ロベルダ公爵家のその後 ①
番外編を急に書きたくなり、投稿しております。
――ユウディス王国の第一王子、レリオネル・ユウディスの中身は、神の一柱の気まぐれにより入れ替えが発生してしまっている。
――そこに入っている魂は、レリオネル・ユウディス本人にあらず。
――我らは本物のレリオネル・ユウディスを愛し、身体を失ったその者を取り戻すために神々並びに精霊に直訴したリーベミオ・ロベルダに敬意を表す。
――彼女は乱心令嬢にあらず、愛を貫いた者である。
――魂の入れ替えという下界への介入は本来ならば、我らで規制しなければならぬことである。それを行った神に関して、我らは罰を与えることを決めている。
――神の一柱の行いにより、迷惑を被ったレリオネル・ユウディスおよびリーベミオ・ロベルダ、そしてユウディス王国の者達にはお詫びに祝福を与える。
――前者に関しては、既に与えている。ユウディス王国への祝福に関しては、レリオネル・ユウディスが身体を失っていた九年間の豊穣を与える。
――レリオネル・ユウディスの身体を現在使用している異世界の魂に関しても被害者であることは頭にはとどめておくように。
その信託は当然のことながら、リーベミオ・ロベルダの生家にも届いた。
彼女の両親と、兄と姉、そしてリーベミオの存在も知らされていない妹。彼らはリーベミオのことを思い出すこともなかった。狂ってしまった彼女のことを捨て置いてしまったのである。
王太子の婚約者になるはずだったのに、彼女は乱心してしまったのだ。
まともになった王太子が、本物でないなどと口にして。
横暴になりつつあった王太子であるレリオネル・ユウディスがまともになった。それなのに、リーベミオは道を踏み外してしまった。それゆえに、公爵家はリーベミオを辺境の地へ追いやり、一度も気に掛けることはなかった。
「な、なんてこと……」
リーベミオの母親であるロベルダ公爵夫人は顔を青ざめさせていた。
狂ったと思っていた娘が、狂っていなかったのだと神の名で保証されたのである。
そのことに気づき、思わずといったように声にならない声をあげる。
(あの子が、狂ってなどいなかった……? 寧ろリーベミオの言っていた言葉が、真実だったということ……? レリオネル殿下の中身が異なっていたなんて、気づけなかった。ただ一人、「あれはレリ様じゃない……」とそう訴えていたあの子に、私はなんて言った?)
優しくて、優秀で、自慢だった二番目の娘。美しい黒髪と、黄色い瞳の愛らしい娘。
あんなことになるまで、ずっと何があっても守って行こうと思っていた愛おしい娘――リーベミオ・ロベルダ。
だけど、その名を思い出さないようにしていた。考えないようにもしていた。それは娘のことを考えるのが辛かったから。
大切だった娘が狂ってしまったことに胸が痛んでしかたなかったから。
どうしてあんなことになったのだろうか、自分の育て方が悪かったのだろうか。幾ら言葉を尽くしてもリーベミオは、狂ったままだった。
だから諦めてしまった。
時折、リーベミオのことを思い出して苦しくなってしまった。それはリーベミオ・ロベルダが、公爵夫人にとって何処までも大切だったから。
それゆえに余計に、幸せだった日々のことを思い出してどうしたらいいかわかなくなってしまった。
リーベミオ・ロベルダがああならなければ……と、母親が嘆いたことは数え切れないほどだ。それが辛いから、見て見ぬふりをした。
存在しないかのように扱った。
リーベミオ・ロベルダの名は口にしてはいけない存在のように扱われていた。
(……レリオネル殿下は元に戻ったのだから、そのようなことを言わないでといった。どうしておかしくなってしまったの? と嘆いた。私も、他の者も誰一人としてあの子の言葉を受け入れようなどとしなかった。……私はリーベミオの言うことを理解出来なくて、考えることをやめた)
青ざめたまま、公爵夫人は思考をし続けている。
たった七歳のリーベミオが、必死にレリオネル・ユウディスが別人であると訴えた言葉を否定し続けたのは親である自分だった。それを実感して、公爵夫人は胸が苦しくなった。
(考えてみると、リーベミオは年齢の割に大人びていた。優秀で、頭が良くて、誰よりもレリオネル殿下のことを大切にしていた。いつもレリオネル殿下と会った後のリーベミオは嬉しそうにその時のことを話していた。レリオネル殿下が横暴になっていった際も、いつも娘は……レリオネル殿下を恐れることなく会いに行っていた。そんな娘が……レリオネル殿下を否定し、婚約解消を受け入れる意味を、もっと私は考えるべきだった……!)
公爵夫人は知っていたのだ。リーベミオの母親だからこそ、彼女がどんな性格なのか、どれだけ王太子であるレリオネル・ユウディスを愛していたのか分かっていた。
――それを知っていたのに、公爵夫人は理解の出来ないことを告げる娘を否定し、遠ざけ、狂ったなどと口にした。
そして辺境の地へ追いやった娘と対面することを恐れて、一度も会いに行くことなどをしなかった。
向こうが自分の行いを反省し、辺境での暮らしに耐えられないと根をあげるのならば受け入れてあげようなどとそんなことを考えていたぐらいだった。
神託を受けた上では、なんて思い違いをしていたのだろうかと思ってしまうが、公爵夫人は本当にそう思っていた。
(ああっ、リーベミオ、ごめんなさい! あなたに会いたい……)
公爵夫人は嘆きつつも、王宮へと向かった夫の帰りを待っている。
夫は、神託のことで呼び出しを受けていた。




