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説得

「どこから話せばいいか……」


 二人に連れられ近くの公園に行き、誰もいないのを確認してから、キリカと呼ばれた黒髪の少女がぽつりと切り出した。


「悪魔に着いてじゃない?」


 アリスと呼ばれた金髪の少女は、リクとは視線も合わせようともせず、明後日の方向を向きながら、キリカに軽く助言する。


「じゃあ、そこから……」


 アリスの言葉に小さく微笑み、小さく頷くとキリカはリクを見つめてきた。


「罪を犯した人間が落ちるとされる場所に、地獄と言う世界があるんだ。

 六つの責め苦と四つの厳しい環境の中で、生前、携わった者の怨みが消えるまでさ亡者となって迷い続ける贖罪の地。

 その更なる深淵に住み、亡者の苦しみを糧に生きる……と言うのは違うな……。

 亡者の苦しみや負の力を、快楽の為に体内に取り込み、力に変換する種族。

 それが悪魔……。

 貴族と呼ばれる物のほとんどは堕天使とされる神を裏切った天使たち。

 地獄で生まれたものや、亡者が進化したものは、使い魔から始まる……」


「そんな宗教染みた話はいい。

 その悪魔とサキにどんな関係があるんだよ!」


「うるさい! 黙って聞きなさいよ!!」


 キリカは静かに淡々と語って来たが、リクは悪魔に着いてそれほど興味がなく、痺れを切らして口を挟んだが、それ以上にイライラとしていたアリスによって制止された。

 リクが小さく舌打ちをして口をつぐむと、キリカは小さく笑った。


「天使や悪魔は本来肉体を持たない精神体の塊なんだ。人とは違い、肉の体など要らない高次元の存在だから……。

 だから、通常目に見ること出来ず、人は神や悪魔の存在を信じない。

 信じたところで何のメリットもデメリットもないから、私はそれでいいと思っている」


 キリカは淡々と流れるような口調で悪魔に着いて語っていく。

 存在するのは知っているが、別に重要視する必要はないと言う内容だ。

 そこまで言ってキリカは一度口を止めて、僅かな間沈黙した。


「だけどこの間、人間界に悪魔の存在が発見されて、急激に成長をしていると言う情報が入ったんだ。

 それで私たちは調査に来た……」


 キリカは少し口調を強くすると真っ直ぐにリクを見つめて言い放った。

 そこに含まれた、引けないと言う強い意思を感じて、リクは歯噛みした。


「それがサキだって言うのか!?」


 キリカは無言でリクを見つめていた瞳をゆっくりと閉じた。

 リクはそれを無言の肯定と受け取った。


「ふざけるな! だいたい、サキはちゃんと体があるじゃないか! あんたの言ってる事が本当だとしたら、悪魔には体がないはずだろう!?」


「うん。だから、組織も今まで彼女を発見出来なかった。彼女は私たちにとっても未知な存在なんだ……」


 キリカは静かに頷くと瞳を開いた。


「人が長い年月を掛けてゆっくりと悪魔に変質してきたような、彼女の中で眠っていた悪魔がゆっくりと覚醒していくような、不安定で不可侵な存在。

 放置するには危険すぎる」


「証拠は? サキがその悪魔だっていう証拠はあるの?」


 真っ直ぐに見つめてくるキリカを睨み返して、リクは声を張り上げた。


「疚しい事がある人間って証拠を欲しがるのよねぇ……」


 それまで黙っていたアリスが嘲笑を浮かべて冷ややかに言ってくる。


「証拠もないのに、悪魔だなんて決めつけるのかよ」


 リクはカッとなってアリスに詰め寄った。証拠がないと言う事は確証もないと言うことだ。確証もないままにサキを悪魔だと決めつけるのなんて許せない。

 仮に、もしも悪魔だったとしても守るつもりでいた。


「決めつけている訳じゃないよ……。

 こっちも始めてのケースで正直戸惑っているんだ。

 だけど、もしも急に悪魔に目覚めたら、彼女は力を制御出来ないで、この世の全ての負の感情を吸収してしまう。

 人の怨みや憎しみを……。

 そんなものを一度に取り込んだら、普通の精神じゃあ耐えられない。

 彼女は発狂してしまう、と思う。

 発狂してしまったら力の制御なんか出来ずに、暴走させてしまう。

 暴走した力は、この世界を壊す。

 その被害は予測できない。私たちはそれを止めたいんだ……」


 キリカは静かに、ゆっくりと、言葉を選ぶように淡々と告げた。

 リクに協力を求めて来ているのは分かったが、リクは気付かない振りをした。

 あまりにも突飛した話に思考が着いていかないのかも知れない。落ち着いて整理する必要がある。

 だが、もしも彼女の言うことが本当だとしても、サキを悪魔だなんて認めない。

 例え、一人であろうと……。


「だとしたら、ただの時間の無駄だよ。

 サキは悪魔なんかじゃない。

 もう、サキに付きまとうのは止めて」


 リクはそれだけ言うと、用はないと言う意思表示を込めて歩き出した。


「あんたたちの為を思って言ってあげてるのに!!」


 アリスが不機嫌そうに吐き捨てた声が聞こえた。


「人の思ったことが分かるようになったら気を付けるように彼女に言って!!」


 キリカの言葉に一瞬足を止めたが、リクは再び歩き出した。

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