最終話 そのつまんない綺麗事をアリスは少しだけ許した
五年後。
カフェ。
午後。
静かな時間。
新崎有栖は座っている。
窓際。
紅茶を啜る。
湯気。
香り。
変わらない。
スマホを触る。
スクロール。
指が止まる。
「シンデレラ」
その文字。
有栖は少しだけ笑う。
「……素敵な話」
小さく呟く。
それから。
「ま、綺麗事だけど」
心の中で、
少しだけ馬鹿にする。
そのとき。
ドアが開く。
音。
視線を上げる。
あの子。
金髪。
ツインテール。
大きく手を振る。
「有栖ちゃーん!」
声が響く。
有栖は顔をしかめる。
「声大き……」
小さく手を上げる。
少しだけ、
恥ずかしそうに。
染村愛。
ラブではなく。
ただの、
愛。
対面に座る。
勢いよく。
「すいませーん!」
「キャラメルラテ、大きいので!」
有栖が呆れる。
「愛、お金あるの?」
愛が固まる。
「あ……」
一拍。
「髪染めてお金ないんだった……」
にへっと笑う。
「有栖ちゃん、奢って?」
少し可愛く。
有栖はため息。
「はぁ……はいはい」
「出所祝いね」
苦笑い。
「にしても、最初に髪染めるって……」
愛が胸を張る。
「我ながら似合ってたからね!」
自慢げ。
有栖がちらっと見る。
「……まあ似合ってるけど」
愛がにやっと笑う。
「お?肯定?」
有栖が肩をすくめる。
「なんでもかんでも否定してるわけじゃないってば」
苦笑い。
愛が少しだけじっと見る。
「……優しくなった?」
有栖は少し考える。
「どうかな?」
キャラメルラテが届く。
愛がすぐに口をつける。
ぐいぐい減る。
有栖が聞く。
「手続きとかは終わらせてきた?」
愛が適当に頷く。
「んー多分?」
まだ飲む。
有栖が軽くため息。
「ま、足りなかったらまた連絡来るでしょ」
愛が顔を上げる。
「ね、早く有栖ちゃんの家行こーよ」
有栖が頷く。
「はいはい」
少しだけ間。
「まあ、愛の部屋にもなるけど」
愛が笑う。
「やった!」
二人は立ち上がる。
荷物を持つ。
会計。
店を出る。
帰り道。
夕方。
少しだけ、
涼しい風。
愛が隣を歩く。
楽しそうに。
「ねぇねぇ」
有栖が返す。
「ん?」
愛が少しだけ考えて、
それから聞く。
「今でも綺麗事、嫌い?」
有栖は少し黙る。
空を見る。
「……んー」
少しだけ悩む。
「ちょっと苦手」
愛が頷く。
「ふーん……」
それから。
少し笑って言う。
「こんな変な関係なのにさ」
「仲良くなって」
「一緒に暮らすなんて」
「綺麗事じゃない?」
有栖が少し困った顔をする。
「それはそうだけど……」
一拍。
それから。
笑う。
「いいの」
「私、性格悪いから」
軽く。
「自分に利がある綺麗事なら」
「普通に嬉しいの」
愛が目を丸くする。
それから笑う。
「有栖ちゃんいい性格してる〜」
歩きながら。
「って、利がある?」
少し身を乗り出す。
「え、嬉しいって?」
有栖が少しだけ照れる。
視線を逸らす。
「……帰る」
早足になる。
愛が慌てて追いかける。
「あ!ちょっと!」
笑いながら。
「同じ屋根の下だよー!」
夕焼け。
二人の影が伸びる。
並ぶ。
少しだけ、
ズレたまま。
それでも。
同じ方向へ、
伸びていく。




