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【一話で読み切り】雑談する二人  作者: もも野はち助


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【第9話】犬猿の仲だった二人

【10000文字前後の短編感覚でお読みください】

今回は年末ネタでケンカップルのお話です。

 一年の区切りに差しかかる年の瀬の城下町は、冬支度の準備をするための買い出し客で毎年恒例のように溢れかえる。

 人気の食材店では長蛇の列ができ、普段すんなり通れる道は目的地に向かう人々で押し合いになっていた。


 そんな凄まじい人混みから逃れたある若夫婦は、二階建ての食堂のテラス席から溢れかえった人の流れを眺めながら軽食を取っていた。


「毎年のことだが、この時期の城下町の混雑ぶりは凄まじいよなー」

「そう思って今年は早めに買い出しに来たのだけれど、あまり変わらなかったわね」

「みんな、考えることは一緒なんだろう? まぁ、去年よりかは目当ての食材を確保できたけれどな」

「でもこれからもっと人が増えそうだから、早めに帰ったほうがいいかも」

「そうだな。お前の体調も心配だし……」


 そういって夫の青年が妻の腹部に目をやる。


「最近やっと悪阻も治まってきたし問題ないわよ。ちょっと心配しすぎじゃない?」

「そこで人間が一人、作られてるんだぞ? 俺にはその感覚がわからないんだから心配にもなる!」

「作られてるって……言い方!」


 夫を窘めながらも腹部を撫でる女性の表情は、どこか優しげだ。

 一年ほど前に夫婦となったこの二人はイーベル村の住人で、現在は冬支度のために王都に買い出しにきていた。


 夫の名前はガイといい、村の彫金工房で職人をしている。

 スラリとした長身の彼は筋肉質で目つきも鋭く、いかにも腕に自信があるという風貌だ。

 実際に十代半ばまで喧嘩っ早く、下手をすればその辺のゴロツキと思われてしまうほど荒れていた。

 だが、三年ほど前に思い立ったように村の彫金工房に弟子入りし、一年前にやっと仕事を任されるようになった。

 それを機に結婚に踏み切り、現在は家庭を持ったからか大分落ち着いている。


 その妻となったのが、彼の幼馴染でもあるミリアという女性だ。

 赤い髪に猫のようなつり目の彼女は、見るからに気が強そうで性格もサバサバしている。

 容姿も田舎村の住人にしてはかなり垢ぬけており、道行く男性に振り返られるほどの色気のある美女だ。

 だが非常に真面目で正義感が強い性格で、はっきりとした物言いが多い。

 面倒見のいい姉御肌でもあるので、結婚前は年が近い同性間ではリーダー格の存在だった。


 そんな強い印象の二人は、今は仲睦まじい夫婦である。

 だが三年前までは水と油のような犬猿の仲で、今のような穏やかな雰囲気で会話をしている様子など想像できないほど、いがみ合う仲だった。

 そんな彼らだが今から一年前に結婚をし、早々に子宝にも恵まれ妻のミリアは現在妊娠三カ月である。


 この二人の進展に住人たちはかなり驚いたが、実は一番驚いていたのはガイたちだった。

 あれだけいがみ合っていた自分たちが、まさかこんなにも良い関係に収まるとは夢にも思っていなかったのだ。


 そんな二人がこうも上手くまとまった経緯には、ある切っ掛けがあった。

 その切っ掛けとなった存在をミリアがテラス下の人混みの中から見つける。


「あれ、リクスとエナじゃない?」

「だな。そういうや今日は村の保存食の買い出しに若手が駆り出されてたな」

「なんかあれを見ると、ますます年の瀬って実感しちゃうわよね」

「つかあいつら、まだガキの頃に刷り込まれた迷子防止対策をやってんのか?」


 夫のその呟きにミリアが苦笑する。

 実はテラス下で目に入ったきたリクスとエナは、ガッチリと手を繋いで移動していたのだ。


「まぁ、ここまで凄い人混みではぐれたら、本当に生き別れになりそうだけれど」

「でもあの歳までガキの頃に義務付けられてた手繋ぎを今でも続けてるって……思春期の若人としては、どうかと思うぞ?」

「それだけ子供の頃に城下町ではぐれた出来事が、二人にとって衝撃的だったんじゃない?」

「迷子になったのは、絶対にリクスのほうだろうな」

「それが意外なことにエナだって。ほらあの子、好奇心が旺盛じゃない? 気がついたらいなくなってて、そこから三時間くらい見つからなくて大騒ぎしたんだって。その時ティクスが、かなり二人を脅して城下町では手を繋ぐことを義務づけたらしいわ」


