6.勇者
石畳に血が広がる。
あとわずかで、ガルドの首は落ちていた。
「停戦を提案する」
中庭がざわめく。
ヴォルドの声は静かだが、戦場の隅々まで届いた。
「この砦は放棄する。武装を解除し、重火器は破壊する。捕虜にした王国兵は即時返還する」
レオンは動かない。
剣先は、なおもガルドの喉元に据えられたまま。
「ここで将を斬っても戦況は変わらない。だが交渉の芽は潰れる。君の正義は、無駄な血を許すのか?」
わずかに、レオンの目が揺れる。
後方で、ミリアが息を呑んだ。
「レオン……! 仲間が戻るなら——」
ボルグが低く唸る。
「こいつら本気だぞ。砲台を壊してやがる。」
城壁上で爆音が連続する。
魔導砲が破壊され、重装の鎧や槍が次々と投げ捨てられていく。
エレナは結界を維持したまま、静かに言った。
「……演出ではありません。本当に武装解除しています」
レオンはゆっくりと剣を引いた。
兵が駆け寄り、ガルドを担ぎ上げる。
あと一瞬遅ければ、死んでいた。
「将軍を撤退させる」
ヴォルドの声が淡々と告げる。
ガルドは血を流しながら、かすかに呟いた。
「……陛下……」
城内へ消える。
だが——レオンは剣を下ろさない。
ゆっくりと構え直す。
「魔王、お前は何かを隠しているな」
「なぜ今、砦を捨てる。勝てないからか?」
「合理的判断だ」
「違う」
一歩、前へ。
「勝つ気がない。時間を稼いでいる。何かを待っている」
沈黙。
「好きに解釈しろ。だが三日以内に交渉の場を設けろ。返答がなければ再開とみなす」
レオンは聖剣を構え直す。
「交渉は聖王国側が決めることだ」
「俺はーー進軍は続ける!」
エレナが叫ぶ。
「勇者様!?」
ミリアが叫ぶ。
「待って、レオン! それじゃ停戦の交渉にならないわよ!」
レオンは振り返らない。
城門へ向けて歩き出す。
武装を捨てた魔族兵たちの間を、まっすぐに。
「武装を捨てようが関係ない。魔王がいる限り、戦争は終わらない」
一歩。
また一歩。
「俺は、止まらない」
誰も、止められない。
ヴォルドの声が、最後に静かに響く。
「……いいだろう。停戦交渉はは破棄された。」
通信が途切れる。
フォートレス・ブラッドは陥落した。
ガルドは生きている。
だが勇者は止まらない。
ヴォルドは目を閉じ、わずかに息を吐いた。
「……止まらないか」
傍らでリリアが問う。
「陛下、交渉は」
「続ける」
ゆっくりと目を開く。
「次は、もっと大きなテーブルを用意する」




