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7 逃亡生活

 俺は走った。

 友達を身代わりにして走りまくるあの物語のようにユキヌンティウスは走った。


 この世界に来て東京-大阪間位の距離は走ってるんじゃないだろうか。


 自宅に着き硬い床に寝転がる。


「絶対に俺を売る気なんだギルド長は……」


 使っていない筈なのに、目から目薬が溢れた。


「俺は王国で必要のない人間だ、いやこの世界でかもな」


 寝転びながら膝を抱えて丸くなる。

 俺が何か悪い事したか?なんで俺だけ………。

 そんな事を考えながらいじけていると



 ガンガンガンガンッ!



 ドアを叩く音が響いた。


「おい兄ちゃん入るぞー!」


 俺の家を叩いたのはカイルだった。

 ひっくり返ったカエルみたいな姿の俺を見て目が丸くなっている。


「………悪いな兄ちゃんも年頃だもんな!」


 ドアの方に引き返そうとするカイルに慌てて言葉を放つ。


「いや何と勘違いしたんだ少年!意味深な顔をやめろ!」

「遊びにきたぜー!」


 正直子供と遊べる精神状態ではなかった。

 数少ない信用していた人に裏切られたんだからな。


「くらえ!エアーショット!」


 体に空気の塊?がぶつかった。

 俺は青猫ロボットの空気砲をくらったのか?

 なにが起こったのか理解が追い付かない。


「どうだ兄ちゃん!俺も魔法覚えたんだぜ!」


 空気塊攻撃の正体はカイルの魔法だった。

 この世界に転移させられてから、実際に魔法を見たのは初めてのだった。


「すげーなおい!これが魔法か!もう一回やってくれカイル!」


 テンションが急上昇した俺にカイルは少し引いている。

 結局その後同じのを6回俺はくらった。


「上手く使えば洗濯物一気に乾くな!」

「俺の魔法はそんなんじゃねー!ドラゴンを倒すんだ!」

「いやドラゴンの埃を払って終わりだろ、てかドラゴンがいるのか?」

「知らねーのか兄ちゃん、王国騎士団でも倒すことが出来ない『白龍』を!」



 カイル言う『白龍』とは、王国が出来る遥か昔から生存し続けている伝説の龍との事。

 討伐は冒険者や王国兵の目標であり夢なんだと。

 まあ俺には縁のない話だとは思うが、やはりドラゴンは男の子のロマンだろ。

 カイルには興味ない素振りをしてるが、心臓の鼓動が高鳴り続けている。


「頑張れよドラゴン討伐出来るようになー」

「おう!倒したらお土産に鱗を持ってきてやる」

「鱗かよ、いらねーよ!」

「なんだよじゃあ何もあげないからな」


(ドラゴンの鱗とかめちゃくちゃ欲しいな)


 俺はカイルと話している内にすっかり落ち込んでいた気分を吹き飛ばしていた。


「カイル、ありがとな」

「…なんだ急に??頭のネジがまた飛んだか?」


 カイルは不思議そうに俺を見つめていた。

 俺は覚悟を決めた。


「ちょっと王都に行ってくる!」


 カイルを置いて家を飛び出した。


「おい兄ちゃん!」


 逃げても解決しない事は分かっていた。

 もしかしたら勘違いの可能あるし、ちゃんとギルド長と話してみようと思った。

 少年に元気を貰うとは思わなかったけど。



「お前ここ数日で何回出入りするんだ?」


 門兵に呆れ顔で言われたが気にしない。

 今の俺は強気な汎用人型決戦兵器のパイロットの気分だ。

 しっかり通行税は払ったが。



「……人の悪意漂ってる気がする」


 俺はギルドに向かう途中そう感じた。

 いや、嘘だ。それっぽい事を言っただけだ。


 そんなこんなで役に入りつつギルド付近にたどり着いた。


「裏口から入ろう、あまり人に会いたくないしな」


 人の気配のない裏道から、ギルドの裏口に着くといつもない馬車が停まっていた。

 馬から荷台まで黒で統一してあり、素人目でも高位の方の物だと分かった。

 触れないよう細心の注意を払い、恐る恐る裏口に向かう。すると怒鳴り声が外まで聞こえた。


「どこに行ったんだアイツは!ここに入るはずだろ!」


 聞いた事のない声だったが、この時点で俺のプラスチックハートにヒビが入っていた。


「絶対に逃がすなよ!大金が動くんだからな!」


 2アウトってところかな……。


「あの奇妙で派手な服の小僧を探しだせ!」


 俺は走った。UターンでもVターンでもなく、見事なIターンだっただろう。

 やはり今朝のギルド長の会話は俺の推測通りだったんだな。


 もう人と関わるのはやめる。

 こっそりと山の麓の家で生きていこう。

 決意を両足に乗せてスピードを上げた。



 キィーバタッ!


「………はぁはぁ……くっ……はぁ」


 家にはもうカイルはいなかった。

 小川で汲んだ水を飲み一息つき、大の字で床に寝転ぶ。


(俺は物語の主人公にはなれないのは十分わかったよ、けど何でこんなに厳しいモブ役なんだよ)


 純粋に泣いた。悲しくて涙が流れた。


(両親にもう一回あって謝りたいなー)


 俺は眠った、深い眠りに誘われた。




 -4日後-


 あー退屈だ、お腹が空きすぎてろくに動く事も出来ない。

 何かを考えるのもめんどくさいな。

 このまま死ぬんだろうな二回目の人生。


 ゴンゴンッ!


 ドアから重音が響いた。その直後に、人が勢い良く入ってきた。


「ユキ!大丈夫!?」


 声の主はララだった。


「…………ララ、何で……ここに?」

「何でって、ユキが出勤日過ぎてるのに全然来ないから!こんなに痩せこけて!」

「……俺は大丈夫だから…帰りなよ」

「帰れる訳ないでしょ。ちょっと食べ物持ってくるからしっかり正気を保っててよ!」


 ララはそう言うと走って家を飛び出した。


 コツ…コツ…コツ


 足音が近づいてくる、ララはさっき出ていった筈だから誰なんだろう。


「ユキくん、やっと見つけたよー」


 ギルド長のエラーノさんだった。

 その声に背筋が凍つく。


(まあ餓死で死ぬのもギルド長に捕まって死ぬのも変わらないか、もうどっちでもいいや)



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