 その話にガイが盛大に呆れる。


「だからって十代半ばすぎまで律儀にそのルールを守り続けるか? あいつら、実は付き合ってんじゃねぇーのか?」

「それはないでしょう。恋人同士ならあんな気張った表情で手なんか繋がないわよ」


 そう言われ、テラス下の人ごみの中を必死でかき分けるように歩く二人にガイが視線を向ける。


「確かに……なんか戦地にでも向かうような顔つきだな」

「それだけ子供の頃にはぐれたことが、二人にとって相当トラウマになってんでしょう?」

「そんなトラウマがあるのに、なんであいつら村の買い出しに参加してんだよ……」

「リクスが強制参加だからエナは巻き込まれたんじゃない?」


 村長の父を持つリクスは、毎年この村の冬支度の買い出しには強制参加である。

 だが、お目付け役がいないとサボる可能性が高いので、毎年エナがその役を任されているようだ。

 面倒くさがり屋のリクスの尻をしっかり者のエナが叩いて舵取りしている様子は、イーベル村の住人たちにとっては、もはやお馴染みの光景である。


「そういえば、三年前もあいつら、手ぇ繋いでたな」

「ある意味、周囲の目を気にしないで子供の頃からの関係を維持できるのって、なかなかの勇気だと思うわ」

「そうかぁ? 単純にあいつらの神経が太いだけだろう?」

「それは言えるかも。逆に繊細な私たちはそれで十年近く時間を無駄にしたからねー」

「やめろ! 若気の至りをよみがえらせるな!」


 そう口にしながらも二人は、ちょうど今から三年前のことを思い出していた。


 ◆◆◆


 今から三年前、当時十八歳になったばかりの二人は不満げな表情を浮かべながら、城下町にある大型精肉店の行列に並んでいた。


「なんでよりにもよって一緒に組む相手がお前なんだよ!! 胸クソ悪いわ!」

「それを言いたいのは私のほうなんだけど? どうせならティクスが良かったわ!」

「はっ! 彼女持ちの男を狙うとか、とんだクズ女だな!」

「彼女持ちだから変なロマンスが生まれなくて安心なのよ! そもそも私は、あんた以外だったら誰でもよかったんだけど!?」

「それこそ、こっちのセリフだ!」


 不満をぶつけあった二人は、互いにプイっと顔を背ける。

 年度の切り替わり時期になると、王都周辺の村では村人総出で冬支度の準備を行う。

 その一番重要な準備が、冬を越すための食料確保だ。


 山奥の田舎村では育てられる作物は限られ、動物達も冬眠に入るため思うように狩りができなくなる。

 そのため、自給自足の生活環境では冬を越すための食材確保は厳しい。

 だが、城下町では大陸外から色々な食材が集まるので年が切り替わるギリギリまで食材が豊富に出回っている。

 どの村でも毎年越冬準備の仕上げとして、城下町で保存食用の食材を大量に買い込むのが年の瀬の恒例行事なのだ。


 もちろん、イーベル村も例外ではない。

 大人たちは村の防寒対策の準備で手が離せないため、食材買い出しは十代半から成人前後の若者たちの担当だ。

 イーベル村では出発前に男女それぞれでくじを引き、ペアを決めて保存食用の食材の買い出しをする。

 だが、今年はそのくじ引きで村一番の犬猿の仲といわれているガイとミリアがペアになってしまったのだ。


 そんな二人は、出発前からバチバチと火花を散らしていた。

 先ほどの不満のぶつけ合いも今日何度目になるかわからない。

 二人は不満をぶつけ合い、しばらく険悪なムードで無言になるという状態を何度も繰り返していた。


 だが、その重苦しい雰囲気はある二人組の存在によって一変する。

 その存在に不機嫌そうに顔を背けていたガイが気づき、いきなりミリアが羽織っているマントのフードを彼女の頭に深く被せた。


「ちょ……っ、急になにすんのよ!」

「バカ! デカい声を出すな! リクスたちに気づかれる!!」


 そう言ってガイも自分のマントのフードを深く被る。

 不満そうにミリアが周囲を見渡すと、自分達の五列前になにかを食べているリクスとエナの姿があった。

 その瞬間、深い溜め息がこぼれる。


