初めてのダイイングメッセージ
「ところで気になるんだけどイオリの魔術にも制約だったり、反動だったりがあるの?」
「あると思うの。これをみて欲しいの。」
イオリはそう言うと首からぶら下げていたペンダントを外して俺に手渡すような仕草で掲げた。
なんなんだ?
ただのペンダントではないってことなのか?
しかし、俺は鑑定を持っていないし、パッと見ではこのペンダントの性能は分からなかった。
「これはまた珍しいものを、、、」
エリシスが訳知り顔で口を挟んできた。
俺とイオリのラブラブっぷりに嫉妬でもしたのか?
まぁ、冗談だけど、、、
「エリシス、知ってるのか?」
俺がそう訊くが、この反応で知らないはずはない。
「あぁ、コレは『前払いのペンダント』だよ。これをつけると、不幸な人がより不幸になる傾向があるらしくてね。その不幸が蓄積されて一定量を越えると、魔力に変換できるらしいのだが、私も見るのは初めてだ。」
ん?それって、、、、
「譲渡可能なら金の匂いがプンプンがするんだけど、、、」
例えば奴隷にこれを持たして、不幸が溜まった時点で売りさばくとかね。
他に魔力を溜めておけるアイテムをきいたことないし、かなり売れそうだ。
「いや、これは譲渡しても他人は使えないのであまり人気のアイテムではないのだよ。」
なるほどな、自分が不幸になって、得られるのが携帯用魔力だけだとあまり割に合うリターンだとも思えないな。
あまり、いい活用法もないのでこの話はここで終わることにした。
「シンヤ様、『ゾウ消失トリック』って何か教えて欲しいと思うの」
暫く無言で歩いていると、今度はなぜか突然イオリがそんなことを言いだした、、
あれ?なんで知ってるの?
「なんでそれ、知ってるの?」
「女の子の所に皆んなと走ってる時に呟いてたと思うの。きっと、シンヤ様の好きなことなんだと思うから、イオリも知りたいと思うの」
‥‥俺の興味を持っていることに興味を持ってもらえるってのは、本来ならとても嬉しいことだ。
例えば、好きなラノベに全然興味のない女の子が急に興味深そうにオススメのラノベを聞いてきたりしたらどう?滅茶苦茶嬉しかったりしない?
でも、今回は別だ。せっかく誤魔化せた自分の失敗を晒すことになってしまう。
とはいえ、なんとなくだけど、イオリにはウソはつきたくないので結局教えることにした。
例のゾウのトリックの話を耳元で囁く。
もちろん、最後に『二人だけのヒミツだからね』って言っておく。そう、秘密の共有は二人を近づける効果もあるらしいけど、この時の俺にはそんな効果を狙ったつもりは全くなく、ひたすらコトハさんやトモヤにバレないようにヒヤヒヤしていただけだった。
「さっきから気になってたけど宮下さん、大丈夫?」
そして、今度はやばい話題から逃げるように、俺はここ暫く存在感が皆無の宮下さんに話しかけると、
「‥ルイの、、、気配を感じないの、、、」
宮下さんが涙目で目を伏せて答えた。
俺もけるべろすが居なくなったら‥‥特に不安ではないな。
こいつ、ぜんぜん懐いてくれないし。
まぁ、そうは言っても探しに行くしかないか?
