初めてのリバース
「オェ〜〜、き、気持ち悪い。」
俺は吐気が止まらなかった。
「大丈夫?そんなにユニちゃんの乗り心地ダメだった?」
コトハさんが俺の背中を摩りながら心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
ダメなんてもんじゃなかったよ。
景色をゆっくり見るつもりだったのになぜかユニユニは、インメルマンターンしたり、ヴァーティカルローリングシザースしたり、、、
そりゃ、吐くよ。
俺はもっと優雅に飛んで欲しかっただけなのに。
まぁ、いやな予感はしたんだよな。
実はユニユニはオスだったんだよ。
そして、コトハさんが見ているところでは普通なんだけど居ないと、目つきは悪くなるし、シッポでペチペチしてくるし、、、
もしかして、オトコは嫌いでオンナノコ好きだったりするの?
コトハさんと2人乗りすればよかったよ、、
「ごめんね、いつもあんなことしたりしないんだけど、シンヤクンに乗ってもらってものすごくテンション上がったのかな?」
いや、違うよ。って言いたいのだけど、メチャクチャ睨んでるよ、ユニユニ様が。
「そ、そ、そうかもしれないな。ヴァーティカルローリングシザースとか貴重な体験させて貰ったよ。」
俺は笑顔でコトハさんにそう答えたけど、笑顔はかんっぺきに引き攣ってたよ、、、
「ところでウチは置いてきぼりやねんけど、、、、、」
アヤが自分を指差して俺たちに訴えかけている。
「あれ?アヤ、まだ、居たの?」
コトハさんは、少し流し目気味に視線を送って言い放つ。
あれ?2人は仲良しさんなんだよな?
「え〜、コトハァ〜?ウソぉ〜」
よっぽどショックだったのか崩れ落ちて四つん這いの体勢になっている。
そして、コトハがアヤにフォローを入れる前にレンから声がかった。
「シンヤクン、そろそろ出発するよ。」
あっ、忘れてたよ。
そして、村を出発した。
「まんまと騎士団から解放されたね〜、これもレンの作成通りなの?」
コトハさんがレンに尋ねている。
俺もレンのスキルに関してはかなり気になってるんだよな。
俺の中のチートスキルランキング1位はイオリなんだけど、その次くらいにチートな気がする。
「いやぁ、まさか、そこまでは計算に入れてなかったよ。どうせコクランでなんとかするつもりだったけどね。」
レンはニヤリと笑いながらそう告げる。
「あ〜、レンならなんとかしそうだよねぇ。」
「ありがとう。そっちのリーダーはどんな感じなの?」
レンがそう尋ねるけど、結構ズタボロに言われるんじゃないかな?
「う〜ん、レンみたいに全てを見通す感じはしないけど、仲間想いだし、意外と頼り甲斐があるんだよね。 」
お〜、コトハさんが意外と高評価なのが驚いたよ。
「シンヤ様、イオリの話聞いてますか?」
‥‥しまったぁ、レンとコトハの会話を気にして肝心のイオリとの会話が完全に抜けてしまってたよ。
「すまない、イオリ。もう一度話してくれないか?」
俺はすぐさま土下座してイオリに許しを乞う。
「え〜と、、、コトハのとこのリーダー、土下座してるけど、、、、」
レンも少し呆れていた。
「‥‥‥エッ?アンナヒト、ワタシシラナイヨ」
コトハさんはフォローも出来ず、他人のフリでやり過ごそうとしていたけど無理があるよ‥
「シンヤ様、そんなに謝らなくてもいいと思うの。イオリはもう立ち直ったから心配しないでっ言いたかったと思うの」
イオリは見下すようにそう言う。
今、俺は土下座してるから、たまたまそういう位置関係になってしまうだけなんだけどね。
「本当に大丈夫か?」
俺はまだイオリが心配でそう声かけたけど、側から見ると心配なのは俺の方に見えるだろう。
「大丈夫だと思うの。今は2人に負けないくらい大切な人が出来たからと思うよ。」
イオリの笑みは色々な感情が混じっていたけどその笑顔は決して後ろ向きな感情じゃないように見えたよ。
そうこうしている間にとうとう炭坑都市コクランに着いた。ここまでくればもうすぐカモーン海峡だな。
「スゴイ高い壁やんねぇ。不思議やわぁ」
アヤは街を囲む壁を見上げてそう言った。
「ここは魔王の6人の配下の一人、サイスの居城からそれほど離れていないからね。防衛にも力を入れているんだよ」
レンはなんでもない事のように言うけど、やっぱり魔王って本当にいるんだな、、、正直関わりたくないんだよな。
そうこうしている間に街中にあっさり入る事ができた。