「なんでリクスたちがいるのよ……。まだ村の買い出し当番をやらされる年齢にはなっていないはずでしょう?」

「知らねぇーよ。どうせ親から家の買い出しを頼まれたんだろう?」

「でもリクスはともかく、エナはまだ十二歳だから色々と危ないじゃない!」

「そんなの俺が知るかよ!」


 そんな会話を繰り広げていたら五列先に並んでいるリクスの不満げな声が耳に入ってきた。


「あぁ~!! もぉぉぉ~!! なんでこんなに人が並んでんだよ! 俺らの順番、一生こねぇーじゃん!!」

「そんなわけないでしょう!? ちゃんと少しずつ前に進んでるよ!」

「いいや! 進んでないね!」

「もぉ~! リクス、うるさい! さっき二個もミートパイ食べたんだから静かに順番を待ちなよ!」

「あんな量じゃ俺の腹は満たされねぇーよ!」


 そう言ってリクスが持っていた紙袋から、まだ手をつけていないミートパイを取り出す。


「一個こんなんじゃねぇーか! こんなの三口で食い終わるわ!」

「それ、私の分! なに食べようとしてんの!?」


 エナがミートパイを取り返そうとした。

 だが、それよりも早くリクスが食いつく。


「あぁぁぁー!! 食べたぁぁぁー!! 返してよ!! 私のミートパイ!!」

「うるせぇー!! 世の中、弱肉強食なんだよ!! 一個目をちんたら食ってるエナが悪い! これだって、どーせ今は食べきれないから家に帰ってから食う気だったんだろう! そもそもこのミートパイ、俺が父ちゃんから小遣いもらって買ったやつだからな!」

「おじさん、私もおやつ買って食べてもいいって言ってたもん! だからそれ、私の分だもん! 大体いつも私のおやつを横取りしているくせにこういう時だけ自分のって主張するのはズルいと思う!」

「俺の食いもんは俺のもん! エナの食いもんも俺のもんだろう!?」

「なにその私にとって理不尽すぎる主張! そんなこというなら、もうリクスにお菓子あげないんだから!!」

「別にくれなくてもいい。俺、勝手に食うから」

「なに開き直ってんの!? 本当、信じられない!!」


 ガイたちに負けないくらいの文句の言い合いをしている二人だが、ピリピリした険悪さはない。

 その証拠に二人は、すぐにケロリとした様子で別の話題をしはじめた。


「つか、こんなに並んでたら村の買い出し分も買うのが大変なんじゃないのか?」

「そういえば今年は誰がお肉調達係になったんだっけ?」

「確か……ガイ兄とミリア姉?」

「うわっ! なんでよりにもよって仲が悪い二人がペアになってんの!?」


 毎日のようにいがみ合いをしているガイたちの不仲は、イーベル村では有名である。

 だがこのあとリクスの口から、とんでもない言葉が飛び出た。


「なんか兄ちゃんが、わざとあの二人が組むようにくじ引きを仕組んだらしい」

「「はぁ!?」」


 思わず声をそろえて叫んでしまったガイとミリアが、慌てて口元を抑える。

 だが、リクスたちの耳には届かなかったようだ。

 代わりに二人と同じようにエナが驚きの声を上げる。


「ええっ!? な、なんで!? なんでティクス兄、そんな恐ろしいことをしたの!? ガイ兄たちが仲悪いの有名じゃない!!」

「うーん、俺もそう思ったんだけど……なんか違うっぽいんだよなー」

「どういうこと?」

「なんかな。兄ちゃんたちの代では、あの二人ってお互いに好き合ってんのに素直になれなくて、いつも喧嘩腰になっちまうって有名らしいんだよ」


 リクスのその話にガイとミリアは同時にビクリと肩を震わせた。


「う、嘘でしょう!? だってあの二人、顔を合わせれば、すぐ喧嘩してるじゃない!」

「なぁー。俺も最初は信じられなかったんだけど、でもよくよく考えみたら兄ちゃんが言ってることも一理あるなーって」

「ど、どの辺が!?」


 エナの質問に対する答えをガイとミリアも固唾をのんで待つ。


「まずガイ兄だけど、いつも村の行事関係の手伝いはサボるくせにこういうペアで組むような準備の時だけ参加してね? あれ、実はミリア姉が他の奴と組むのが面白くないから嫌々参加してんじゃねーか?」

