初めてのドロボーネコ
「楓、楓〜、大丈夫か?目を覚ましてくれよ」
俺は必死に呼びかけるが彼女は目を覚ます様子がないどころか、まるで死んでいるかのようにピクリとも動かない。
それからアヤが楓の胸に耳をつけたが、別に百合百合しているわけではなかった。心音の確認をしているのだった。
「うん、心臓は動いてるみたいやなぁ」
そのまま今度は楓の口に顔を近づけると楓にキス‥ではなく、楓の口に耳元を当てて、
「楓ちゃん、息してへん。」
焦った顔をして俺に助けを求める。
人工呼吸、、、、迷っている暇はない。
確か、呼吸が止まってから約3分が勝負だったハズだ。急がないと。
俺はアヤを退かせて人工呼吸しようと楓に顔を近づけたところで、、、楓が噴き出した、、、
よく見るとコトハさんが楓の足の裏をくすぐっていた。
「クッ‥‥ウッ‥‥クックッ‥‥何をするの?
今、、、いい、、とこ、、フッ‥もう‥‥だ‥めぇ、、、キャハハハッ、フッ、フフフフフッ」
楓はまた再度笑いをこらえようとしているが、、彼女は非力なのでコトハさんを引き剥がすのに失敗してやはり爆笑していた。
「‥‥楓、なにやってるんだよ?本当に心配したんだからな。こういう時ふざけるのは兄ちゃん感心しないな」
俺はさすがに腹が立って楓を叱ったが、楓が目に涙をうかべると、これ以上責める気にはなれなくなった。
「あの?私を置いてきぼりにするのはやめてくれじゃん。これでも魔王軍の幹部の1人だし、まだ本気すら出してないのに。」
いきなり話しかけられて振り返った俺が見たのは、、、、先程の女の子だった。
「えっ?ほんとに?さっきは全然攻撃力のない技だったけど、幹部ってことはホントは強いのか?というか、幹部はみんな人間と会話できるの?」
見た目があまりに幼いので完全に油断したが、まさかサイスと同じ幹部だとは、、、逃げた方がいいかもしれない。
「あぁ、そう言えば君達はサイスとも会話をしてたね。言っておくけど、私はあいつほどバカじゃないじゃん。まぁ、あいつは純粋な戦闘力では先代の魔王様の次と言われてるから、よくもやったくれたニャーと言っておくじゃん。」
女の子が特に悔しそうな素振りも見せずにそんなことを言うが、サイスって魔王軍の中でもそんなに強かったのか?
確かに第3段階で既に手に負えない程圧倒的につよかったもんな。
でも、魔王はあれより遥かに強いってことだよな?
「そうなんだ?ということは戦えば俺たちの勝ちってことじゃないの?ほんとに戦うの?さっき自分で言ったけど、魔王様の次に強い相手にこっちは圧勝してるんだよ。」
俺は幹部と言えど、こんな小さな女の子と戦いたくないのでとにかく脅すことにしたが、、
「うーん、あいつは変身三段階の時に負けてたもんね。私でも勝てるんじゃん?」
女の子はまるでその場にいたような感じでそう言った。なんでしってるの?
「使い魔がいたってこと?あの娘は魔術師タイプってことなのかな?」
コトハさんがそう呟くと
「ご明察。せ〜かいっ。気を付けなきゃいけないのはそこの爆破っ娘だけかと思ってたけどそんなことなかったじゃ〜ん。わざわざ、ご忠告ありがと、さようなら」
あっさり肯定した女の子はコトハさんに向かって光弾を放った。
しかし、コトハさんの周りに光の膜ができたかと思うと、光弾は膜に跳ね返された。
イオリが光魔術で守ってくれたようだ。
さすがイオリさん。
「ふぅ〜、マジなんじゃん。やんねぇ〜、やっぱり警戒すべきなのは爆破っ娘だけじゃ〜ん。一回死んどくよね?」
少女はそう言うと今度はイオリへの光弾。
光の膜に弾かれる、、、が、、、更に寸分違わず同じ位置に連弾。6発目で光の膜にヒビが入ったかと思うと、7発目で、膜が砕け散る。
そして、8発目が、、、、、
『ザシュッ』
トモヤの剣に切り裂かれた。
「おいおい、俺をその辺の雑魚と一緒にしてもらったら困るぜ。オラッ、この程度か?何度でも、何十回でも俺の紅桜の餌食にしてくれる。かかってこい、雑魚」
トモヤは明らかに挑発して手招きしている。
若干セリフに厨二要素が入っているのは見て見ぬフリをした方がいいんだよな?
