初めての、わ、た、し、
「つ、疲れたぁ〜」
もう、一歩も歩けない。
「あの、も、もうちょっと頑張れないかしら?」
あれから結構歩いているが、ルイどころか、魔獣や騎士すら出てこない。
それで、弱音を吐いてしまったが、宮下さんは一刻でも早くルイに会いたいようで珍しく俺に懇願した。
「でも、ホントにすこしでいいからあそこで休憩しない?」
目の前には泉がある。
ロールプレイングなどでは 回復しそうだけど、飲んでも回復はしなかった。
「あっ、しまった」
気を抜いたとは言え、チョーヤバイ短剣を泉に落としてしまった。
でも、大丈夫。ちゃ〜んと、短剣は念のため、道具袋と細いワイヤーで繋いである。
よし、引き上げるぞ。
その時、泉が急に光を帯びた。
その為、俺たちは目を開けていられなくなってしまった。
暫くすると、光がおさまったようでようやく目を開けることができた。
なぜか目の前の泉に美女が浮かんでおり、口を開いた。
「あなたが落としたのはこの金の短剣ですか?それともこの銀の短剣ですか?それを決める為にダーツは如何かしら?」
そう微笑む彼女はアリアと瓜二つだった。
「いや、なにも落としてませんけど。その前にアリア、なにしてんの?」
俺はチョーヤバイ短剣を引き上げるため、ワイヤーを手繰り寄せながら美女に話しかけた。
「なんで、アリア様のことを呼び捨てなのですか?神罰をくらってもしりませんからね。
えっ?だって、、チョーヤバイ短剣を落としましたよね?」
しかし、彼女はアリアの部下?みたいで、どうやら俺のことがお気に召さないようだった。
「だって、アリアとは仲がいいし良くしてもらってるよ。‥よっと。チョーヤバイ短剣ってこれのこと?俺はなにも落としてないけど」
俺はチョーヤバイ短剣を引き上げて彼女に見せた。
「確かに、、、だからと言って人間ごときが私に勝ったつもりですか?アリア様だって、あなたのことなんて勇者側の手駒‥‥ハッ、なんでもないわ。それよりも、なにも落としていないと言えばそんなことはないはずです。あなたは私の美貌に「恋に落ちたとかまさか言わないよな?」
俺は彼女の言葉を遮ってそう告げると、美女は分かりやすく、顔からダラーッと汗を流し始めた、、、、そして、
「‥な、‥な、なに冗談言ってるんですか?そうですね、、えーと、、、あれよ、あれ、、ほら、わからないかしら、ニンゲン?」
そんな訳わからないことを言い始めたので
「そうでした。女神様は俺たちの探し物を探してくれるんですよね?ヒョウの魔獣を見かけませんでしたか?」
俺も便乗してルイについて聞いてみることにした。
「あー、あれ?あれはあなたの落し物でしたか?分かりました。じゃあ、また最初からやりますから、あの角曲がってまた戻ってきて下さい。」
美女に言われたとおり、角を曲がってまた戻ってくると、美女はもう居なかった。
あれ?もしかして、バツが悪くなって逃げたのか?とりあえず、アリアの部下みたいだし、アリアにチクって降格にでもしてもらおう。
そう考えながら、また、泉の前に立つと、、、
泉が急に光を帯びた。
その為、俺たちは目を開けていられなくなってしまった。
暫くすると、光がおさまったようでようやく目を開けることができた。
目の前の湖に美女が浮かんでおり、口を開いた。
「あなたが落としたのはこの金の魔獣ですか?それとも銀の魔獣ですか?それとも、わ、た、し、?」
はじめから全く同じシチュエーションをやり直しさせられたのも腹が立ったが、『わ、た、し、?』は『ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも、、、、』の後やないかいっ。って思わず関西弁でツッコミたいほどイラついた。
なんなの?アリアの関係者ってフツーの人は一人もいないのか。
しかし、冗談抜きで困った。
どうすれば正解を引けるんだ?
今回、あくまでも欲しいのは普通のルイだ。
良くある童話だと、金とか銀を選ぶと結局なにも貰えないというのがセオリーだし、だからと言って、『わ、た、し、』を選んでしまうのも厄介な気がするんだけど、、
もちろん、答えは『沈黙』、、、、な訳はないよな?
美女と見つめ合うこと五分、、、こんなに見つめあったのはもちろん、スライム以来だ。
彼女は何故か時折視線を下に向けるが、何をしたいのかよくわからなかった。
「宮下さん、何かいい答えが考えついた?」
「駄目‥‥まったく思い浮かばないの。ルイが、、ルイがもう手に届く所に居るのに、、」
宮下さんはそう言ってまた泣いてしまった。
「さすが宮下さんだ。ありがとう。」
しかし、彼女は大ヒントをだしてくれたみたいで、正解が分かった。
時間切れなどないとは思うが、俺は急いで服を脱ぎ始めた。
「もしかして、わ、た、し、を選ぶつもりなんですか?このケダモノ」
女神はそう言って自らをかき抱くような仕草をした。
しかし、なぜか頰は紅潮していた。
「橋本、、、サイテー」
宮下さんも涙声でボソッと呟いた。
チクショー、いつの時代でも、天才というのは理解されないものなんだな。
俺は悲しくて瞼に溜まった涙を誰にも秘密にするように、泉に飛び込んだ。
その泉は案外浅く、目的のものは見つかった。
泉の底にポッカリと空間がある。中には水がない、5メートル四方くらいの空間だ。その中に、、、居た。ルイだ。
俺はなんとかルイを抱えて岸まで戻ってきた。
意識がない、、ようだが、息はしているみたいだ。
「俺達はこのルイが欲しいので、金も銀もあなたも、いらないです。ヒントありがとう御座いました。」
そう、たぶん3つの選択肢どれを選んでもルイは手に入らなかった。
そして、欲しいものは人に与えてもらうのではなくて自らの手でてにいれろってことなんだろう。
童話より俺好みでいいと思う。
「いえ、欲深くないニンゲンは見ていて悪くはないですからね。まぁ、服を脱ぎ始めた時は殺そうかと思いましたけど、、、、」
彼女は女神のように微笑みながら、物騒なことを言う。
「うわぁ、殺されなくて良かった。」
「あ、1つ言い忘れてましたが、彼女は相当弱ってます。一旦スキル解除して、ここで療養させないと恐らく命が助かりません。スキルを受けているのも負担になる位弱ってますから。」
彼女が丁寧に説明してくれるが、それって、、ルイとお別れってこと?
「そうしないと、、、ルイは?」
泣きそうな顔での宮下さんの質問に
「死んでしまいますね。」
美女は場違いにも笑みを浮かべて答えた。
やはり、女神達は人間とは何処かズレた感性を持っているのだろうか?
「えっ、、、うん、、、、、、、、そっか。
お別れなんだ。うん、、、しょうがないよね」
宮下さんは泣き笑いの表情でスキル解除をすると、ルイを美女に預けるしかなかった。
そして、彼女は振り返らず少し上向きを見て早足で歩いていたが、そんなことでは瞼から流れる涙を留めることは出来ていなかった。