「ええー……。そうかなぁー?」

「だって毎回ミリア姉と組む相手に『くじ運最悪だな』とか余計なこと言って、ミリア姉を怒らせてるだろう? で怒ったミリア姉が『もう一人でやるからいい!』とか言って、結局その相手と一緒に作業しないパターンが多くなかったか?」

「そ、そういえばそうだったかも……」


 リクスの推察を聞いたミリアが思わずガイに視線を向ける。

 だが、ガイは眉間に深い皺を刻んだままリクスたちを睨みつけていた。


「あとミリア姉だけど……こっちは完全に計画犯だった」

「け、計画犯……? ミリア姉、なにやってたの!?」

「なんかシーナ姉経由で、兄ちゃんにガイ兄が組む相手が男になるようにくじ引きで仕組んでほしいって、毎回頼んでたらしい」

「ええ!? あの正義感が強いミリア姉が、そんな裏工作を!?」

「びっくりだろ? 俺もさっき兄ちゃんから聞いて驚いたわー」


 二人の会話内容で、今度はガイが勢いよくミリアに視線を向ける。

 だがミリアはリクスたちに目を向けたまま、その視線に気づかないふりを決め込んだ。


「ミリア姉、なんでティクス兄にそんなことを頼んだのかな……」

「兄ちゃんたちには、問題児のガイ兄が暴れたら男じゃないと止められないからって言い分だったらしい。でもガイ兄を他の女と組ませたくないから、そういう裏工作を頼んできたんじゃないかって兄ちゃんは言ってた」


 その話にエナが首をかしげる。


「ミリア姉、そんなことするかなー……」

「俺も同じこと思ったけど……でもミリア姉って自分からガイ兄に絡みにいくことが多くね? 本当に嫌いだったら俺なら全力で無視するわー」

「言われてみれば、確かに」

「それで毎回周りを巻き込んで、あの二人は大喧嘩してるだろう? 兄ちゃんもそれにウンザリしてて今回わざと二人を組ませたって」

「ティクス兄……荒療治すぎない?」

「でも二人のせいで、いつも行事前の準備がピリピリした雰囲気になるじゃねぇーか。あれ、スゲー迷惑!」


 その瞬間、ガイが怒りの形相で二人のほうへと向かおうとした。

 それをミリアが慌てて止める。


「どこに行く気よ!」

「リクスのバカ、一発殴ってくる!!」

「こんな人混みの中で騒ぎを起こす気!? やめてよ! それにいくら頑丈なリクスでも、あんたに殴られたら意識が飛んじゃうわよ!」 

「じゃあ、お前はあいつらに勝手な憶測であんなこと言われて平気なのか!? ふざけんな! あとでティクスの奴もぶん殴ってやる!」

「ティクスは関係ないでしょ!?」

「あいつが弟に変なこと吹き込まなきゃ俺らがあんなこと言われることはなかっただろう!? あー、そうだよなー。お前、昔はティクスのこと好きだったから庇いたくもなるよな!」


 そう言ってガイは掴まれていた腕を乱暴に振り払い、再びリクスたちのもとへと向かおうとした。

 だが、ミリアがこぼしたある一言で足を止める。


「私がティクスを好きだったことなんて一度もないわよ……」


 その言い分にガイが眉間に皺を寄せ、ミリアを嘲笑う。


「はっ! 今さら何言ってんだよ。お前、自分で気づいていないのか? 俺と言い合いになると、いつもティクスを引き合いに出してたじゃねぇーか! さっきだってティクスが良かったって言ってただろう!?」