一番最初の時は街に入るのはイオリに助けてもらってなんとか入れたのに、冒険者の身分ってのは意外とバカにできないものなんだな。
「レン、これからどうするつもりなんだ?俺たちは数日ならこの街に留まっても構わないぞ。」
俺は先にレンと打ち合わせを始めることにした。どうせ奴等は魔王の手先と戦うんだろうからな。
「お気遣いに甘えて、数日間はここに留まってもらって、その後カモーン海峡に行く事にするよ。
皆んな〜、今日は休んで明日はサイスの居城へ出立するから準備しておくように」
「俺たちは今から宿をとって、その後に冒険者ギルドに行って久しぶりに何か依頼を受けよう。」
俺はパーティメンバーにそう伝えた。
「シンヤクン、ちょっと待って。一緒に行ってあげなくてもいいの?」
コトハが遠慮勝ちに聞いてきた。
「いや、そこまでは約束していないからね。
それに、ウチのパーティメンバーにそこまでリスクを負わせる訳にはいかないんだよ。」
うん、正直関わりたくない。
イオリの体調もまだ万全じゃないし。
「そぅ、じゃあ、私個人は勇者隊と行ってもいいかな?」
そういうコトハさんの表情はいつもの笑顔ではなく、決意に満ちた表情だった。
止めるのはちょっと無理っぽい。
「ダメだよ。俺はパーティメンバーの安全を守る義務があるからね。コトハもパーティメンバーなんだからな。」
この言い方はまずかった。
「‥‥うん、わかったよ。それじゃ、私はパーティを抜けるよ。今までありがとうね。」
俺はコトハにそう言われてなにも言い返せないうちにコトハさんが走り去って行ってしまった。
アタマが真っ白になったまま宿を探して、見つけた後は一旦解散した。
俺はそのままベッドに横になっていたようで、気づくと俺は意識を手放し、、、かけたときに手に何か握っているのに気付いた。
紙切れか?そこにはこう書いてあった。
『コトハを連れ戻すからギルドで待ってて。アヤ』
あれ?アヤにいつ渡されたっけ?
そういえばコトハがいなくなったときにはアヤがすぐ追いかけ始めたからその時だろう。
ってマズイよ。
まだ、待っててくれてるかな?
40秒で支度して宿を出た‥けど場所がわからないから、また宿に戻り、イヌミミの宿の受付の女の子に聞いてみる。
「ねぇ、ねぇ、かわいいお嬢さん、冒険者ギルドって何処にあるかおしえてくれないかな?」
「はぁ〜?何言ってるんですか?ナンパですか?冒険者は野蛮だからノノのストライクゾーンには入りませんよ。あと、鏡見ながらもう一回そのセリフ言ってみて下さい。結構キツイと思いますよ。
ちなみに、冒険者ギルドは宿を出て右に曲がって次の泉のある通りを左に曲がってください。そこから少し歩けば右側にありますよ。」
調子に乗った俺が悪かったけど、思ったよりボロクソな感想と合わせて、ちゃんとギルドへの行き道も教えてくれたよ。
「ありがとう。愛してるよ」
俺は宿の出口へ向かって駆け出しながら女の子にお礼を言う。
《愛してるよ》はもちろん、完全な嫌がらせだ。
そして人とぶつかることもなく、なんとか目的地に辿り着いたけど、そこにコトハさんとアヤは居なかった。
思わず壁にもたれかかり、1人で壁ドンのポーズを取ったままフリーズしてしまった。
勢いでここまで来たのはいいんだけど、これからどうしよ?
その時後ろから声がかかる。
「シンヤ、ほんまに遅かったやんねぇ。遅いから向かいのカフェで、パフェにケーキに、シャーベットまで食べてしまったやん。太ったら責任とってなぁ。」
と聞きなれたアヤの声が聞こえる。
「それはアヤの責任だろ?それとも太ったら嫁に貰ってやるとでも言えばいいのか?」
俺は呆れを隠さずそう言ってやったよ。
「よ、嫁?貰ってくれるのん?」
アヤがそう言うけど。話が脱線してるからな。
「あれ?そんなこと言ってる場合じゃないだろ?それよりコトハさん。すまなかった。友達が心配だったんだろ?俺たちも一緒に行くからパーティから抜ける話は無しにしてくれないかな?」
俺がそう言うとなぜか呆れた顔でコトハさんは
「うん、それはわかったんだけど、、それを言う体勢が、、なんで、一人壁ドンの体勢のままなの?」
なんて言うのだ。
いや、体勢なんて気にする余裕がなかっただけなんだよ、、、、
まぁ、とりあえず成り行きだけど、これで俺たちも魔王討伐関連に少し参加することになってしまった。
すみません、下手したら今週はこれ一話だけかも。今週鬼のように忙しくなりそうです。
登場人物紹介も一回まとめてしたいですね。




