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鶴の恩返し  作者: 雪桃
冬の始まり〜新年
49/62

小休憩3

 それからは多忙に多忙が続き、気づいたら十二月三十一日になっていた。


「おはようございます。早いですね羽南さん」


 まだ日が出きっていない早朝。寝起きの遥はキッチンで忙しなく働いている羽南の方へ歩み寄った。


「今日は夜までずっと出払ってるからね。明日の準備とかしとかないと」


 羽南の手先には年始に食べるような餅や野菜などが(ところ)(せま)しと並んでいる。


「手伝えることはありますか」

「ありがとう。でも今日はいいよ。外でいっぱい遊ぶんだから」


 遥はなお手伝おうとしたが、羽南も拒否し続けたため、諦めた。

 子どもは楽しいことがあると早起きになるらしい。


「いつもこうならいいのに」

(あまの)(じゃ)()だねー」


 遅刻ギリギリまで寝ては遥が無理矢理起こすまで出てこない。そのせいで遥のストレスは溜まる。それ以外にも長女の重圧だけで疲労が(ぬぐ)えないというのに。


「二人とも、行くのはお昼過ぎね。子ども用アトラクションは少ないからね」


 円と颯馬は頬を膨らませてブーイングを始める。だがアトラクション数が少ないのは事実であるし、ちびっ子二人は飽き性なため、午前から行ってしまうと年明け前に帰りたいとぐずる。


「二人とも。羽南さんにわがまま言わないの」

「まあまあ。遥ちゃん達はいつ出るんだっけ」


 羽南は(なだ)めながらファイリングしておいたチケットを人数分遥に渡した。


「そろそろ。私達はもう遊び尽くす気ですから。特に美智と……むらさきちゃんが」

「村上」


 近くにいた颯介が首を振る。特殊なあだ名があると本名を覚えないらしい。


「古谷君は柄じゃないってあまり乗り気じゃなかったんですけど」

「ツンデレ登場かぁ?」


 無理に誘ったのだろうかと落ち込む遥を茶化す。古谷のことだ。本当に嫌ならば完全に断るだろう。


「大丈夫だよ遥ちゃん。脈はあるから」

「はい……脈?」


 よくわかっていない遥のことは放っておいて、羽南は元旦の仕度を始めていく。

 着々と時間は過ぎていき、気づけば出発の時刻となっていた。


「初詣はそのまま行くんだっけ」

「分かれますけど私達は行きます。羽南さん達は?」

「ちびちゃん次第」


 円と颯馬が年明け、それも大行列に耐えていられるかと言われれば可能性は低い。


「まあ空いてからでもいいし。遥ちゃん達も人がすごいみたいだから気をつけて楽しんでね」

「はい。行ってきます」


 出かけていく三人に手を振る。羽南は隣に来た羽奏を見て薄く笑顔を作る。


「遥ちゃん達、随分明るくなったよね。無駄に遠慮しなくなってきたし」

「そうかもな」


 興味はあまりないようだが羽南の言葉に軽く頷いて羽奏はリビングに戻っていった。




 待ち合わせはテーマパークの最寄り駅にしたのだが、大晦日に加え、イベントがあるというのだから人口密度で人酔いしそうだ。


「ここにいる人達皆目的地は一緒なのかしら」

「かもね。あ、姉ちゃん危ないよ」


 人にぶつかりそうな所を颯介が防ぐ。こういう時に高身長は助かる。


「あ、もう駅着いてるんだ皆。でもこれだけいたら待ち合わせも何もないね」


 どこにいるのかメールで教えてくれてはいる。遥達は方向音痴なわけではない。場所さえわかれば見つけることも容易い。


「ただ場所がわかっても見つけられないことがある」


 一応全員近くにはいるらしい。その近くにいる人の数のせいで目の前すら充分に見えない。途方に暮れている遥の肩を誰かが叩く。


「はい?」

「ハロー遥。追い詰められると絶望する癖直しなよ」

「美智さんがいて助かったっす」


 この人混みから遥達を見つけ出したのだろう美智が手を振っていた。全く苦労していないようなところ流石親友である。後ろにはこの人の多さに軽く(おび)えている沙樹が小さくなっていた。


「私がそこら辺歩いてたら偶然会ってね」

「あれ? 美智って村上さんと会ったことないよね」

「トプ画。後勘」


 もし外れていたらどうするつもりだったのだろうか。美智は度胸がある。


「で?」

「えっと後二人……あ、赤城さん来てた」


 日奈は颯斗と談笑していた。視線に気づくと頭を下げてくる。


「そうすると古谷だけか」

「うん」


 遥は辺りを見回す。古谷の身長であれば小柄な遥でも見つけられるはずだ。そう、特にあの目立つ金髪があれば──。


「あ」


 そんなことを思っていると本当に見つけた。念というのは通じるのかもしれない。


「古谷君!」


 人混みそっちのけで遥は古谷一直線に走っていった。


「来てくれたんだね」

「約束だし」

「また柄じゃないって断られるかと思ってた」


 遥の周りに花が舞っているように見える。余程嬉しいのだろう。

 そんな二人の様子を遠目から見て口を開く。


「あれ付き合ってないんすか?」

「うん。あれで付き合ってないんだよ。驚いたことに」

「遥って自分の容姿の良さにすら気づいてないんだよね。おかげでこっちは苦労しまくり」


 美智含め遥の関係者は冷めた視線を送りながら溜息を吐いた。

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