「ティクスを引き合いに出していたのは、もうシーナと付き合っているからよ!」

「だからって、お前がティクスを好きじゃないことにはならないだろう!?」


 責められるように指摘されたミリアが押し黙る。

 その反応から図星だったのだろうと察したガイが、ますます不機嫌そうに顔を歪めた。

 だが、ミリアは何かを覚悟したようにガイの予想を覆すようなことを口にする。


「もし私がティクスのことを好きだったら……あんたのくじ引きに裏工作なんて頼んでいないわよ!!」


 その言葉でガイが動きを止め、驚くように目を見開く。

 同時に行列に向かって精肉店の店員が声を張り上げた。


「お待たせしましたー! この列より前のお客様は店内にお入りくださーい!」


 急に進みはじめた行列に二人の意識は一気に持っていかれる。

 ちなみに入店許可が降りた列の範囲にはリクスたちも入っていた。


「おお! やっと店に入れる! エナ、行くぞ!」

「ま、待って! 急に腕引っ張らないで!!」

「バカやろう!! もし城下町ではぐれたら一生生き別れになんだぞ!? そしたら俺、お前の父ちゃんにボコボコにされちまう!!」

「お父さん、優しいから、そんな乱暴なことしないよ!!」

「おっちゃんが優しいのはお前限定だ! 俺、何回もげんこつくらってるからな!」

「それはげんこつされるリクスに問題があると思う……」

「いいから早く店に入るぞ!」


 慌ただしく精肉店に入っていくリクスたちを呆然とした様子で見つめる二人。

 だが、それと同時にガイたちの列も大きく前に進みはじめる。

 いきなり動き出した人の流れにミリアは飲み込まれそうになった。

 その手をガイは素早く掴み取り、なんとか行列の流れにミリアを引き戻す。


 だが、その後まったく手を放す気配がない。

 ミリアのほうも普段であれば不快だと訴え振りほどいてしまうのだが、この時はなぜか出来なかった。


 だが、ずっと手を繋いだ状態を維持するガイには困惑しかない。

 そもそも今のガイはどんな気持ちなのか……。

 それを探るようにミリアは、そっと隣の天敵の表情から感情を読み取ろうとした。

 だが、ガイは無表情のまま真っ直ぐに前を見つめ、ミリアとはまったく目を合わさない。


 先ほど告白に近い内容を口にした手前、気まずさからミリアはうつむいた。

 すると、手を引いていたガイがボソリと何かを呟く。


「城下町を移動する時は、手を繋がないと生き別れになるらしいぞ……」


 まるでリクスの主張にあやかるようにガイが手を繋ぐ理由を口にする。

 だが、その手の繋ぎ方はリクスたちのものとはかなり異なっていた。

 この時のガイは、なぜかよく恋人たちの間で行われる互いの指をかけ合わせるような繋ぎ方をミリアにしていたのだ。


 まるで、先ほどのミリアの告白に応えるように。

 この日の二人は、帰りの馬車に乗るための集合場所に着くまでの間、ずっと手を繋いだまま城下町を周っていた。


 ◆◆◆


「そういえば、あの後くらいからあんたは急に真面目に働きだしたのよねー」


 三年前の出来事を懐かしむようにミリアが思い出話をはじめようとした。

 だが、ガイのほうは妻のその言い方に不満を感じたらしい。


「おい。まるでその前までの俺が不真面目だったみたいな言い方すんなよ!」

「実際にそうだったでしょう? あの頃のあんたは成人したのに働きもせず、毎日プラプラしてたじゃない。他の子たちは手に職をつけたり、家の畑の手伝いや馬車の護衛の仕事とかやってたのに」

「あ、あの頃は、まだ自分が何をやりたいのか何かわかんなかったんだよ!」

「その状態で、なんでまたエナのお父さんにいきなり弟子入りしたのよ……。あの頃のあんたの性格じゃ彫金職人なんて繊細な作業は向いていなかったじゃない」


 すると、ガイはなぜか気まずそうに一度ミリアから視線を逸らした。

 だが、すぐに観念するようにその理由を口にする。


「髪飾りを買う金がなかったから……なら自分で作っちまおうと思って……」


 その言い分を聞いたミリアが驚くように目を丸くする。

 イーベル村周辺では、男性が女性にプロポーズをする時に相手の女性の誕生日花をモチーフにした髪飾りを贈る風習がある。


 だが、成人する前までのガイは粗暴で喧嘩っ早く、村では問題児扱いをされるような若者だった。

 同年代の若者たちが家業を継ぐ準備や職探しをする中、ガイは同じような柄の悪い友人たちとつるみ、毎日暇そうにブラブラしていたのだ。

 当然、親のスネをかじるような生活をしていた当時のガイは、自身が自由に使える金など持ってはいない。


 だが三年前の買い出しで、ずっと嫌われていると思っていたミリアが実は自分に好意を抱いていたと知った彼は、突如プロポーズの準備をはじめようとした。

 だが家ではすでに放蕩息子扱いをされ、周囲の印象も悪かったガイは、なかなか仕事を与えて貰えなかった。


 そんな彼が最短でプロポーズ用の髪飾りを手に入れる方法として思いついたのが、村にある彫金工房に勤め、自身で髪飾りを作ってしまうことだった。

 ガイは何度も断られるも見習い職人として雇ってほしいと粘り、その様子を見るに見かねたエナの父親が『自分が責任をもって面倒を見る』と言ってくれたため、なんとか工房入りを果たし、今の彫金職人の道を歩み出したのだ。


