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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
① 第三章「男女七人、寮での共同生活――までは良かったのですが……」
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私も、少し、お持ちしましょうか……?

「全く、いい迷惑だよ。教室からも遠いしさ」

「我が妹ながら、足の速さが羨ましいぜ、ってか」

 紗那ちゃんは陸上部にでも入った方がいいな、と黒瀬は言った。

 黒瀬は勘違いをしている。紗那の運動能力が上がるのは、俺に関することだけだ。俺にしてみれば迷惑な能力だ。

 それに足が速くてもさほど関係ないと思うぞ――。

 いくら俊足でも、寮が教室棟から遠いというのは嫌なはずだ。

「まあ、でも決まったことだし、仕方ないか」

 そろそろ出るか、と俺は黒瀬に言う。

「そうだな。もう時間も時間だし。だって、寮の掃除もしないといけないんだろ?」

「そうらしいな。俺は行ったことないから、どんな状態になってるのかは知らんけど」

 虫が湧いたりとかしていなければいいが。

 一階に荷物を運ぶのは、光潤寮の奴でその時部屋にいた奴は全員手伝ってくれた。この荷物を、俺は弘学寮まで運ばなければならないというわけだ。黒瀬は手伝ってくれると言ったが、俺が断った。これ以上黒瀬に頼るわけにはいかない。

それに、紗那がリヤカーを手配してくれていると手紙の裏面に追伸として書いてあった。「トラックはさすがに用意できませんでした。至らない妹をお許しください」という文面付きで。もしもトラックが用意できたとしても、運転手がいなければどうしようもない。校地は蕭条学園の私有地だから、法律上は免許を持っていなくても運転は出来るはずだが、校内でトラックを乗り回したりなどしたら放校はまぬかれないだろう。

紗那が手配してくれたリヤカーは、すでに寮のガラス戸の前にあった。俺は、その荷台に荷物を積む。私物が少なかったからか、一回で運ぶことが出来そうだった。

「じゃ、行ってくるよ」

 俺は皆に見送られながら、リヤカーを()いて光潤寮を後にした。

 紗那が見たら、「兄様……皆様にこれほど慕われて……‼」とか言って感動の涙を流すような光景だ。

この場に紗那がいなくて本当に良かったと俺は思った。


 リヤカーにすべての荷物を載せて、弘学寮までの長い道のりを、俺一人で運ぶことになった。

 机や棚などは寮の備え付けなので、この荷物には含まれていない。それでも、全部合わせれば結構な重さになる。

 やはり、二回に分けて運ぶべきだったのか――でもこの道のりを一旦戻ってまたもう一度、と言うのはさすがに嫌だ。

 いずれにせよ、これは賀茂川の罰則などよりずっと苦行だ。

 自然、俺の視線も下に行きがちになる。

 だから、自分の目の前に人が立っていることにも、気が付かなかった。


「あの――」

 俺は、声の主にぶつかる寸前で止まった。

 顔を上げると、そこには髪をふわふわとカールさせた、気弱そうな少女が立っていた。

 かなり顔立ちは整っている。どこかで見たことがあるような気がするが、さて――。

 制服からすれば、俺と同じ二年生だろう。でも、どうしても俺より少し年下に見えるのは、俺より小柄なせいだけではないように思えた。

「荷物運ぶの、大変そう、ですね」

 彼女は、俺と目を合わさないようにしながら言う。

「私も、少し、お持ちしましょうか……?」

「え? 運ぶの手伝ってくれるのか?」

 意地汚く前のめりになってそう訊いてしまった俺だったが、本当に重かったのだから仕方ない。

 俺は断るべきだったのかもしれないし、普段なら絶対にそうしていた。でもこのときは本当に苦しかったのだ。

 言い訳するようだが――。

 何せ、今日の天気は雲一つない快晴。雨でなかったからまだいいにしても、太陽光が直接照り付けてくる道を、遥か遠くの弘学寮まで荷物を牽いて歩くことを考えただけで、体力がかなり削られる。

 彼女は、つい大声を上げてしまった俺に気おされるでもなく、コクリと小さく頷いた。

「でも、これ結構重いぞ」

 俺の後ろに回ろうとする彼女に、俺は言う。

 俺でさえ音を上げているのに、こんな華奢な娘に運ばせて本当に大丈夫なのだろうか。

 つい救いを求める気持ちで頼み込んでしまったが、本当によかったのか――それを思う余裕ができたのも、彼女に持ってもらえることを期待してのことかもしれないが。

 しかし、彼女はそれでも運ぶのを手伝うという気持ちは変わらないようで、リヤカーの後ろから動く気配は見せなかった。

「私、こう見えても、結構力はある方なので……」

 とてもそうは見えない。見るからに力はなさそうだ。

「私が後ろから押しますからね」

「悪いな。無理そうだったら、いつでも離れていいぞ」

 彼女の反応はリヤカーに積まれた荷物の山に隠れて見ることができない。

「じゃあ、押しますね」

「頼む!」

 俺は、リヤカーを引いて少し前進する。

 ちょっとずつ進んでいけばいいだろう。彼女がついてこれる程度には――。

 あまり速度を上げすぎないように、俺はゆっくりと脚を進めた。


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