表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

6.童

青年は手を振って見送ってくれた。道場の奥にある扉を開くとまた薄暗い廊下が続いている。そしてこの廊下も下り坂に傾斜がついているような気がする。

 先ほどと同様にずっとその薄暗い廊下を歩き続けた。また長い廊下だと思う。普通の家であれば数秒でまた違う扉へとたどりつくものだろう。だがこの廊下ははてしなく先が見えてこない。

 なにやら後ろの方で音がする。

 「コン・・・コン・・・コン・・・・コン・・・コン・・・」

 足音というわけではないような音だ。でもまぁ先を急ごう。



 あれ、何もない。

 歩いてたどり着いて、扉をあけた。開けたら部屋全体を見渡しながら扉をしめる。

 あれ、誰もいない。

 はてさて、はてまて。この長く続いた一本道。

 分かれ道などあっただろうか。

 なぜ何もないのか。この部屋であっているのはあっているはずだ。

 なんとなく広い部屋。天井は変わらず古びた木目の眺め。だがどうだろう。足元に違和感。

 ・・・砂利が敷き詰められている。

 今まで上も下も日本古来からの伝統である木材で建築されていたはず。だが建物が屋根だけをそのままに地面が砂利の変わった部屋へとたどりつく。

 部屋の中は薄暗く。入口に灯されたロウソク一本だけがあたりを照らす。

 その照らす光はこの部屋の壁までとどききることはないほど小さな灯りだ。

 耳をすませて、気配を感じて。少し部屋の中央へ向けてあるきだしてみる。

 

 「・・・・・・・あっ」


 なにか声がして振り向いた。だがそこにはだれもいない。そして振り向いた時。首筋に生暖かい風が撫でるように通り過ぎた感覚が脳へと伝わってきた。

 あわてて入口の扉へと飛び跳ね駆け寄り身をひそめる。

 見えてはいない。だが何かいる。そんな気配を感じることができた。

 いったい誰なのか、この部屋主なのか。扉を背にして視界をグルグルと部屋の監視に集中を研ぎ澄ませる。


 「ッバアアァァァァァア」


 視界が左の壁へと移動した時その声は聞こえてきた。

 それはもうすぐそこで、なんなら目の前で。

 視界をまっすぐ前にもどすと赤い着物を着た長い髪をした女が天井から逆さ宙吊りになってこちらを向いている。そして手をまっすぐとちらへ伸ばして、頬を撫でまわし始めた。急な出来事になされるがまま、その場でへたりと座り込む。

 その女の髪はところどころにベタつきがあり、ロウソクの火に照らされると、赤黒くその色を発していてなんというか、触りたくはないいでたちだ。

 体はひどくやせ細り、不健康な生活を送っているのだなというのはすぐわかる。

 

 「おや・・・・、そこまで驚いてはくれなかったようだねぇ・・・っひっひっひ」


 いきなりあらわれた女にこちらがとまどっていると女は逆さのまんま腕組みをして話しかけてくる。

 話し口調からこの人がこの部屋の話家なのだろうか。

 女はこちらの様子をジロジロ伺うと一度天井へと戻ってまた降りてきた。


 「いやいやぁ・・・・久しぶりなもんでねぇ・・・・腕がにぶっちまったかねぇ・・・あの頃は一度飛び出せば次の日には街の話題は・・・・・・・」


 降りてきた女は着物の裾に両腕を通して誰に話しかえるでもなくしばらく独り言をブツブツいっていた。

 見かねて話しかけてこの部屋の趣旨をこの女から説明を要求する。


 「あぁ・・・あぁ・・・そうだったねぇ・・・まぁ・・・・そうかい・・・・あなたがねぇ・・・・いいだろう。こっちへおいでなし」


 女はその問いかけを聞いて我に返りまたこちらをジロジロと眺める。すると裾からロウソクを出して部屋にあらかじめついていたロウソクから火をわけた。そして皿にのせて歩き出しす。


 「ここはねぇ・・・・この屋敷で遊んでいたわっぱたちの遊び場でねぇ・・・あまり客なんてこなくなっちまった頃に遊びにきてくれていたもんだから、めんこくてねぇ・・めんこくてねぇ・・・今でもそのまま残しているんだよ。」


