ロベルダ公爵家のその後 ③
「そう、か……。神託を聞く限り、リーベミオはレリオネルを真実、取り戻したのであろう。精霊や神へ直訴し、叶えてしまうとは凄まじいな。……私たちが、彼女を信じられていればまた別だったのだろう。リーベミオ・ロベルダが乱心令嬢と呼ばれ、表舞台から姿を消していることは周辺諸国にまで知られてしまっているから、私達は被害者とはいえ、周りから厳しい目では見られるだろう」
国王はそう言って、目を伏せている。
――そう、入れ替わり自体にはこの国には過失は一欠けらもない。ただ、息子の中身が入れ替わっていることに気づかなかったのは事実である。
そして神や精霊に認められた特別な少女の言葉を聞かずに、乱心令嬢などと呼んで、貴族社会から隔離してしまったことも。
実際にその状況になったこともない周りは、好き勝手口にするだろう。そういうものである。
自分達だって同じ状況に陥れば気づけるのか分からないものだが、それでも彼らは「自分ならば中身が入れ替わったら気づく」と堂々と言うだろう。一人の少女が勘づくことのできたことを、大人の誰一人も気づかず、中身が違う王太子をあがめ続けた。
それはリーベミオがどれだけレリオネル・ユウディスを特別に思っていたかどうかを周辺諸国は知りも知らないから仕方がない話だ。
リーベミオは社交界に出るような年齢になる前に乱心令嬢と呼ばれ、辺境の地へ向かってしまったのだから。
「それは、そうですね……。ロベルダ公爵家も、狂っていなかった娘を追いやってしまったから多くの者達に責められるしょう。付け入られる隙にもなります。レリオネル殿下とリーベミオを見つけ出し、和解さえ出来れば別かもしれませんが……」
――現状では、その手がかりがない。
そもそもレリオネル・ユウディスとリーベミオ・ロベルダは会いに来ようと思えば、ユウディス王国を訪れることが出来る。
神や精霊と縁続きとなった特別な二人組。
それだけ特別な力を持ち合わせていれば、こちらにやってくることぐらいたやすいはずだ。それをしないということは、二人がユウディス王国に戻ること自体を拒絶しているという証でもある。
(無理もない。……私たちはレリオネル殿下とリーベミオを否定し続けたのだ。レリオネル殿下が実際に入れ替わった後、どのような状況だったのかは定かではない。ただ気づかない私達のことを、レリオネル殿下が見ていたというのならば……いなくなったことに気づかない者に会いに来ようとは思わないだろう。まだ、彼らがユウディス王国に憎悪をぶつけてこなかったことは幸いだったかもしれない……。復讐でも抱かれていたら一たまりもなかっただろう)
神々も精霊も、人知を超えた存在だ。本来ならば普通の人間はその存在に出会うことさえあり得ない。
信仰深い神官たちは、一生涯の目標としてその姿を一目で良いから見ることだと語る者も多くいるぐらいだ。
神託を言葉通り受け取るのならば、レリオネル・ユウディスとリーベミオ・ロベルダは彼等に認識され、実際に言葉を交わし、それこそその力を借りることだって出来る立場にある。神々に直訴が出来るだけの力も、二人は持ち合わせているだろう。
だから仮に彼らがユウディス王国を滅ぼそうとしたところで、公爵たちにはなすすべもない。
――そのことも分かっている。
入れ替わりに気づかなかった者達や、自分の言うことを一切信じなかった者達。
場合によってはそんなユウディス王国の者達相手に襲い掛かってもおかしくはなかった。それだけ大きな確執があることには間違いない。
「和解か……。許してくれると思うか? 息子の変化にも気づかず、その婚約者の言葉も信じなかった国王とは名ばかりの私のことを……」
「……分かりません。私もレリオネル殿下とリーベミオには長い間、会ってもいませんから。私も妻も乱心してしまった娘をいない者として扱ってしまった。幾ら言葉を掛けても、レリオネル殿下のことを否定するから……。会いに行くことも、もっと話を聞くことも出来たのに。だから私が分かっていることと言えば、あの子が変わらず……レリオネル殿下を愛しているということだけです。私達の方から接触することで、眠っている竜をたたき起こすことにはなるかもしれません」
今はまだ、関わらないでいてくれている。しかしもし接触をして、そのまま逆鱗に触れてしまえばどうなるか。
――そうなれば、国は亡ぶか、自分達には死が待っているかもしれない。
そのくらいは、公爵にも想像が出来た。
しかし、それでも――、
「それでも、私はリーベミオに会いたい。謝罪をしたいと思っているのです。それにレリオネル殿下とも、話をしたいです。許してはくれないかもしれないけれども、私は彼等ともう二度と会話を交わせないというのは避けたい。そうなれば、私はもう一度、悔やんでも悔やみきれない後悔をしてしまうことになるでしょうから」
公爵はそう言った。
もちろん、もう一つの後悔はリーベミオを信じ切れなかったことだ。それどころかこんな神託が下されなければそのままリーベミオのことを捨て置いただろう。
……本当に自分はどうしようもないと、公爵はそう思ってならなかった。そんな自分のことを、娘は呆れるかもしれないとも考えた。
それでも、公爵は娘にもう一度会いたいと願っていた。