「、、、貴様、調子に乗りやがって、、ルゥックス、ヅ、ジュッデ‥「遅い、後ろだ、、」」
それに逆上した少女は無数の光の矢を放とうとしたが、いつの間にか彼女の背後に回り込んでいたトモヤに背中から切りつけられた。
「クソッ、、身代わりか?だから魔術師ってのはやっかいなんだ。」
しかし、少女はなぜか人形に変わっていた。
よく忍者もので見る身代わりの術みたいだ。
トモヤは思わず舌打ちしていた。
『ざ〜ん、、ねんっ、、今、お鍋に火をかけてて手を離せないから、、、まったねぇ、オノミチンまで来たら相手してあげるじゃん』
どこかからそんな声がきこえたが、、、次第に辺りは静寂に包まれた。
に、逃げられたってこと?
というか、少女はこの城に居なかったってことなのか?
なぜか、弓隊すら居なくなったので俺たちはそのまま砦を抜けることができた。
「‥‥ったく、なんだったんだよ?」
砦を抜けて俺は思わず悪態をついた。
「魔王の幹部の砦(偽)だったんだよね。それより気になったのだけど、シンヤ君、なんであの幹部の娘の幻影スキルを見破れたの? レンのスキルならともかく、あっさり見破れる感じはしなかったんだけど。
それでも、本来なら私が見破らないといけないとこだったよね、ごめんなさい。」
コトハさんが首をひねりながら俺に問いかけた。しかし、答えられるはずがない。
なぜなら『手品と勘違いしてました、テヘッ』なんて恥ずかしくて言えないからだ。
むしろ、この話題は早く流したい。
「そうだ。それは俺も気になったな。それに、スキル発生の限定条件までしっかり把握していたよな。どういうことなんだ?」
しかし、トモヤも話に食いついてしまった。
しょうがない、ごまかすか。
「コトハさん、誰の責任とかは無しだよ、仲間なんだから頼っていいんだよ。あれ?本当にわからなかったかな?もう一度あの女の子の態度を見てみたら大体想像はつきそうなものじゃない?」
そう確か、1番最初に同じ幻影スキルを使う楓を倒したもんな。それが答えだ。ファイナルアンサー!
「あっ、そういうこと?私と同じ魔術使いとしてあの戦い方が不自然だって言いたかったのね?消滅の魔術や転移魔術が有ったとして、、、更にそれが近接でしか使えないと仮定したとしても、、、あんなにこれ見よがしに部屋の後方側の目立つ位置に一歩も動かず立っている必要が無いよね。私ならもっと障害物の多い部屋で逃げ回りながら戦うよ。つまり、意図的に舞台が用意されたと気づいたんだよね。その上で彼女が一歩も動かない意味を完全に読み切ったって訳なんだ。一歩でも動いたら幻術がとけちゃうって。
イオリちゃんがいるからついつい忘れちゃうけど強力な力のスキルや魔術は制約だったり、反動だったりがあるものが多いものね。そこの妹ちゃんみたいにね。」
えっ?そうだったの?
っぶねぇ、余計なこと言わなくてよかった。
明らかにコトハさんの洞察力の方が一枚も二枚も上手だった。
「うるさい、ドロボーネコ」
スキルも使えず疲労困憊の楓は今、トモヤに背負われてご機嫌斜めだった。
「えっ?もう私を愛称で呼んでくれるの?嬉しい〜」
さっきの恨みか、コトハさんが楓を挑発した。
「う、う、うるさい、お兄、この雑音だらけのラジオ、止めてよ」
楓はあっさり挑発に乗り、また俺は頭を抱えるのだった。