 女は歩きながら昔話を始める。

 わっぱが来たのはこの敷地に人が誰も寄り付かなくなり、人から忘れられてしまっちまった時やった。

 わっぱははじめに一人でここへと来ると、走り回っては襖をあけて、天井に潜って、楽しそうにはしゃいでたんよ。

 その姿はここにいるもんみなを和ましい気持ちにさせてくれてな、たまにいきおいあまって天井をつきやぶってたりもなんかしてたけど。まぁ、それでもやっぱり元気なわっぱはかわいいもんじゃ。

 みなわんぱく坊主をからかっては楽しんどったねぇ。

 それからしばらくはわんぱく坊主一人でここへときちょったんやけどそのうち何人かの子供も連れて訪れるようになった。

 わっぱが増えてみなもうれしかったわい、毎日が華やいでおった。

 暗く沈んだやつらもわっぱの楽しい声をきいちょったら気になって表にでてきよる。

 結局6人の子供といくらかの私らで遊ぶようになったんよ。

 蹴鞠もしたし、札読みもしよった。

 一番やっとったのはかくれんぼかのぉ。ここは隠れる場所がいっぱいあるさかいみんな工夫に工夫を重ねて柱の中に隠れるやつまでおったわ。

 いやぁ、楽しかった。あの頃は楽しかった。

 んでもなぁ。そんな楽しい時間も長くは続かんのよ。

 わっぱも年を重ねて大人になる。

 そのうちここへはこんようになった。

 わっちらは寂しうて寂しうてなぁ。街の方へとそのわっぱを探してブラブラさまよったりもしたんよ。

 そんだらわっぱはもう立派な男に育ちよってなぁ。

 いつのまにか大きな商店の番長をやっておったわい。

 うれしかったねぇ・・・あんときやんちゃしとったわっぱが一人前に一つの家庭をまもっちょる。わしらはそれみてそそくさと帰ったさ。

 まぁたまに来る楽しい時間やった。それだけのこと。

 わしらには邪魔する権利もそんな気もあらへん。

 自分に言い聞かせるようにブツブツ言うてたなぁ。

 ほんでわしらはまた大人しゅうまた暮らしとったんよ。

 まぁ、しばらくはみんなちょっと落ち込んでしもうてたけどなぁ。

 そんでしばらくしてある時な、街人がここを通りながら大きな叫び声を上げて走り抜けていくのが見えた。

 そいつはえらい顔してこう叫ぶ。


 「天狗やぁ。天狗がでよったぁ、子供が攫われてしもうたやー」


 何事かと思ったねぇ。

 わしらはひっそりと暮らしていたから外の情景がどういう世の中になっていたのかは知りもしなかったんよ。でも荒んだ人間模様が渦まいとったらしいわ。

 街人の数はしだいに増えていってなぁ、あっちこっち走り回って子供を探す声が大きく大きくなっていく。

 ほんで日が暮れてしもうてあたりが暗うなった頃にやな。

 見知らぬ男が一人、この敷地内へと入ってきよる。

 そいつは手に何か包んだ式袋をぶらさげてよたよた危なげにあるいとった。

 まぁ、これもたまにおこる気まぐれか。みなそう思って気にもせん。

 その男は敷地の隅にその式袋をどすんと置いていくとそこから去っていき寄った。

 何がしたかったんかのぉ。そん時はわからんかった。

 わからんかったゆえに式袋の中身なんて誰も確認もせん。

 ほんでしだいに街人の声は止んであたりは静けさを取戻し。

 次の日様が登りおる。

 明けた日になって少し驚いた。なんやしらんが人だかりが敷地の前でわんさかわんさかわいとるではないか。

 しばらくこんなに人の目にさらされることはなかったさかいみんなあっちこっち身を寄せ合って隠れて覗いた。

 

 「これ・・・これや・・・これ・・・じゃねぇのんか・・・・」


 一人の老人が敷地の中へと入ってくると昨日変な男が置いて行った式袋をてにとって持ち上げた。

 その式袋を持ち上げると底からは赤い液体がしたたり、その老人は一度地面へと投げ出してしまう。

 それをみてあたりの大人どもは大声あげてさわぎはじめよった。

 祟りじゃ。呪いじゃ。鬼の仕業じゃと。

 わしらからしたらそれを置いていったのはお主らと同じ人間であろう思うところ。じゃがまぁ話が通じるわけもない。

 黙って見とくだけやった。

 老人は手を奮わしながら、式袋を一枚、一枚。広げて中身を確認し、絶句する。

 老人は群衆の中の一人を呼びつけるとその式袋をそいつにみせよった。

 なんというめぐりあわせかのう。

 その式袋を見せられた男はあのよう遊びにきちょったわっぱやった。

 わしらはそれ見て一斉に駆け寄ったんよ。そしたら式袋のなかには手足が切断された赤い衣を身にまとった赤子の骸が包まれとる。もう何も言うまいて、わしらはもしかするその事態に黙ることしかできんかった。

