初めてのリーダー
オツキ村までの道中は結構過酷だったんだよね。
山越えをする必要があったし、山でもとにかく魔獣とのエンカウントが多くて心が休まる暇は無かったから本当に困ったよ。
妹ちゃんとイオリちゃんはスキルの使い過ぎで今は何も出来ないし、エリシスさんはスキルを使いすぎてボロボロになりながらも何とか戦闘をしてくれている状態だし。
アヤも実は結構辛そうだし、何か策を考えないと‥‥しかし、状況は私に考える時間を与えてはくれなかった。またも魔獣が現れてしまった。
「ベビベヒベアーね。トモヤさんとエリシスさん、前に出てくださいね。妹ちゃんとイオリちゃんは私の後ろに、アヤは一体は仕留めて。ガルム、出て来て」
もう何度目かわからない戦闘に頭を抱えたくなった。
正直に言うと私ももうガルムを出すのも辛い。
でも、一応仮とは言えリーダーの私が弱音を吐くわけには行かない。リーダーのシンヤくんはもっと飄々としてたよね?
よく考えると何にもしていないように見えてうまくやっていたってことなのかな?
まぁ、彼の場合は私と違って『いざという時絶対に逃げずに仲間を守ろうとする』ところがパーティーメンバーに信頼されているんだと思うけど。
普段がアレだからわかりにくいけど、実際ここぞという時だけで言えばシンヤ君は頼りになるしね。
それに比べて私はなんて不甲斐ないんだろ。
「ふぅ、コトハ、もうお前は魔獣を出さなくてもいい、俺がなんとかする。」
トモヤさんはいらだたしげにそう言った後、ベビベヒベアーの群れに飛び込むと全て倒してしまった。
しかし、さすがに疲れたのか肩で息をしている。
「ごめんなさい、私の判断が悪いからトモヤさんに負担をかけて」
私は深々と頭を下げたけど、
「お前、オトコが居る時といない時じゃあ全然違うじゃねえか。全く役に立たねぇぞ。それにしても意外だな、オトコに依存するタイプだったなんてな。」
そこにトモヤさんが追い打ちをかけた。
「‥‥そんなことないもん。」
私は思わず子供っぽい抵抗をしてしまった。
「‥おまえ、なんで幼児退行してるんだよ?
普通、オトコに甘える時にそうなったりするんじゃないのか?」
またも、トモヤさんが私を責め立てるけど、私にそれを受け止めるだけの余裕はもうなかった。
涙腺から止め処なく涙が溢れ出す。
もう、こんなの嫌だよ。
こんな異世界から逃げ出したいよ。
「コトハ、大丈夫なん?ウチならここやからな。ほんま大丈夫?」
しかし、そんな様子の私に気付いたアヤが駆けてきて私をギュッと抱き締めてくれた。
かなり長い時間そうしていただろうか?
トクン、トクンッ、という彼女の鼓動の音を聞いているとだんだん落ち着いてきた。
なんだかんだでアヤは包容力があるんだよね。
さすが私の尊敬するアヤだ。
「ありがとう、アヤ。トモヤさん、すみませんでした、もう醜態は晒しませんので宇宙戦艦に乗ったつもりで安心していて下さい。」
私は胸を張ってそう宣言した。
それから更に暫く歩くとようやくオツキ村が見えて来た。
「もうすぐオツキ村だけど、何か様子が可笑しい。」
何故か村からは火の手が上がっている。
もしかして、、、、
「トモヤさん、偵察をお願い出来ませんか?危なくなったらすぐ逃げていただいても構いませんから」
「いや、良い判断だ。もう本当に心配することはないな。ちょっくら行ってくらぁ。」
そう言ってトモヤさんは道具袋の中身を小さい袋に詰め替えて、それを腰に結んだ。
残りは置いて行くみたい。
「お気をつけてください。」
「すまない、帝国の剣。どうかご武運を」
私と、エリシスさんが声をかけると、
「おぅおぅ、勝手に武功を立ててくるぜ。ふぁ〜っと、欠伸がでちまったな。まぁ、日が沈んでも戻らなかったらなるべく村から離れろよ。」
そう行って、トモヤさんはサッサとオツキ村へ向かって歩いて行ってしまった。
そして、夜になっても彼は戻ってこなかった。
「どうするのだ、コトハ殿?」
痺れを切らしたエリシスさんがリーダー代理である私に問いかけた。
「うーん、、ありがとアヤ。うん、分かってる。リーダー代理の私が結論を出さなきゃいけないんだよね?一旦砦までもどるけどみんないいかな?」
私の不安に気付いたアヤが手を握ってくれたので、落ち着きを取り戻した私は来た道を戻る事を提案することにした。
人1人を切り捨てる非情な提案だから、薄情だと罵られてもリーダー代理として受け止めるしかない。
「そうだな、彼1人ならそう簡単にやられはしないだろう。それに、シンヤ殿との合流があるし妥当な線だとおもうな」
しかし、エリシスさんが冷静に分析して私に賛同してくれた。
「イオリはそれがいいと思うの」
物凄く嬉しそうにイオリちゃんはそう言うし、
「それ、いい」
妹ちゃんも簡潔に、しかし口の端を上げて少し嬉しそうに賛同してくれる。
この2人は全然性格も違うが、『優先順位の一位がシンヤ君』というこの一点に関してだけは全く同じなんだよね。言い方は悪いけど『トモヤさんに全く興味がない』のがありありと分かってしまう態度なのが何とも言えない気分になってしまう。
そして勿論アヤも賛成してくれたので、私達は来た道を戻ることにした。




