないわね」
霧ヶ峰の提案に従って、練習日程と被らないゴールデンウィーク前の金曜日の放課後に行われることになった。
「うちの生徒、やたらと行事には熱心だから」
ベテラン教師のような風格を醸し出すミニ風紀委員――もとい、遅刻指導のおばさん。
「体育祭の練習期間になっちゃったら、そんなことしてる暇ないわよ」
「確かに、そのようですね」
紗那も、いかに体育祭がこの学校で大々的なイベントかということは、聞き及んでいるらしかった。
「まあ、退屈な寮生活が続いちゃ、何かに入れ込まないとやってらんないってのはちょっと分かる気もするけど」
うちの寮はそれどころじゃないけどね、と霧ヶ峰は続ける。
確かに光潤寮みたいなところの生徒たちなら、体育祭に熱を上げる気持ちも良く分かる。何せ遊園地に男だけで行くような連中だ。楽しみと言ったら学校行事くらいしかないのかもしれない。
ゴールデンウィーク前の金曜日になったのは、全員の予定の空いている日がたまたまその日しかなかったからだ。
この寮の女子たちはなかなか多忙らしい。
「聖花は女子バレー部の練習があって、月、水、木は駄目――」
霧ヶ峰が姫ヶ崎の予定を把握しているのが少し気になったが、俺にはそれよりも意外だったことがあった。
「姫ヶ崎って女子バレー部なのか?」
「ええ、そうよ」
霧ヶ峰が、そんなことも知らないのか、と言わんばかりの視線を俺に送る。知っていたら知っていたで気持ち悪がるくせに。
「ええ、わたくしの部活の先輩です」
紗那も女子バレー部に誘われて入ったと言っていた。こいつのジャンプ力なら、バレー部に入っても活躍できるだろう。
でも、姫ヶ崎と運動のイメージは、俺の中では結びつかない。
それを言うと、霧ヶ峰に「聖花だって運動くらいできるわよ」と言い返された。
「まあ、練習中も相変わらずドジばっかりみたいだけど」
それなら何となく分かる。あの天然ガールのことだ。
御影は剣道部の練習、甲賀沼は科学技術部とかなんとかの用事、鷹司は鷹司で「私ほどになるといろいろ頼りにされることが多くてな」と言うことで、皆それぞれ多忙らしかった。
「では、試合は一週間後。それまでに皆様、料理の腕を磨いてきてくださいね」
紗那が言うと、霧ヶ峰が「あんたも頑張るのよ!」と突っ込む。
――というのが、「お料理CQC」の開催が決定された顛末だ。
「しかし紗那殿、お尋ね申したいことがあるのだが」
御影が一歩前に進み出て言う。
「なぜ道明寺殿を審査員に加えることになったのだ?」
「本来は兄様おひとりに審査していただく予定だったのですが、わたくしが急遽参戦することになったため、審査の公平性を確保するために外部の方を入れることにしたのです。それで、真っ先に手を上げたのが、こちらにいらっしゃる道明寺様なのですが」
兄様はわたくしに一票入れたいでしょうから――と言うことか。
道明寺は、紗那の紹介を受けて、三人に自己紹介をする。
「西に天然記念物ものの眼鏡っ娘あれば、眼鏡の曇りを舐めとってあげるついでに全身をご賞味、東に国宝もののSっ気過多なツンデレ娘あれば、スカートの中身を覗いて足蹴にされるというフルコースを堪能する……ともかく、この道明寺ほかけが美少女とあってその風聞を聞き逃すことは万に一つもありませんぞっ!」
見事に迷惑行為ばかりだ――。
それに「全身をご賞味」なんて、俺が言ったら一か月は許してもらえないレベルの生々しい発言だ。
姫ヶ崎なんて、若干引いている。御影も警戒して、腰に差した竹刀に手を掛けている。
よくこんな奴に審査してもらおうなんて思ったな。
「おっと、ご心配なく。今のは、悪気の無い冗談ですので」
悪気しかなかったと思う。
「美少女のパンツと言わずにスカートの中という。その心は」
甲賀沼も余計なことを――。
「はいてないという可能性を考慮したのです」
「なるほど……一理あるわね」
妙なところで合意が形成されたようだった。
「ちなみに杉内君も今日ははいてないわね」
「っ⁉」
冗談にしても程度ってもんがあるだろ――。
「あ……はあ……」
さすがの道明寺もこれには苦笑している。
「まあ……人の趣味はそれぞれですからなあ……」
違う、断じて違うんだ――。
「ええ。靴下の話だけどね」
「文化的ですなあ」
俺は靴下も下着も履いているのだが。
「靴下履いてることくらい見りゃ分かんだろ――」
俺の突っ込みに「杉内君のは見せ靴下なのね」と返す甲賀沼。見せない靴下と言うものがあれば教えて欲しいところだ。