 わっぱは血が滴るその式袋を大事そうに抱えてここを離れていきおる。

 わしらは呼び止めた。昨日それを置いて行った男がおると、それはお前さんのわっぱだったのかと。

 だがわっぱは答えん。それもそうやろう。悲しさでもう誰の声も聞こえんやろう。今はそっとしてほしいことやろう。

 わしらは待っちょる。お前さんがわしらを必要としてくれるその時を。

 じっと待っちょるからな。そう最後に告げておいた。


 群衆は去るわっぱをみてざわつき何やら恐れおののいて叫びだすものが現れる。


 「首狩りの社やぁ・・・首社の呪いなんやぁ」


 男はこちらを指差して大声で騒ぎ始めよる。それを聞いて他の奴らも騒いで逃げ出してどこかへ行っちまいよった。

 いったいどういうことなのか。まぁ・・・だいたい予想はつくことやが、やってないもんはやってないのになぁ・・・。

 ほんでしばらくまたここへは人っこ一人寄り付かんくなる。

 まぁいつものことや。仕方のないことや。

 別にかまうことなんてあらへん。

 そうおもっとった。

 けれどもそうは今回能天気には構えていられんことになった。

 なんかしらんけどどっかお寺から偉い僧侶がこちらへと向かっているらしい。

 わしらはなんもしとらんのに、その僧侶に無理やり押さえつけられるかけされてしまうやもわからん。

 いったいどうしたもんか。みんな話おうてみるが結果はでやん。

 時間は短い。そうこうしてる間に僧侶はきてもうてしまう。


 「・・・南無。ここは、静かですが。いや、静かに見えるだけで底がない沼のような場所でございます。この場所はきっかけ次第で厄災をもたらす原因となりうることでしょう・・・・」


 予想は当たってしまった。僧侶はここを見てすぐに経を唱え、付き人に周囲を塩で清めはじめる。札を張りわたしらをじりじりと追い詰めていくのだよ。

 まったくとばっちりもいいことだ。だがこのままっただで終わってしまっては私らも虫の居所が悪いってもんでねぇ。

 悪あがきにその坊さんを全員で呪ってやったのさ。そしたら意外なことにその坊さん簡単に病に伏しちまってねぇ。

 だがそのかわりにさらに高位の僧侶が山から下りて来ちまうって話になった。

 今度もうまくいくのかはわからない。

 わしらは最後にわっぱの赤子を殺した人間を見つけ出してわっぱの前に連れ出してやろう。

 そう最後に奮起したんよ。

 いやぁ、歳がいもなく血がさわいだねぇ。

 わっちらのかわいいかわいいわっぱを泣かせる餓鬼。

 わっちらをおとしめて苦しめる餓鬼。

 どんな理由があったにせよ、この恨み、はらさねねば気が済むまいて・・・。

 わしらは全員各地へ散った。あの時暗闇で見た風貌だけを頼りにね。

 京都の隅から隅まで探し回り、その男の正体がわからぬことには帰らぬ勢いでみな血眼になって探し寄った。

 いやぁ・・・本気になればできちまもんさねぇ・・・。

 何人かで見かけた男がその夜と同じ柄の服を着て薬師寺通りを歩いて南に下っていったという話があった。

 それを聞いて夜の烏丸はわっちらの戦場となるわけよ。

 そこにある店をその男は構えちょった。わっぱと同じ商売やったらしい。

 たぶん商売敵の恨みっちゅうことやろう。

 せやけど商売で勝負せんと赤子を殺すなどわしらでも許せたことやない。わしらかて好きでやったんと違う。

 仕方なしにや仕方なしに・・・・。

 思いの形が違いすぎるわ。これと一緒にされちゃわしらの尊厳なんてあったもんやない。

 わしらは迷わず全員でその店に襲い掛かった。

 だがそこで運悪く。相手の居所がわかったところで僧侶がわしらの社へとついてきてしまいよる。

 社からはあまり離れられないわしらじゃけんのぉ・・・。

 その僧がひとたび手をあわせたらみんな社に呼び戻されてしもうた。

 その僧はわしらに言いよる。

 