 それから一年後、見習い期間中に練習用で作った髪飾りでミリアにプロポーズをし、その半年後に仕事も任されるようになってきたのを機に挙式。

 そして来年の初夏すぎ頃にもう一人家族が増える予定である。


 だが、妻のミリアはまさか夫がそんな理由で彫金職人の道を選んでいたとは思わなかった。

 夫が更生したのは、同世代が続々と自立していく中で取り残される不安から心を入れ替えたと、ずっと思っていたからだ。

 だが、実際はもっと単純な理由だったようだ。


『プロポーズをしたいが、贈る髪飾りが手に入らない』


 その短絡的な考えに至った夫の行動を改めて思い返したミリアが噴き出す。


「笑うなよ!」

「だ、だって! 髪飾りが買えないからって……なんで自分で作るって発想になるのよ!」

「それが最短で一番効率がいい方法だって当時は思ったんだよ!」


 拗ねるようにプイっとそっぽを向く夫にまたしてもミリアの笑いが込み上げる。

 すると、再びガイがテラス下でなにかを見つける。


「あっ、またリクスとエナだ」

「買い出しが終わったのかしら? でも……ヒューズに絡まれているわね」

「どうせ手を繋いでウロウロしているのをからかわれてんだろう?」


 呆れた様子でガイが買い込んだ荷物をまとめだす。

 すると、ミリアから信じられない言葉が飛び出した。


「なんかリクスが、ヒューズとカティの手を無理矢理繋がせてるんだけど……」

「はぁ!?」


 思わずガイが目を向けると、リクスがヒューズとペアになったカティという少女の手を強制的に握らせ、その隣ではエナが二人に何かを言い聞かせていた。


「あれは……多分、『城下町ではぐれたら一生生き別れになるから手を繋がないとダメ』的なことを言っているわね……」

「ヒューズもバカだな。リクスたちに絡むから、ああいう目に遭うんだよ……」

「あっ、リクスたち二人に手を繋がせるだけ繋がせて去ってくわよ」

「ヒューズたち、呆然としているな……」


 取り残された二人は、あまりの展開に手を繋いだまま立ち尽くしていた。

 だが、しばらくすると二人ともうつむき気味に手を繋いだ状態で歩き出す。


「なんか今、人が恋に落ちる音を聴いたような気がしたわ……」

「それ、どんな音だよ……。つか、リクスたちのせいでくっついた奴ら、多すぎないか?」

「えーと、私が知っているのだと……まずアッシュたちでしょう? それからリレ姉とカート兄? そういえばティクスとシーナも二人が切っ掛けで付き合いはじめたんじゃなかった?」

「アッシュとティクスは既婚者で、カート兄たちは来年挙式予定じゃねぇーか……。あいつらの縁結び能力、恐ろしすぎだろ……」

「もしかしたら二人は縁結びの神様の使いなんじゃない?」

「エナはともかく、リクスみたいなクソ生意気な神の使いがいてたまるか!」


 そう叫んだガイは再び荷物をまとめ、帰り支度をはじめる。

 そんな夫に再びミリアは苦笑した。

 どうやら夫からは、自分たちもその縁結びにあやかった立場であることがスッポリ抜け落ちているらしい。


 だがあの時、たまたまリクスたちが前の列に並んでいたから、今の自分たちの関係がここまで発展したのは確かである。

 その偶然に感謝をしながら、ミリアは自身の腹部を優しく撫でおろした。

【12/30追記】

誤字報告、ありがとうございます!(*´▽`*)

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― 新着の感想 ―
わー!!待ってましたあああ(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ くう、相変わらず最高すぎる!リクスとエナの雑談!! いがみ合ってた二人がくっついて、カップルになるのって良いですよね...!ガイとミリア、…
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