「皆、二手に別れよう。俺と宮下さんは戻る。他のメンバーは近くのオツキ村で待っててくれ。」
「ちょっと待って、2人で行くつもりなの?」
俺の指示にコトハさんから直ぐに反論が飛んだ。
「いや、トモヤは楓をお願いしたいし、後のメンバーは満身創痍だからね。」
うん、今回はちゃんと考えた挙句の提案だから即答した。
「確かにそうだけど、、せめて、、私かトモヤさんを一緒につけたほうがいいと思う。」
尚もコトハさんが食い下がる。
「うん、わかるけど、残ったメンバーの方が心配なんだよ。何しろ、どんな敵に出会うかわからないしね。」
「‥いや‥でも‥うーん‥‥わかったよ、、必ず無事に帰ってきてね。」
コトハさんが俺に目線を合わせずにそう言ってくれた。もしかして、反論が気に入らなかったのかな?『シンヤのクセに生意気だぞ。』とか思われてないか心配だ。
そして、皆んなと別れた俺と宮下さんはまた砦を抜けて、洞窟を降りて行った。
「宮下さん、なんか可愛いね」
「なにがよ?」
「その服の裾を掴んで付いてくるのが妙に可愛いけど、この状況でなんでそんなモテモテテクニックを使うの?」
女の子がワザとやる上目遣いとかそういう類のものだ。彼女は性格がアレだと知っているので特にときめいたりはしないけど、、、
「いやっ、コレは、、、たまたまに決まってるじゃない。たまたま掴みやすい位置にあったから掴んだだけよ。」
真っ赤になって否定する宮下さんを見て、今回は俺ですらハッキリと分かった。
たぶん、無意識で掴んだんだろうな。それで、指摘されて恥ずかしくなったんだろう。
でも、年頃の女の子がタマタマとか連呼しない方がいいと思うよ。
会話で気が緩んでいたのか、気づくのが遅れた。前方10メートル先くらいに亀がいる。
いや、しかし、紫色でかなり毒毒しい色をしている。
「宮下さん、手前の角を右に曲がる?それとも、宮下さんが戦ってみる?」
「イヤよ、あんな不気味な亀。橋下が戦いなさいよ。男の子でしょ?」
「イヤイヤ、ここはレディファースト。泣く泣く宮下さんに譲るよ。」
「アラ、普段は全然紳士な振る舞いしないクセにこういう時だけエセ紳士面するの?だからモテないのよ」
よりにもよって、かつて人生でただ一人俺に告白してくれた女の子に言われると結構こたえる、、、
「ちょっと宮下さん、なんで押すの?」
そう、宮下さんは俺の背中を押してくれた。
精神的な意味ではなく物理的に。
亀に向かって俺を押し出す形でだよ。
「さすが、橋本もオトコノコね。あんな不気味な亀のイケニ‥じゃなかったわ、、亀から身を挺して私を庇ってくれるなんて、見直したわ。」
うん、、、ツッコミどころ満載だけど、取り敢えず、『押すな押すなネタをしたい訳じゃないんだよ』とは言いたい。あと、力で宮下さんに全く敵わないよ、、
「宮下さん、よく見たらあの亀かわいいかも?ほら、触ってきなよ。」
女の子は可愛いって言えばその気になるんじゃないか?と思ってそう言ったが、、、
「じゃあ、橋本がお手本を見せてよ。」
と言いながらも宮下さんは俺の背中を押し続けるので、
「あっ、あれは?」
とか言って宮下さんの注意が逸れたところで手前の角を右に曲がって、亀との邂逅はアッサリ避けられた。
亀に特に敵対心はなかったんだろうか?
というか、宮下さん。俺をイケニエにしなくても最初からこうしてれば良かったんじゃない?それとも、俺を生け贄にしてルイを召喚でもするつもりだったの?
いわゆるアドバンス召還か?
そんなことを考えながら進んでいると、30メートルほど先に今度は騎士が一名立っていた。しかも、相手もこちらに気づいてしまったようだ。
一難去ってまた一難ってやつだ。
とりあえず、今度は戦闘態勢に入る。
実はさっき砦を抜けるときに良いものをみつけたんだよ。
俺は見つけたショートボウガンを構えて、騎士に狙いを定める。
使うのは初めてだが、もう距離は10m程度だ。
あんなデカイ的のどこかには当たるだろう。
「空をきり避けぇ、ターゲットオン」
おれはそう叫んでショートボーガンを発射した。ターゲットオンはただアヤのを真似ただけでスキルではない。ただ、テンションが上がって叫んでしまっただけだ。
しかし、放った瞬間、、、、騎士からからかなり上に外れることがわかってしまった。やはり、ぶっつけ本番は無理があったらしい。どこかのダーツの的みたいに騎士が矢に当たりに来てくれないとちょっと難しいな。
俺は直ぐにチョーヤバイ短剣を構えて、騎士を迎え撃つ。が、、、騎士は既にうつ伏せに倒れていた。
‥‥俺が剣を取り出す数瞬の間に何があった?
俺は後ろに居る宮下さんの方へ振り返って
「宮下さん、どんなスキル使ったの?」
そう尋ねたが、
「えっ?だって、、、橋下がやったんでしょ?」
宮下さんはしらばっくれていた。
しかし、視界に妙なモノがいることに気づいて慌てて敵の方を詳しく観察する。
うん、敵のすぐそこに逆さになった亀がいる。
例の不気味な亀だ。
もしかして、、、
「ダイイングメッセージ?」
俺は思わず呟いた。
でも、メッセージを残すにしてもどうせ容疑者は宮下さんに決まりな訳だし、、、
「橋本?バカなの?やっぱりバカなのよね?天井にへばりついてた亀を橋本が撃ったから亀が敵の頭の上に落ちただけよ」
えっ??
しかしまさかの犯人は俺だった、、、
死んでないよな?
とりあえず近づいて様子を見るが息はしてるようだったのでそのまま亀とともに置いていくことにした。