 「このどよめきはいずれ大事になるかもしれませぬ。申し訳ない。しばらくお休みくださいませ。」


 この僧はすごかった。ひとたび手を合わせると身動きが取れなくなるんよ。

 もうひとたび数珠をこするとわしらは社に閉じ込められてしもうた。

 憎かったねぇ・・・。憎かったねぇ・・・。

 あと少し、ほんのすこしでわっぱの仇を殺ってやれたというのに。

 わたしらはもう泣き寝入りするしかなかったさ。

 次に時がくれば今までの比にならない程おぞましさを増してしまうのに。この僧も少し早とちりしてしまったようだねぇ。

 まぁ閉じ込められちまったもんはしょうがないさ。

 黙って待っていたよ。何日も。何日も。

 だがその待っているだけの日々というのは、意外と早く終わってしまう。

 その終わりを訪れさせてくれたのはなんとわっぱやった。

 わっぱはあの時以来にこの社へと顔を出す。

 わしらはそん時はうれしかったんかいなぁ・・・。

 仇がとれなくて申し訳ない気持ちでもいっぱいやった。

 身動きがとれんさかいのぉ。なんも伝えれへんのが口惜しい。

 わっぱが社に入ってきてすぐに気づいたことや、顔にしみができてシワも増えて、わっぱはさらに歳を重ねとった。

 わっぱ・・・・なんでそんな顔をしちょるのか。

 年を重ねて大人になったわっぱの目には生気がまったくとあらへん。

 何故や、何故なんや。

 あの頃元気に一緒に駆け回ってたわっぱはどこへいったのか。何がお前をそうさせたんや。わしらはここにおる。そんな顔せんとまた遊ぼうやないか。

 わっぱは聞こえておらんのか黙って社の中へと入ってきおる。

 わっぱは昔、初めてここへ来たときのようにあたりを見渡すと社の中を探索しはじめよった。

 なんやろうなぁ。何かを探しているような。何かを取り戻そうとしているような。そんな必死さが伝わってきたわ。

 わっぱは一生懸命社を探し回ると社の真ん中でぽつんと真ん中に座り。

 一人でなにかをしゃべりおる。


 誰か、誰かおるんかぁ・・・。みんながおる気はするんやけどなぁ・・・。

 いつ頃やろか、お前さんたちが見えなくなってしもうて。

 それをいろんなもんに相談してどうにかまたお前さんたちに合えへんもんか、考えてはみたんやぁ。

 でもなぁ・・・今ここにまた来て見ておまえさんたちのことが見えへんみたいや・・・。

 すまんなぁ・・・・本当にすまんなぁ・・・・。

 わしの赤子がもう随分前にここで死んでもうとったやろ。

 あれを他のもんはこの社の祟りや呪いや言うて町中の騒ぎにしちょった。

 それでもわしはみんなをしっちょったから。

 ここの祟りなんやない。ここのみんなはみんな楽しくあそんどってくれた友達なんや。そうずっと思っておった。本当に。

 でも人から色々言われるうちに疑心暗鬼言うか、娘を失った辛さからかなぁ・・・。わかっていてもここに来ようとは思えなんだ。

 ある僧侶にお前さんたちが清められたと聞いた時もまずいち早くわしが言うべきやったんやろうになぁ・・・・。本当にすまん・・・。

 んでな、今日ここにきたんはな、その娘を殺したやつがわかったからなんやわ。そいつはな、わしの店を乗っ取ってしまうと全部わしから奪い去った後にわしの赤子の話をしていきよった・・・。

