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舞台裏にて

エルナーシャたちが、消沈の中でセンテニオンの町へと戻って来る中で、シェキーナたちは独自の調査を行い、その内容について話していた。

 センテニオ領にて起こった、魔獣の集団統率による襲撃問題において、シェキーナはエルナーシャたちに問題解決を指示した。無論、彼女たちに任せて自分たちは何も動かず……と言う訳では無かった。


『は……はいっ、シェキーナ様っ! 我が魔獣を繰る一族は、シェキーナ様に刃を向けるような愚は犯しませんっ! ……いえ、犯させませんっ!』


 通信用の水晶には、緊張と恐縮で表情が青くなり固まったまま、口だけを動かすと言う奇行を行うベスティア=ソシオが映っていた。彼女は、魔王軍奇襲部隊隊長を任された軍の中核におり、今回は魔王城に留守居を任されていた。


 シェキーナが外遊を行うに際して、魔界の統治や魔王城の管理は、アヴォー老に一任している。

 だが万一に場合は、連絡が取れるように手配するのは当然の事であり、この通信用の水晶もその一つだった。アエッタが用意したこの水晶は、魔法的に繋がった2つの水晶間だけに限定されるものの、込める魔力の強さで距離に関係なく映像と会話のやり取りが出来る優れ物だった。


「……お前がそうだとしても、お前の一族の中にそう考えない者が出てくる可能性もあるのではないか?」


 やや意地の悪いシェキーナの問い掛けに、ベスティアは即座に返答できずにいた。本当ならば、すぐにでも否定の言を述べたいのだろうが、可能性として皆無ではない以上、ここで雄弁を振るっても意味が無いと理解したからだ。


「フッフフ……、そう暗い顔をするな。少なくとも私は、お前の事を信じているからな」


『は……はいっ!』


 シェキーナの声に光明を見たように、ベスティアは輝く様な笑顔で返答した。それはまるで、怒られてしょげていた子供が、許されたことで表情を一変させたようにも見える。

 シェキーナを慕う……と言うよりも崇敬しているベスティアにとって、もしも僅かな生き残りとなった一族から逆臣が出ようものなら、それはとても看過できるような話では無かったのだ。


「詳しい内容は分かった。後は、こちらで検討しよう」


『畏まりましたっ! 私の方でも、一族の事を再度洗い直してみますっ! 裏切り者がいた場合の処分はお任せ下さいっ!』


 話を打ち切るシェキーナの台詞を聞いて、ベスティアは意気ごみ過ぎるほどの力が込められた言葉を告げ、そのまま通信は途切れたのだった。




 魔王城との通信を終えたシェキーナだったが、当然この場に1人と言う訳では無い。近くには秘書であるムニミィと、今や魔王軍の参謀でもあるアエッタが控えていた。先ほどの会話に加わりはしなかったが、全てのやり取りを聞いていた。


「……と言う事だ。ベスティアを疑う余地はないが、彼女の生き残りが勝手に動いている可能性は否定できないな」


「ですが、現状ではその心配は殆どないかと」


「……もしもそのように不逞な輩がいたとしても……襲撃を今この時に選んだ理由が……分かりません」


 ベスティアとの会話を基に、3人はそれぞれに感想を述べていた。シェキーナは一抹の疑念を口にしたのだが、それを2人が否定する。

 ベスティアの一族に生き残りは非常に少ない。しかも、魔物使いの手練れとなれば数名を残すのみだ。

 仮に生き残り行動を別にする者たちが手練れの魔物使いだったとしても、それならば最も確実にシェキーナを襲うよう計画するだろう。無駄に手の内を相手に知らしめれば警戒され、実行を困難とするだけなのだ。アエッタの主張は、そこをも指摘している。


「フフフ……分かっているよ。私も、最初からベスティアが怪しいとは考えていない。それよりも……」


「はい、大変興味深い話です。一部の魔物は、他の魔物を使役する能力を持っていたとは……」


「……その事について……メルル様もご存じなかったようです」


 シェキーナが、わざわざ魔王城との通信を開きベスティアと会話したのは、何も彼女を疑っての事ではない。魔物に詳しい見識を持つ彼女から、何か手掛かりを得ようとしての事だった。そして今回、思いも依らない情報を得る事が出来たのだ。


