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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第一章「兄様に美味しい料理を食べさせて差し上げたいのです‼」
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そのド直球でセンスの欠片もない作戦名、何とかならなかったのか?

「私は姫ヶ崎様のことが心配です」

 夜になって、やっと回復した紗那が俺に言った。

 あの後、姫ヶ崎がもう一回お見舞いに来た時には布団にもぐって出てこなかった。また料理を食べさせられると思ったのだろう。

 姫ヶ崎はだいぶ心配していたので、もしかしたら「滋養のつく料理」をまた食べさせに来るかもしれない。

 いや――それは俺の考えすぎか。

 ともかく、紗那は回復した途端に姫ヶ崎の心配をしだした。

「姫ヶ崎様は、今のところはたった一点を除いて、鬼門院家の嫁として致命的な欠点は皆無なように思われます」

 確かに、他の四人よりはいいだろう――。

 いや。

 あいつらと俺の結婚の話は全く無関係だったはずじゃないか。少なくとも、紗那と鬼門院の家の人間の頭の中を除いて。

 他の四人と比較する意味なんてない。

「多少、抜けたところはありますが、鬼門院家という環境の中ではそれが意外とプラスに働く可能性もあると考えられます」

「確かにな――」

 霧ヶ峰のような人間には、鬼門院家の常識は到底受け入れられないだろう。

 でも姫ヶ崎も、根が真面目なところがあるしな――。

 その辺は、今の段階では何とも言えない。

「ですが――」

「それを差し引くに余りある欠点がある、と」

 紗那は、俺の言葉に黙って頷いた。

「鬼門院家の食事が、あんな――言葉は悪いですが、魑魅魍魎(ちみもうりょう)を一緒くたにして煮込んだような料理になっていいはずがありません」

「言うな……」 

 被害者ですから、と切実な表情で語る紗那。

「とにかく、まずは姫ヶ崎様の料理の腕前をどうにかしなければ、婚約者を選ぶどころではありません。私は多分その前に死にます」

「どんな料理だったんだよ……」

 今の今まで紗那が寝込んでいたことからも、ある程度は想像はつくが。

「新たな計画を始動させなければいけませんね……」

 紗那は顎に手を当てて、考え込む。

「姫ヶ崎様に料理の腕を上げていただく――題して、『姫ヶ崎様お料理大作戦!』を敢行しなければならないようです」

「おいおいおい……」

 考え込んだ割には――。

「そのド直球でセンスの欠片もない作戦名、何とかならなかったのか?」

「作戦名のセンスなんて必要ありません! 大事なのは今すぐ実行に移すことです!」

 それとも兄様は、何かセンスのある作戦名を思いつくのですか? と、紗那は逆に俺に問うてくる。

「いや――俺にもないけど」

「そうでしょう。兄様が考えつかないのですからわたくしに考えつくはずなどありません」

 こいつが言っていると、煽っているようにしか聞こえないから不思議だ。

 それはともかくとして――と紗那は続ける。

「計画の具体的な点についてはまだ決めていませんが、早急にとりかかる必要がありそうですね」

「そうしないと、お前の命が持たない、ってか」

 俺がそういうと紗那は、「兄様! 他人事だと思って」と反論する。

「兄様も餌食になるかもしれませんよ……」

 俺が、姫ヶ崎の料理の餌食に。

 食った料理に食われるのか――。

 でもそれを言葉遊びとして笑い飛ばすことは、紗那が泡を吹いて倒れている様を目の当たりにした俺にはできなかった。


 「姫ヶ崎様お料理大作戦!」という、いかにもセンスのない名前の計画。

 紗那と俺、そして姫ヶ崎の中学時代からの友人である霧ヶ峰も交えて、具体的には何をすればいいのか話し合うことになった。

 姫ヶ崎に肝心の作戦が知られてはいけないので、彼女の部屋から離れた紗那の部屋に集まることにした。何分壁が薄いので、近くの部屋で話し合うと内容がダダ漏れになる危険性がある。

「ここが紗那の部屋か……」

 意外と綺麗にしてるんだな――俺の第一印象はそれだ。

 最低限の家具は寮に備え付けられているが、それ以外の私物はあまり置いていないようだ。片付いているというより、すっきりしている、と言った方が正しいのか。

 それとも、まだ入居したばかりだから、これくらいが普通なのか。

「あまり物を入れては、床が抜けるのではないかと思いまして……」

 確かにそうだ。結局、あのボロ屋だ何だと酷評した弘学寮に、俺たちは住んでいる。

「いつか、建て替えてもらわないといけませんね」

 生徒が住んでいるのだから、建て替えてもらえる可能性は高いだろうと俺は思う。何せ、生徒がいないがゆえに二十年間も放置されていた寮だ。

 蕭条学園に限って、建て替えの資金がないとは考えられない。あれほどの授業料をふんだくっている。

 生徒が入れば、修理しない理由はない。

 俺がそれを言うと、紗那は期待に目を輝かせた。

「兄様! それは本当ですか⁉」

「いや、単なる俺の推測だけど」

「でも兄様の推測は五十七パーセントの確率で当たると言われていますし」

「そんな話をどこで聞いたんだよ……」

 しかも、俺の推測が良く当たるのか当たらないのか、微妙な数字だな。

「甲賀沼様から聞きました。何でも、兄様は推測が半分くらいの確率で当たるのでお仲間うちでは『ハーフ&ハーフ』と呼ばれているとか」

「誰がそんなピザみたいな名前で呼ばれるかよ……?」

 甲賀沼から聞いた話は信じるな、と俺は紗那に忠告した。


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