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接触

 翌日、リクは極度の筋肉通に襲われて、腕がぴくぴくと痙攣していた。

 昨日の鐘衝きが祟っているのだ。

 あの後、結局五十回程度鐘を衝かされ、普段使わない筋肉に掛かった負担が、今になって出ていた。


「どうした? リク。なんだか元気ないな?」


 ただ、腕の痛みに耐えていただけなのだが、辛そうに見えたのか健が心配そうに聞いてきた。


「えっ? だ……大丈夫。元気だよ?」


 リクは今にも吊りそうなほどに痛む腕を必死に我慢して、心配掛けない微笑んだ。


「なっ……!! お前、本当に大丈夫か!?

 どっか悪いんなら無理はしない方がいいぞ!!」


 何故か健はそれまで以上に焦った様子で詰め寄ってきた。安心させようと微笑んだのだが、どうも失敗だったようだ。

 健がこんなに焦るなんて、かなり酷い顔をしてしまったのだろう。


「大丈夫、大丈夫。ただの筋肉通だから、そんなに心配することはないよ。

 ねぇ、リク」


 それを見ていたサキが笑いを噛み殺しながら近付いて来て健を安心させようと告げた。


「筋肉通……? 鴉紋君が筋肉通になるなんて珍しいね……」


 サキと一緒に二人の元へやって来た夕美がきょとんとした顔で見つめてきた。


「たいした事はしてないんだけどねぇ。

 普段、運動をしなさ過ぎなのよ。リクは」


「誰のせいだよ……」


 不思議そうに見つめる夕美にサキが肩を竦めて苦笑気味で答えているのを見て、リクは溜め息と一緒に吐き出した。

 サキがあんなにねだらなければ、リクも あれほど鐘を衝く事はなかった。

 こんな筋肉通に苦しむ事もなかったのだ。


「リクが運動不足なのは私のせいじゃないもん!」


 サキはつーんとそっぽを向くと冷たく言い放つ。親を尊敬して科学者を目指しているリクは、ついつい勉学へ片寄り気味で運動は体育の授業でやるくらいの生活を送っていた。

 従って、運動はあまり得意ではない。


「だ~か~ら、さぁ、俺とサッカー部で良い汗掻こうぜ?」


 健がここぞとばかりに勧誘してくる。

 サッカー部はなかなかの強豪で、県内でもベスト四に残る結果を出している。

 そんなところに入部したら、それこそ筋肉通に悩まされて勉強など手に着かなくなってしまう。

 だから、リクの返答はいつも同じだ。


「脚下!!」


「なんでだよ~!!」


「だけど、鴉紋君は本当に少し身体を動かしてもいいかも……」


「少しじゃダメダメ……。なにもかも忘れるくらいじゃないとリクの運動不足は解消できないよ……」


 みんなが一度に話し出し、もう誰に返事をすれば良いのか分からなくふなってくる。

 こんな事は珍しい事ではない。

 四人で話していると、なにを話題に話しても、結局最後はこうなる。

 だけど、リクはそんな毎日が嫌いではなかった。寧ろ楽しくさえあった。

 ずっとこんな日が続けばと思っていた。


 一日の授業がなにごともなく終わって放課後。健と夕美は部活に行き、サキは友達と約束があると料理研究会に行った為、リクは一人で図書室にいた。

 家で勉強するための参考書を探していたのだ。

 図書室と行っても学校の一室に本を集めた部屋ではなく、それだけで独立した建物があり、色んな所から寄贈もされるため、町の図書館と変わらない施設である。

 本棚を回り辞典や論文を物色していると、窓の外を二人組の女性が横切って行くのが見えた。

 昨日の金髪と黒髪の二人だ。


(あの方向は学校! また、サキに変なことを言うつもりだな!!)


 二人が向かう先には学校があり、サキはまだ残っている。あの二人が待ち伏せをしたら出くわしてしまうのは明かだ。

 リクは持っていた本を適当な本棚に置くと、二人を止める為に図書室を出て追い掛けた。


「そこの二人、ちょっと待って。

 何処に行くつもりだよ!?」


 リクは走って二人に追い付くと、後ろから声を掛けて引き止めた。

 二人が足を止めてゆっくりと振り返る。


「あんた誰よ! 私たちが何処に行こうと私たちの勝手でしょ!!」


「君は……」


 振り返ると一歩前に出て勢い良く捲し立てる金髪少女の声と、昨日の公園での会っただけなのに顔を覚えていたらしい黒髪の呟きが重なった。


「なにキリカ、あいつと知り合いなの?」


 金髪少女が黒髪の少女を振り返り、不思議そうに見つめて問い掛けた。


「ほら、昨日ターゲットと接触したときに……」


「ああ……」


 黒髪の少女の言葉で昨日の公園での事を思い出したのか、少女の瞳が仇でも見るようにスゥーと細められた。

 

「昨日、私たちの邪魔した無関係者なお邪魔虫が、私たちになんの用よ?」


 金髪少女が敵意剥き出しで威嚇するように睨むと、皮肉を交えて低く言った。


「お前たち、これからサキの所に行くつもりだろう!?」


 だが、リクもここは引くつもりはない。このままサキの所に行かせたら、また酷い事を言って傷つけるだろう。

 絶対に行かせるわけにはいかない。


「だったらなによ?」


「止めろよ! また酷い事を言うつもりなんだろう!?」


「事情をろくに知りもしないくせに、勝手な事言ってんじゃないわよ!

 部外者は引っ込んでて!!」


「勝手なことを言っているのはそっちだろう? サキに変なことを吹き込んで何が目的だよ!!」


 リクの言葉など聞く耳も持たずに、金髪少女は好き勝手を言って来る。

 リクは絶対にこの二人とサキは会わせてはいかないと思った。


「アリス。それから君も……。

 少し落ち着いて話そう……」


 黒髪の少女が、二人を交互に見て制止すると、リクを見つめて静かに告げた。

 彼女の声に敵意は感じず、穏やかに響き、リクは頭に登っていた血が下がり、冷静を取り戻した。


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