小休憩2
峰の来訪から二か月が経ち、寒さも佳境に入ってきた年末。大掃除中に宅配便が届いた。
「おい誰だこんな忙しい時期に。いや、言わなくてもわかるな」
今回のものは前回に比べ極端に小さい。紙一枚しか入っていないような軽さだ。
「はあ。今度は何送ってきたんだか」
片づけを一旦中断して羽南は包みを開ける。出てきたのは一枚のカラフルなチラシと人数分のチケットだった。
「大人も子どもも楽しめる。わくわくランド? ネーミングセンス悪くない?」
「ああ。横浜のですね」
玄関掃除を終えた遥が覗き込んできた。
「知ってるの?」
「名前だけ。最近できたテーマパークで入場券を買うだけで日が暮れちゃうって伝説があるくらい人気なんですよ」
「へえ。よく取れたねお母さん」
だが何故年末に送ってくるのだろうか。人気だとしてもこんな忙しい時期に開いているわけが。
「年越しパレードもありますよ」
「すごいね。人気なわけだわ。ちびちゃん達行きたい?」
「行きたい!」
子どもは正直だ。どうせ年末だからと言ってどこかへ旅行に行ったりはしない。折角の貴重な体験を無碍にはできない。
「じゃあ行こっか」
「私は留守番を」
「遥ちゃんも行くの。受験勉強は一回休み」
遠慮しようとする遥の言葉を遮って羽南はチケットをわかりやすく電話の横に置いた。
その日の夜。
「お姉ちゃん、それ何?」
仕事終わりで帰ってきた羽奏が羽南に差し出してきたのは先程見たばかりのチケットだった。それも四枚。
「彼氏と行くの?」
「仮にそうだとしてなんで四枚ある」
「あ、そっか」
この姉妹は顔に似合わずいつでも呑気だ。
「で?」
「会社の同僚からもらった。私は行かないからちび二人でも連れてけ」
「実はアメリカにいる方々から人数分のチケットはもらっています。なのであなたは強制連行です」
あからさまに面倒そうな表情を見せた羽奏を無視して羽南は四枚のチケットを見て渋る。
「このまま処分するにはもったいないけど大晦日なんて皆用事あるだろうし。大人組三人」
ソファでくつろいでいる三人に羽南は声をかける。
「君達くらいの子って飲み会とかないから暇じゃない? ちょっと誘ってみて」
「例えば?」
「んー。あ、美智ちゃんは? 後古谷君に赤城さんと……むらさきちゃん?」
「村上です」
「あ、四人揃ったじゃない」
まだ決まったわけじゃないが善は急げということで三人は早々にメールを送った。返ってきたものはそれぞれである。
沙樹の場合。
『行くっす! 絶対行くっす! お姉さんに感謝っす!」
日奈の場合。
『え、行ってもいいの? うん、大晦日は空いてるよ。じゃあお言葉に甘えて』
美智の場合。
『羽奏さんすごいの引いたね。年越ししたら初詣行こ!』
そして古谷からは。
「……来ない」
今の学生にとっても遊園地は楽しめるものらしい。女子達は大喜びで賛同してきた。ちなみに沙樹の「っす」はメールでも反映されるらしい。
一方で古谷からは全く音沙汰がない。
「もしかしたら忙しいのかもね。有名企業の息子さんでしょ?」
「はい」
急だし仕方ないよと励ます羽南に遥は頷く。だが残念そうな雰囲気は払拭されていない。
「部屋戻ります」
「うん? わかった」
遥の後ろ姿を見ながら羽南は首を傾げた。
「そんなに古谷君と行きたかったのかな」
「姉ちゃん友達少ないんで」
「関係ある?」
友達が普通に多い羽南にはよく理解できていないらしいが実の弟がそう言うのだからそれが正解なのだろうか。
(遥ちゃんが実は一番わからないかも)
羽南は心の中で一人思案していた。
自室に戻った遥は机に向かったが目線はずっと自分の携帯のディスプレイに向いている。遥には珍しく集中力がない。
「古谷君、迷惑だったかな」
高三の三学期になればほとんど学校に行かなくなる。国立を目指す遥は尚更忙しくて学校になんて来れない。だからこそ新年が始まってしまう前に少しでも数少ない友達と思い出を作っておきたかった。
「自分勝手かな」
遥が段々落ち込み始めてきた時、着信音が鳴りだした。ディスプレイには古谷雅人と書いてある。急な連絡に遥は慌てまくり、何故か隅に寄って通話ボタンを押した。
「も、もしもし」
『靏野か?』
返事をしながら無意識に頭を縦に振る。
「ど、どうしたの?」
『誤送信に気づいてないから伝えにきた』
遥は少し冷静になって記憶を巡らせてみた。元々メールのやりとりも少ないから心当たりが見つからない。
『今送ってきただろ』
「今……って遊園地のこと?」
古谷が電話の向こうから肯定を示してくる。遥はそれに二の句が告げなかった。
「えっと、古谷君。あれ、誤送信じゃないよ」
『あ?』
「チケットがあるから弟とか弟の友達とか皆で遊園地行こうって誘ってたの。もちろん強制じゃないよ」
『なんで俺』
「だ、駄目だった? やっぱり迷惑?」
遥はあからさまに焦りの混じった残念そうな声を出した。その声を聞いて古谷は一人沈黙する。
「古谷君?」
『行く』
「え?」
『だから行くってつってんだよ。どうせ家にいても親に説教されるだけだし』
遥は不安そうな表情から花が咲いたような嬉しそうな表情を浮かばせた。
「じゃ、じゃあ時間とか教えるから! 空けといてね!」
嬉々とした声を耳元で聞いた古谷は苦笑いを浮かべながら通話を切った。