 もうすべてをそいつに奪われた。わしはなぁ・・・悔しくてなぁ・・・。

 でももうわしにはどうすることもできそうにもない。よぼよぼの老いぼれになってしもうた。

 お前さんたちは今はどうなっておるんかいのぉ。

 もしもう一度、お前さんたちにあえるのなら会ってみたいものじゃ。

 そんで会えないんやったらなぁ、一つだけ。わしはお前さんたちと会う方法を一つ思いついたんや。

 そう、それはあまりいい方法ではないのかもしれん。

 でももうええんや、もうわしにはなんもない。

 住む家も。守る家族も。働く場所でさえ。

 わしはお前さんたちに早く会いたいわ。

 もう悩んで苦しんで後悔する日々は終わりや。なんも考えんと、またお前さんたちと遊んで、むこうでは娘はもう大人になれとんかいなぁ。

 娘にも会いにいきたいわぁ。


 わっぱは一人でに床をじっと見ながらはなしちょった。

 私らはそれを取り囲んでその話をじっときいちょった。

 死ぬんはあかん。死んでもええ事はない。生きてへんとできんことのほうが山ほどある。

 それを後悔せんと全部できたんか、お前さんはまだ生きちょるんやろう・・・。

 わしらは必死に話しかけ、わっぱの思いをとどまらせようと屋敷を揺らしては彼に伝えようと頑張った。

 だがなぁ・・・わっぱの思いっていうのはもう覚悟が決まってしまってたみたいや。

 屋敷を大きく揺ら志、天井をうならせ、音をたてて・・・でもわっぱはそれを聞いて「すまへんなぁ・・・」というと懐から刃物を取り出し刃を抜きおる。

 わっちもなんとかしようとわっぱにしがみついた。

 せやけどわっぱはもう迷いもせん、自分の腹に、刃を突き刺して自害しおってんや。

 悲しいなぁ・・・あのわっぱがこんな死に方を選んでしまうなんてなぁ。

 わっちも他の奴らも泣き出してしもうちょるわ。

 

 「・・・・・お前さんたち・・・・ずっと、いてくれたんやなぁ」

 

 最後わっぱと目がおうた。わしらのこと最後に見えたみたいや。最後の最後でようやく会うことができよった。 

 わっぱはそれを見て血がしたたるその体を立ちおこし、わっちらにお願いをしてきおる。


 「最後に、最後に子とろ子とろせえへんか。わしがお前さんら全員守ってみせるさかい、鬼は必至こいてかかってきいや。」


 わっぱはわらっとる。

 血を吐いてもわらっちょる。

 わしらはもうなんもいわんとわっぱの背中に並んでくっついた。

 ほんで昔っから鬼の役目の餓鬼3人が変わるがわるに鬼をしよってのお。

 わっぱは全力で守ってくれてなぁ。

 3人がかりの餓鬼相手に一人も誰も盗られへんかった。

 力つきるまで守ってくれたわっぱはその場で倒れてありがとう言うていってしもた。

 もう言葉にならへん。

 ほんでそん時ちょっと不思議な出来事も沸いてでき起った。

 社の護封が解き放たれてくれたんや。これがわっぱの力なんか何なのかはわからへん。でもそん時はもうわっちら全員一つのことしか頭に浮かんでいない。それはその憎き相手への復讐や。

 そこから先はもう無我夢中で覚えてはいいひん。

 ただそいつはまともな死に方させへんかったんはぁなんとなく覚えちょる。

 その一件以来わしらは荒んでもうた。まぁその先の話しはまたちゃう機会でええやろ。


 女はしばらく暗闇の中続く部屋を歩き続けると周りが暗闇に包まれる部屋の中央へと立ち止まった。


 「おまちどうさん。ここではその今話した子とろ子とろをしてもらおう思います。」


 女は地面にロウソクの入った皿を置くと説明を始めた。

 子とろ子とろは親の後ろに並んだ子供を鬼が奪い去っていくっちゅう遊びや。親は両手を広げて動くだけで鬼を掴んだり、はたいたり、殴ったりけったりはしてはいけない。

 鬼は一人、話で出てきたそいつらや。

 鬼は正面からどんどんと飛び込んでくる。それを押さえつけて後ろの子供を守るんや。

 もし両手をすり抜けて後ろに鬼が駆け寄ってしもうたら子供が一人、つれさられていってしまう。これはなぁ・・・・のちのち自分のためにも子供はちゃあんと守ってあげるんやで。

 もし4人全員子供をつれさられるとその時点で負けになる。

 さっきええ話聞かせた手前、みっともない醜態みせてくれたらわかってるんやろうなぁ。

 まぁ、ええねん、とりあえずは楽しんでおくれやす。

 制限時間はこのロウソクの火が燃え尽きるまで。それはどのぐらいの時間なのか、わっちにもわかりあせん。

 どうかがんばってくださいまし。

 あ、そうそう、はじまると背中に子供がはりつきよりますけど、後ろは見ない方が、自分のためでっせ、それでは・・・・。


 はじめましょうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