「魔物を使役するか暗示をかけて、他の魔物を操らせる……概ね想像通りなんだが、魔物が元来より他の魔物を操れるなんて信じられないな」


「ですがよくよく考えれば、襲ってくる魔物が複数の種族混成である場合は、その可能性が高かったのでしょう」


「確かにな。そんな事など、考えもしなかったよ」


 シェキーナの疑念にムニミィが答え、それを聞いたシェキーナは感慨深く呟いた。襲ってくる魔物を屠る事を優先し、その魔物同士の繋がりなど思案したことが無かったのだ。そしてこれは、誰もが同じだろう。


「……まだまだ、世の中には……知るべき事が残されているのですね」


 稀代の賢者と謳われたメルルの知識を受け継いでいても、まだまだ新たな発見がある事に、アエッタはどこか嬉しそうだった。


「フフフ……。そんなところまで、メルルにそっくりだな。……さて」


 シェキーナの台詞に頬を染めて恐縮するアエッタだったが、シェキーナが話題を変える素振りを見せて真剣な表情を取り戻す。それは、そばで控えていたムニミィも同様だ。


「これまで気づく事も無かった、魔物が魔物を使役すると言う事実。今まで知る機会が無かったのは、それが然程脅威とならなかったからでしょう。せいぜい、襲い来る魔物の編成が厄介だと感じる程度かと。それだけならば、大した問題とはなりません」


「……そうだな。稀に、厄介な組み合わせの魔物どもに襲われた事はあったが、その編成の理由にまで思い至らなかった。思えば、その内の魔物が他を操り襲わせていたのだろう。だが今……そして、これからの問題となるのは……」


「……はい。……問題点は、それを利用している者の有無でしょう」


 これまでも、魔物が魔物を操り人を襲う事はあったかもしれない。事実シェキーナの指摘通り、あり得ないほど厄介な編成の魔物に襲われ辟易した事も、彼女自身何度も経験していた。それでも彼女は、それを悉く退けて来たのだ。喫緊の問題はそこではない。

 問題視しなければならなかったのは、それを利用して人を襲おうと考えている事だろう。そしてその標的が、いつ魔王城に……シェキーナに向くか分からない事だった。


「詳しくはエルナーシャたちが戻り、報告を聞いてから判断する方が良いだろうな。この場で全て決めてしまっては、今後に障る」


 シェキーナがこの場を締める言葉を発すると、ムニミィとアエッタは何も言わずに頭を下げて了解を示した。

 シェキーナは明言しなかったが、エルナーシャが戻ってから決定すると言う事は、すでに彼女が次代の事を視野に入れていると考えているからだ。

 それを2人も察したのだが、何も口に出さずに低頭したのは、シェキーナに心酔しているムニミィはその事に視野を向ける事を拒んだ結果であり、アエッタはその重圧を感じての結果だった。




 日も暮れてようやく、エルナーシャたちはバデラスの屋敷へと戻って来た。誰一人欠ける事無く帰還を果たしたのだが、彼女たちは一様に浮かない顔をしていた。


「……なるほど。結果としては、事態の原因究明には至らなかったと言う訳か……」


 あくまでも自然体で発したシェキーナの台詞だったが、それを聞いたエルナーシャはビクリと身を震わせて硬直していた。特に責めた風は無かったのだが、エルナーシャたちは一様に叱責を受けていると感じ取ったのだろう。

 張り詰めた空気が部屋を占め、重苦しい雰囲気が包み込もうとしたその直前。


「エルナーシャ様たちが調査へと赴いている間に、こちらでも可能な限りで調査を行いました」


 シェキーナのそばに控えていたムニミィが、眼鏡の蔓をクイっと持ち上げながら、眼前で恐縮するエルナーシャたちへと告げた。打ちひしがれた風だったエルナーシャたちだったが、その台詞に一斉に顔を上げてムニミィを注視する。

 だがその続きは、座するシェキーナを挟んで反対に佇むアエッタから齎された。全員の視線がそちらへ向く。


「私の……いえ、メルル様の開発中でした魔道具を完成させました。……限定的ですがそれを使って……遠方の離れた相手とも会話が出来ます。それにより……有力な情報を得ました」


 アエッタの話を聞いて、エルナーシャたちは全員が目を見開いて驚きを露としていたのだった。


エルナーシャたちを交え、シェキーナの御前で情報の共有が図られた。

そしてその内容によっては、今後の方針を決める大事なものでもあった。

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