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鶴の恩返し  作者: 雪桃
夏の終わり
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颯斗編です。この章は短めです。多分。

 九月になったと言えど太陽は容赦なく()り続けている。


「旧暦じゃあもう秋の終わりなのに……」

「いつの話してんですか」


 扇風機を前にだらけている羽南とその様子を見て呆れている遥。


「いや学校がある高校生以下よりも長く休みがあるのが嬉しくて」

「来年からは夏休みすらなくなるがな」


 汗一つかいていない羽奏がジャケットを羽織(はお)る。


「だからこそ人生最後の夏休みを満喫(まんきつ)するんです」

「人生って……」


 だらしない羽南を見る遥の横でちびっ子二人が作業していた。怪我のせいであまり動いてはいけない颯介の代わりにリュックに荷物を詰めているのだ。


「にいにこれいる?」

「にいに円おべんとう入れたよ!」

「ありがとう二人とも」


 頭を撫でると二人は喜んだ。骨折した足の完治はまだだが細かい傷は既にほとんど治っている。受験の方も順調だ。


「全く。羽南さん、就活大丈夫なんですか?」

「うっ」


 息詰まっている羽南に意地の悪い笑顔を浮かべながら遥は詰め寄る。


「私ですか? 私は中々いい成績だと思いますよ。努力次第じゃ第一志望も夢じゃないかも?」

「聞いてない。ていうかそんなキャラじゃないでしょ。苦労人の遥ちゃんはどこ行ったの」

「こっちが姉ちゃんです。むしろ今までがイレギュラーなくらい謙遜(けんそん)してましたし」

「え、じゃあ胃に穴は私のせい?」

「あ、それは前からです」

「どこ取っても面倒だな!」

「美歩の生き写しみたいね」


 朝食を()りながらその光景を見ていた古都子がテーブルを叩いて笑っていた。行儀が悪いと羽南に叱られた。得意気にしている遥を羽奏は呼び止める。


「それと遥。お前今夢じゃないと言ったな」

「はい。それが何か……」

「第一志望に向かって勉強してるのに夢なのか? 現実として(とら)えろ」

「あうっ」

「ついでに羽南も」

「え?」


 羽奏は妹二人の頭を片手ずつ(わし)(づか)む。


「調子に乗るな」

「ご、ごめんなさい」

「え、何で私まで」

(なま)けてるから」

「いや今日休みいたいいたい!」


 横目で見ていた颯介は自分もいつかこうなるのかと恐怖に引いていた。その直後、あることに気づいて辺り見回した。


「あれ、兄ちゃんは?」

「いたた。ああ颯斗君なら朝早く出てったよ。文化祭の準備だって」


 羽南は頭を(さす)りながら説明する。公立中学には文化祭がない。遥はあるにはあるが高三は自由参加のため出る予定はない。実質颯斗だけが羽南達の見れる文化祭をやるわけである。


「何やるのかなー?」

「高二はお化け屋敷かコスプレ喫茶です。人気なんですよね毎年」

「コスプレすんだ。お化けも言ってみればコスプレじゃない?」

「深いことはなしです」


 時間になったので家を出た。二学期が始まる。




 颯斗は渡された衣装を見て頬を引きつらせた。


銀縁(ぎんぶち)メガネと言えばクール執事。探すの大変だったんだからね」


 目の前の女子生徒が得意気に鼻を鳴らす。


「別に頼んでないし。つーかメガネも普段はかけてない。授業中だけ」

「女の子の要望に(こた)えたの! 大体こっちのことも考えてよ。あんたのファンって子にラブレターの仲介させられたり嫌味言われたり」

「無視すればいいだろ」

「できるものならやってますー」


 先ほどから颯斗と言いあっている彼女の名前は(あか)()日奈(ひな)。颯斗のクラスメイトである。中肉中背でボブカットの至って平凡な女子生徒である。唯一特異なことと言えば顔立ちが整っている颯斗と仲がいいので仲介役を任されたり妬みを持たれたりする程度だ。


「女の嫉妬って怖いんだからね。それをあんたのせいでほぼ毎日浴びてんだから」

「そんなにか?」

「ラブレターを断れば泣かれ、近づこうとする人を諫めようとすれば『好きだからでしょ。独り占めとかずるい』と逆ギレされる」

「独り占めしたいのか?」

「驕るな最低色男」


 大体の女子は遠巻きに颯斗を見る。だが日奈は()びることなく誰とでも接する。それも理由になっているのだろう。


「仲介役が嫌なら俺から離れればいいだろ」

「そんな簡単だったら苦労してない」


 颯斗の前の席に座ってため息を吐く。


「彼女作らないのもいいけど一人くらいはチラつかせた方がいいよ。ストーカーも出そうだし」

「ストーカーが出たら?」

「あんたの家庭にも遠慮なく土足で入ってくるよ。特に両親のいないイケメンなんて危ない女の()(じき)になりやすいし」


 日奈は颯斗の事情を知っている。人伝ではなく会話している中で颯斗がしゃべった。そのせいでもあるのだろう。この過保護は。


「小さな子もいるんだから気をつけなよ。ていうか文化祭来るの? お姉さん達」

「一応。だからコスプレなんて嫌なんだよ」

「じゃあ似合うの用意しとこー」

「話聞いてた?」


 授業のチャイムが鳴って日奈は戻っていった。取り残された(えん)()(ふく)を紙袋にしまって机を整理しようと颯斗は机を(あさ)った。


(あ……)


 教科書に挟まれて皺になってしまった手紙が一通あった。気づかないうちに机の中にも入れられていたらしい。一年と書いてある。


『〇月〇日に校舎裏で待っています』


(こんな忙しい時期に)


 破いたり捨てたりするのは申し訳がないのでバッグにしまうが、行く意思はない。日奈はストーカーがどうとか言っていたが無視していれば大体下がっていく。


(これも無視しておこう)


 特に気にすることもなく授業を受けた。

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